中小企業が利用しやすい補助金・助成金を紹介
資金の面で不安を抱えている中小企業も多いかもしれません。しかし、助成金・補助金を有効に利用することで、その課題を解決することも可能です。
補助金・助成金制度は、国の各省庁やその関連機関、地方自治体、民間の財団法人など多くの機関で実施しています。今回は、数多くある国の助成金・補助金制度の中から、主に中小企業が利用しやすい「雇用調整助成金」「IT導入補助金」「ものづくり補助金」「特定求職者雇用開発助成金」の4つを紹介します。
休業手当や従業員の教育・訓練費をカバーする「雇用調整助成金」
中小企業向けの補助金・助成金のなかの代表的な助成金の一つが、厚生労働省で実施している「雇用調整助成金」です。雇用調整助成金とは、労働者の雇用の維持を図るための休業手当など、一時的な雇用調整(休業、教育訓練、出向)を実施した際の費用を助成する制度です。
支給の対象
雇用調整助成金の支給対象は、景気の変動などの経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主です。雇用調整を実施する事業主に対して支払われるもののため、労働者個人には支給されません。
受給要件
雇用調整助成金の受給要件は、主に以下の5点となります。
・雇用保険の適用事業主であること
・売上高などの指標の直近3か月間の月平均が、前年同期比で10%以上減少していること
・雇用保険を適用している労働者数が受給要件を超えていないこと
・協定に基づいて実施された休業や教育訓練などの雇用調整を行っていること
・過去の受給から直前の対象期間の満了日の翌日から起算して1年を超えていること
支給額
雇用調整助成金は、休業を実施した場合の休業手当や教育訓練を実施した場合の賃金相当額、出向を行った場合の出向元事業主の負担額に対して支給されます。支給額は、中小企業の場合、原則的な措置では最大3分の2、補助上限額は1人1日あたり8,335円です。休業・教育訓練の場合、その初日から1年間で最大100日分、3年間で最大150日分が支給され、出向の場合は最長1年の出向期間中に受給できます。
詳細は厚生労働省の「雇用調整助成金」(※)でご確認ください。
(※) 厚生労働省「雇用調整助成金」
PCやタブレットなどの購入費にも適応する「IT導入補助金」
ITを導入したくても、費用的な負担が大きく断念している企業もあるかもしれません。独立行政法人中小企業基盤整備機構では、ITの導入を検討している中小企業や小規模事業者に対し、「IT導入補助金」という補助を受け付けています。
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者などが生産性向上を目的として、自社の課題やニーズに合ったITツール(ソフトウェア、サービスなど)の導入を支援するものです。令和4年度分の通常枠は締め切られていますが、令和6年度まで公募が続くことが発表されています。
IT導入補助金には、ソフトウェア費やクラウド利用費など費用が対象の「通常枠」、セキュリティインシデントを防ぐ目的の「セキュリティ対策推進枠」、会計ソフトなどの「デジタル化基盤導入枠」があります。さらに、これらの枠以外にも、PC、タブレット、レジなどのハードウェアの購入費についても補助の対象となっています。
支給の対象
IT導入補助金の支給対象はそれぞれの枠ごとに異なりますが、共通しているのは中小企業・小規模事業者が対象であることです。補助金の対象となるツールは、補助金を扱う事務局の認定を受けたもののみとなります。事務局のポータルサイトのITツール検索で確認するか、ツールを提供する販売業者に補助金の対象となっているのか、事前に確認しておく必要があります。
受給要件
IT導入補助金の受給要件は「資本金と従業員数が業種ごとに定める基準内であること」です。たとえば、製造業、建設業、運輸業では、資本の額または出資の総額が3億円以下、常勤従業員が300人以下の企業が対象となります。小売業であれば資本金5000万円以下、従業員数50人以下と、業種・組織形態ごとに定められています。
補助額
今年度の補助額は「通常枠」で5万~450万円以下、「デジタル化基盤導入枠」では50万円超~350万円、「セキュリティ対策推進枠」では5~100万円となっています。補助率は、ソフトウェア購入費などの「通常枠」は購入額の2分の1以内、「デジタル化基盤導入類型」の会計ソフトや決済ソフトの補助対象については、50万円以下の場合は購入額の4分の3以内、50万円~350万円の場合は購入額の原則3分の2以内となります。
詳細は一般社団法人サービスデザイン推進協議会の「IT導入補助金2022」(※)でご確認ください。
(※) 一般社団法人サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2022」
さまざまな業種が対象となる「ものづくり補助金」
「ものづくり補助金」とは「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の略称で、中小企業庁と独立行政法人中小企業基盤整備機構が制度化した補助金です。生産性向上を実現するためのサービスの開発、試作品開発、生産プロセス改善のための設備投資支援が目的とされています。
この補助金は、中小企業による設備投資などを支援する「通常枠」、海外拠点での活動や海外事業の拡大・強化などを目的とした支援の「グローバル市場開拓枠」、業況が厳しい事業者に向けた「回復型賃上げ・雇用拡大枠」、DXのための開発などの「デジタル枠」、温室効果ガス排出削減などの取り組みに応じた「グリーン枠」があります。
さらに14次公募からは「大幅賃上げへの支援」「海外展開支援の強化」などの見直しや拡充がされる予定です。
支給の対象
ものづくり補助金の支給対象は、生産性向上につながる設備の導入であれば業種を問いません。
