アルコール検知器によるチェックが義務化される…はずだった
2021年11月10日、「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令」が公布され、2022年4月より「白ナンバー」の社用車を一定以上保有する企業に対し、アルコールチェックの義務化が決定されました。
もともとアルコールチェックは、運搬業や運送業などに用いられる「緑ナンバー」の社用車を保有する企業に対しては、2011年から義務化されていました。今回の改正法では、一般的な乗用車である「白ナンバー」の車を社用車として扱う企業に対しても、アルコールチェックを義務づけるというものです。
チェックの内容は、社内で「安全運転管理者」という担当者を選任し、その安全運転管理者が、社用車を運転する従業員に対し、運転前後に飲酒の有無を確認し、記録するというもの。2022年4月からは、酒気帯びの有無を目視で確認することがスタートしており、10月からは、アルコール検知器(アルコールチェッカー)で確認することを義務化することが決定していました。
ところが2022年9月、警察庁はアルコール検知器を使ったアルコールチェックの義務化について「無期限延期」することを発表。当面の間、白ナンバー車については4月から行われている目視による確認義務のみが継続されることになりました。
なぜアルコール検知器が行き渡らないのか?
なぜ、アルコール検知器によるアルコールチェックの義務化は、無期限延期されたのでしょうか?その大きな理由は、検知器の供給不足です。
警視庁が発表した資料(※)によると、アルコール検知器の業界から警視庁に対し、半導体不足、およびコロナ禍の物流停滞等により、10月までに十分な数のアルコール検知器を供給することが不可能な旨の意見書が提出されたといいます。
(※)警視庁「道路交通法施行規則及び自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律の施行に伴う道路交通法施行規則の規定の読替えに関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」について
半導体は、アルコール検知器のセンサー部分に使用されています。アルコール検知器のセンサー部分に息を吹きかけ、そこにアルコール成分が付着すると、電気の流れやすさ(電気抵抗値)が変化します。その変化量からアルコール濃度を数値として表示する仕組みになっています。
アルコール検知器には半導体を使った「半導体式」以外にも、「燃料電池式」(電気化学式)というものもあります。燃料電池式の検知器には、アルコールを燃料として発電するセンサーが搭載されており、そこに息を吹きかけることで発電された電気の量を、アルコール濃度に換算して表示します。
半導体式と燃料電池式を比べた場合、前者の方が小型で反応が速く、かつ安価というメリットがあります。もともとのニーズが高いうえに、半導体の不足とコロナの影響によって、半導体式のアルコール検知器の供給が追いつかなくなっているというわけです。
アルコール検知器協議会からの意見書を受けた警視庁は、2022年5月から6月にかけて、さまざまな企業の安全運転管理者に対してアンケート(※)を実施し、その結果、「必要台数の全てを入手済」と回答した安全運転管理者は、全体の37.8%に留まったといいます(有効回答数:4,365)。
(※)警視庁「道路交通法施行規則及び自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律の施行に伴う道路交通法施行規則の規定の読替えに関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」について
こうした状況を鑑みた警察庁は9月、検知器を用いたアルコールチェックの義務化を「当分の間、適用しないこと」を発表。再スタートのスケジュールについても、「現時点において、十分な数のアルコール検知器が市場に流通するようになる見通しが立っていないため、具体的な時期を示すことはできない」としています。
検知器の使用義務はないが、アルコール検査の義務は続く
ここまで述べてきたように、アルコール検知器を使用したアルコールチェックの義務化は、機材の不足により、無期限の延期となりました。とはいえ、検査の義務自体が無くなったわけではありません。
冒頭でも触れたように、2022年4月からは、目視によるアルコールチェックと記録保管の義務がスタートしています。つまり、アルコール検査機を使ったチェックが延期となっただけで、アルコールチェック自体の義務自体は残っています。つまり、目視のチェックは、今後もやり続ける必要があります。
警視庁からは、検知器の使用義務の延期と合わせて、10月から安全運転管理者の選任義務違反に対する罰金が5万円以下から50万円以下に引き上げられたことも発表されています。ずさんな検査体制をしている企業には、警視庁からペナルティが課せられるのは間違いありません。
アルコール検知器によるアルコールチェックが義務化される日は、いずれ訪れます。その日がいつ来ても良いように、企業は検知器無しでも十分な検査体制を構築しておくことが望まれます。
※本記事は2022年11月時点の情報を元に作成されています。