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【2023年版】中小企業の「賃上げ」を
サポートする助成金・支援制度

【2023年版】中小企業の「賃上げ」をサポートする助成金・支援制度

中小企業が従業員の賃上げに取り組むことで、いくつかの助成金・税制優遇制度が利用できます。本記事ではその中から、4つの制度を取り上げます。

目次

監修者プロフィール

稲村優貴子

FP For You代表。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。「一人ひとりに寄り添ったマネープランをサポートする」をコンセプトに、多くの相談や講演、記事執筆・監修、メディア出演などで幅広く活躍。得意分野はライフプラン、保険、年金、資産運用ほか。著書は『年収の2割が勝手に貯まる家計整え術』(河出書房新社)。

中小企業が賃上げするメリットとは?

岸田内閣総理大臣は2023年1月の記者会見で、物価上昇率を超える賃上げの実現をめざす方針を示しました。大手では賃上げに取り組む企業もありますが、一方で大企業と比べると資金力に劣る中小企業は、すぐに賃上げを行えないかもしれません。

賃上げは、人材採用率や従業員の定着率の向上につながります。求職者や転職者にとって、高い給与は職選びの決め手となります。既存の従業員にとっても、給与が上がることはモチベーションの向上や自身の成長意欲につながります。

中小企業でもこうした賃上げがしやすいよう、中小企業庁と厚生労働省は、令和5年4月に「最低賃金・賃金引き上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策紹介マニュアル」という資料を公開しました。この資料は中小企業が賃上げに利用できる助成金や税制優遇制度をまとめたもので、最低賃金・賃金引上げに関する支援策として4つの助成金・税制優遇制度が取り上げられています。以下、同資料で取り上げられている4つの制度を順に紹介します。

賃上げ額と対象人数が多いほど助成額が多くなる「業務改善助成金」

「業務改善助成金」は、生産性向上に資する設備投資を行ったうえで、事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資にかかった費用の一部を助成する制度です。ここでいう設備投資とは、たとえばパソコンやスマホ、POSレジの導入、経営コンサルタントによる業務フロー見直しにかかる費用などのことを指します。

【適用要件】

「業務改善助成金」の適用要件は下記の3点です。要件をすべて満し、事業場ごとに申請します。

  • 中小企業・小規模事業者であること
  • 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内であること
  • 解雇・賃金引き下げなどの不交付事由がないこと

【助成額】

助成される金額は、生産性向上に資する設備投資などにかかった費用に対して、要件に応じた「助成率」をかけた金額と、助成上限額とを比較し、いずれか安い方の金額です。

たとえば、設備投資の金額が200万円で、助成率が9/10、助成上限額が230万円の場合、180万円が助成されることになります。

加えて、助成上限額は、最低賃金の値上げ額によって、4つのコース(30円/45円/60円/90円)にわかれています。そのコースに応じて、賃金を引き上げる労働者数ごとに助成額が変わってきます。たとえば、「90円コース」の場合、1人引き上げると90万、10人以上では600万円が助成されます。

コースごとの助成上限額は下記のとおりです。

コース区分 事業場内最低賃金の引き上げ額 引き上げる労働者数 助成上限額
30円コース 30円以上 1人 30万円(60万円)*1
2〜3人 50万円(90万円)
4〜6人 70万円(100万円)
7人以上 100万円(120万円)
10人以上*2 120万円(130万円)
45円コース 45円以上 1人 45万円(80万円)
2〜3人 70万円(110万円)
4〜6人 100万円(140万円)
7人以上 150万円(160万円)
10人以上*2 180万円
60円コース 60円以上 1人 60万円(110万円)
2〜3人 90万円(160万円)
4〜6人 150万円(190万円)
7人以上 230万円
10人以上*2 300万円
90円コース 90円以上 1人 90万円(170万円)
2〜3人 150万円(240万円)
4〜6人 270万円(290万円)
7人以上 450万円
10人以上*2 600万円

*1 ( )内の助成上限額は事業場規模30人未満の事業者のみ対象。
*2 10人以上は、事業場内最賃900円未満、またはコロナ禍で売上などが30%以上減少している事業者が対象。

【申請期間】

令和5年度分の申請締切は、令和6年1月31日までです。事業完了期限は令和6年2月28日となっています。

詳しくは、厚生労働省の「業務改善助成金」のページを確認ください。

有期雇用のスタッフの賃上げで助成金を受け取れる「キャリアアップ助成金」

「キャリアアップ助成金」は、短時間労働者や派遣労働者などの非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組みを実施した事業主に支給される助成金です。この助成金には、さまざまなコースが用意されており、そのなかの一つの「賃金規定等改定コース」は、有期雇用労働者等の基本給(賃金規定)を3%以上増額改定した場合に、事業主に対して助成を行うコースです。ここでは、中小企業の賃上げに利用しやすい賃金規定等改定コースの適用要件や助成額について紹介します。

