(回答者紹介)
回答者:広江朋紀さん 株式会社リンクイベントプロデュース ファシリテーター 2002年、リンクアンドモチベーション入社。HR領域のエキスパートとして、採用、育成、キャリア支援、風土改革に20年以上従事し、講師・ファシリテーターとして上場企業を中心に1万5000時間を超える研修やワークショップの登壇実績を持つ。著書に『場をつくる~チーム力を上げるリーダーの新しいカタチ~』(明日香出版社)、『問いかけて心をつかむ 「聞く」プレゼンの技術』(翔泳社)など。
今回の悩み
「最近よく『エレベーターピッチ』という言葉を外資系の方々から聞きます。今まであまりなじみがなかったのですが、今の社長は外資系出身で『今すぐ端的に状況を説明しろ』と求めることが多いのです。これまでは会議などで時間をかけてたくさんの資料を使って説明することが多かったので、いつもしどろもどろになってしまいます。上層部に短時間でパッと納得してもらえる話し方を身につけるには、どうしたらいいですか?」
広江さんの回答
ご相談ありがとうございます。
ピッチとは、元々はシリコンバレーなどで起業家が“エンジェル”と呼ばれるような投資家に、短い時間の中で投資を決断させるためのプレゼンテーションのことを指します。
投資家は分刻みに忙しい人が多く、無名の起業家がアポイントを取るのは難しい。だからこそ、投資家がエレベーターを待っている時間やエレベーターで移動しているわずかな隙間時間を使ってでも、相手を説得し、投資を決めさせる上で非常に重要なプレゼンです。
しかし、1分で要点をまとめ切るのは難しいですよね。
日本で行われるピッチコンテストは、7分程度で行われているものが多いようです。そこで、まずは、10分以内で相手が行動に移せるような具体的で解像度の高いプレゼン(説得できる話)を目指してみてはいかがでしょうか。
アンサーファースト(最初に結論)のプレゼン
外資系では「アンサーファースト」といわれ、話すときは結論から求められます。しかし、日本はハイコンテクスト(文脈や背景)を読む文化なので、結論の前に必然性や条件などを話しがちです。
欧米の小論文の書き方やスピーチでは、「PREP法」といって、結論(Point)→理由(Reason)→具体例(Example)→結論(Point)で構成される話し方がいいといわれています。
つい、熱い思いやビッグアイデアを語りたい気持ちが先行すると、パッション(情熱)先行で描いている夢を語りがちですが、それだけでは投資家の経済合理軸の心は動かせません。将来性を感じさせる解像度の高いエビデンス(証拠)を示すことが重要なのです。
パッションだけではないロジック(論理)も必要なのです。
ピッチにも効果的に伝えるための構造があります。それを整理して、自分のロジックやパッションをどこに入れるべきか考えてみましょう。
下記に、概要を紹介します。
話したい内容を構造化して考える
では、順々に説明をしていきましょう。
1. オープニング(WHYアンサー)
新しいプロダクトやサービスに込めた自分の思いを一言で表すキーメッセージを示しましょう。いきなり商品やサービスの内容に入ってしまわずに、自分は、なぜそのサービスを世に問いたいと思ったのか、込めた思い(WHY)を端的に伝えます。
2. 顧客と課題
対象となる顧客がどこにいて、どんな悩みや課題を抱えているのかというターゲットの存在やペルソナ(ユーザー像)を明らかにします。自分が作った商品に課題や相手がなくては意味がありません。ただターゲットの話をするというよりは、その人たちが抱えているリアルな悩みが何であり、それを解決するために商品やサービスが必要であるということを伝えます。
3. 課題解決策
顧客や社会が抱えている課題をあなたの商品やサービスがいかにして解決することができるのかを語ります。ただ、あまり詳細に、仕様や機能の説明をすると相手の注意力が持たないのでほどほどに。
4. 競合優位性
自分では、自社の商品やサービスをオンリーワンの画期的な商品やサービスと思い込んでいても、基本的には、類似商品やサービスが必ず存在します。天狗にならずに、競合他社、ライバル会社と自社の違いや、優位性、ときには劣位性を分析し、伝えます。優位性と劣位性、両方伝えることを「両面訴求」と呼びますが、相手に真正さが伝わり印象も良くなります。
5. マーケットサイズ
どのくらいの市場規模があるのか、今後の成長規模はどのくらい見込めるのかということを伝えることで、投資回収のめどをつけてもらいます。
6. 将来の展望
将来のサービスの進化や展望、導入によって生活シーンがどう変わるのか、見込める利益などを語ります。
7. 実績
安心材料として、自社の過去の実績、メンバーの経歴、保有している技術など具体的な実績を伝え、この商品やサービスを提供するための確かな基盤があることを伝えます。
8. 要望(BIG ASK)
ここでいよいよどれだけの予算が必要か、いくらくらいの投資をしてほしいのか、具体的な希望の数字(価格)を伝えます。
9. クロージング
最後の締めでは、オープニングで話したキーメッセージ(WHY)を改めて明確にし伝えて印象のピークエンドを残して終わります。
ロジックとパッションをハイブリッドに
詳細の紹介をしましたが、自社内で社長に端的に説明するプレゼンであればここまで細かくしないかもしれません。また、顧客に商材をプレゼンするときは、伝えなくてもよい項目(マーケットサイズなど)もあります。ぜひ、状況に合わせてこれらのポイントとそのバランスを確認してみるとよいでしょう。
思いばかりで数字が曖昧になっていないか、逆に数字ばかりで展望や実現可能性やパッションは伝わっているか?・・・・・・。確認してみてください。
最後に最も大事にしてほしいポイントは、プレゼンでは、「What(何が必要)、How(どのようにやるか)」という内容が多くなりがちですが、「Why(なぜ必要なのか)」を研ぎ澄ますこと。そして、思いが人を動かすからこそ、ロジックとパッションをハイブリッドさせていくことが大事なのです。短いプレゼンでも、一度事前に組み立ててからぜひトライしてみてくださいね。
この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
構成・編集:岩辺みどり
写真:鈴木愛子
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)