受給要件
ものづくり助成金の通常の事業者の受給要件は下記のとおりです。
・申請時点で日本国内に本社・補助事業実施場所がある事業者
・資本金もしくは従業員数が一定数以下の事業者
・3~5年の事業計画の策定および実行を行い、条件を満たした事業者
企業規模は、業種によって資本金と従業員数の上限がそれぞれ定められており、いずれかが基準以下であれば対象となります。製造業、建設業、ソフトウェア業では資本金が3億円以下、従業員数が300人以下です。小売業であれば資本金5,000万円以下、従業員数50人以下となります。
補助額
ものづくり補助金は、「通常枠」「回復型賃上げ・雇用拡大」「デジタル枠」で最大1,250万円、「グリーン枠」は最大4,000万円、「グローバル市場開拓枠」は3,000万円を上限に支給されます。補助率については、「通常枠」「グローバル市場開拓枠」では原則2分の1となり、そのほかは3分の2です。
詳細は全国中小企業団体中央会の「ものづくり補助金総合サイト」(※)でご確認ください。
(※) 全国中小企業団体中央会「ものづくり補助金総合サイト」
雇用することで助成金が受け取れる「特定求職者雇用開発助成金」
「特定求職者雇用開発助成金」は、雇用されることが困難と思われる特定の求職者(障がい者、高齢者、母子家庭の母親など)を一定の条件下で雇用した場合に、事業主に支払われる助成金制度です。対象者別に7つのコースがあります。
2022年12月2日より、助成金の各コースの対象労働者の訓練と賃金引上げを行う場合、通常の1.5倍を助成するメニュー(成長分野等人材確保・育成コース)が新設されました。
本記事では、「特定就職困難者コース」と「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」の2つのコースに絞って取りあげます。
特定就職者困難者コース
「特定就職者困難者コース」は、ハローワークの紹介により、継続雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に助成される制度です。
支給の対象
支給対象となる労働者は、高年齢者(60歳以上65歳未満)、身体・知的障がい者や重度障がい者、母子家庭の母などの就職困難者です。
受給要件
受給要件は、原則としてハローワークや地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者などの紹介を受けて雇用することです。
支給額
支給額は、短時間労働者以外の高年齢者、母子家庭の母などは60万円(対象期間1年)、重度障がい者を除く身体・知的障がい者は120万円(対象期間2年)、重度障がい者などは240万円(対象期間3年)となります。
短時間労働者(週20時間以上30時間未満)の場合は、高年齢者や母子家庭の母などは40万円(対象期間1年)、重度障がい者などを含む身体・知的障がい者は80万円(対象期間2年)です。雇い入れてからすぐに申請できるのではなく、各期6か月間の支給対象期を経過した翌日から申請が可能になります。
詳細は厚生労働省の「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」(※)でご確認ください。
(※) 厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」は、ハローワークの紹介により、障がい者手帳の取得にかかわらず、発達障がいや難病のある方を継続して雇い入れる事業主に対して助成し、雇用と職場定着を促進するための助成金です。
支給の対象
一般的な障がい者に対する雇用関連の助成金制度は、雇用の対象が障がい者手帳を取得している人でなければ対象になりません。しかし、発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コースの助成制度の対象者は、障がい者手帳を持っていなくても、医療機関で「障がい者としての診断」を証明されている65歳未満の人であれば、助成金支給の対象となります。
受給要件
このコースの受給要件は、ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介により雇い入れることと、雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実であること、この2つを満たす必要があります。
支給額
支給額は、中小企業の場合、いずれも対象期間が2年間で、短時間以外の労働者は120万円、短時間労働者(週20時間以上30時間未満)は80万円となります。
詳細は厚生労働省の「特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)」(※)でご確認ください。
※ 厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)」
今回紹介した助成金・補助金は、多数あるうちのごく一部です。企業の課題解決や環境の整備などに役立つものを探し、ぜひ活用しましょう。なお、助成金・補助金は募集の上限に達すると締め切られたり、毎年度同じ内容ではないことがあります。公募の度に要件や内容を確認するようにしましょう。
(監修者)
稲村優貴子
FP For
You代表。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。「一人ひとりに寄り添ったマネープランをサポートする」をコンセプトに、多くの相談や講演、記事執筆・監修、メディア出演などで幅広く活躍。得意分野はライフプラン、保険、年金、資産運用ほか。著書は『年収の2割が勝手に貯まる 家計整え術』(河出書房新社)。
※本記事は2022年12月時点の情報を元に作成されています。補助金・助成金に関する最新の情報は該当するホームページなどでご確認ください。