【適用要件】

キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースの適用要件は下記の3点です。このすべてに該当する必要があります。

  • 賃金規定等を増額改定する前日までに「キャリアアップ計画」を作成し、最寄りの労働局へ提出していること
  • 有期雇用労働者等の基本給を賃金規定等に定めていること
  • 賃金規定等を3%以上増額改定し、改定後の規定に基づき6か月分の賃金を支給していること

【助成額】

助成額は下記のとおりです。賃金の引き上げ率により助成額が変わります。

賃金の引き上げ率 助成額(中小企業の場合)
3%以上5%未満 5万円(賃上げをした労働者一人につき)
5%以上 6.5万円(賃上げをした労働者一人につき)

たとえば、中小企業の非正規雇用労働者のうち、パートタイマー20人の基本給を5%以上引き上げた場合は、130万円が助成されます。

加えて、1年度1事業所あたりの支給申請上限人数は100人です。このコースでは、職務評価(パートタイム・有期雇用労働法に基づき、職務分析・職務評価の手法を用いて公正な待遇の確保に取組むこと)を行った上で、賃金規定等を改定した場合は、1事業所あたり20万円が加算されます。

【申請期間】

令和5年度は、上記の内容で実施予定です。しかし、予算の成立および雇用保険法施行規則の改正が前提のため、実施開始までに内容が変更される可能性があります。具体的なスケジュールは、今後の発表に注目する必要があるでしょう。

詳しくは、厚生労働省の「キャリアアップ助成金」のページを確認ください。

賃上げで税金が控除される
「中小企業向け賃上げ促進税制」

「中小企業向け賃上げ促進税制」は、青色申告書を提出している中小企業が、一定の要件を満たした上で前年度より賃金引き上げを行った場合、その増加額の一部を法人税、または所得税から税額控除できる制度です。

【適用要件と控除率】

中小企業向け賃上げ促進税制では、適用要件が「通常要件」と「上乗せ要件」でわかれています。それぞれの適用要件と控除率は下記のとおりです。

適用要件(通常要件) 税額控除率
雇用者給与等支給額が前年度と比べて 1.5%以上増加 控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額又は所得税額から控除
雇用者給与等支給額が前年度と比べて 2.5%以上増加 控除対象雇用者給与等支給増加額の30%を控除
適用要件(上乗せ要件) 税額控除率
教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加 税額控除率を10%上乗せ

たとえば、通常要件の場合で、前年度の給与等の支給額が5,000万円、適用年度が5,200万円のケースでは適用判定の割合が4.0%となり、要件を満たすため15%控除されることになります。

【申請期間】

令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象です。加えて、個人事業主の場合は、令和5年および令和6年の各年となります。

詳しくは、経済産業省と中小企業庁の「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」をご確認ください。

賃上げした企業に特化した融資が利用できる
「企業活力強化貸付」

「企業活力強化貸付(働き方改革推進支援資金)」は、店舗などの事業場内で、パート・アルバイトなどの非正規雇用者を含む最も低い賃金(事業場内最低賃金)に対して、2%以上の賃金引き上げに取組む中小企業・小規模事業者を対象に、設備資金や運転資金を低金利で融資する制度です。

【適用要件】

企業活力強化貸付の適用要件は下記にあてはまる方となります。

  1. 非正規雇用の処遇改善に取組む方
  2. 事業場内最低賃金の引き上げに取組む方
  3. 従業員の長時間労働の是正に取組む方
  4. 次世代育成支援対策推進法または女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、その旨を都道府県労働局長へ届け出ている方、および女性活躍推進法第9条に基づく認定を受けた方
  5. 青少年の雇用の促進などに関する法律に基づく認定を受けた方
  6. 障害者の雇用または障害者に対する合理的配慮の提供に取組む方
  7. 外国人労働者の雇用管理の改善に取組む方

1~4、6、7の方については、社会保険か労働保険への加入義務がある法人の方の場合は加入している必要があります。

【貸付限度額】

中小企業事業の場合では、最大7億2,000万円(うち長期運転資金2億5,000万円)です。

【申請期間】

融資の申込みは直接貸付となるため、日本公庫各支店の中小企業事業窓口での申請となります。貸付期間については、設備資金は20年以内(うち据置期間2年以内)。長期運転資金は7年以内(うち据置期間2年以内)です。現在の時点では終了の情報はありません。

詳しくは、日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金」をご確認ください。

中小企業では、経営環境が厳しい状況が続いています。今回紹介したような、賃上げに関する取組みに利用できる助成金などの要件に当てはまっているのであれば、活用しない手はありません。賃上げは労働者のためだけでなく、自社のビジネス改善にもつながる側面もあります。このような制度の利用は、進んで検討してみるべきでしょう。

※本記事の内容は2023年4月現在の情報で作成されています。最新の情報は関連省庁のホームページなどでご確認ください。

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