ハイブリッドワークのメリット/デメリット
まず、個人にとって「ハイブリッドワーク」にはどのような長所と短所があるのかを分析してみましょう。ハイブリッドワークを分析するということは、出社とリモートの長所と短所を比較することになりますので、その視点で整理していきます。
ビジネスパーソンにとって最も関心のある視点は、生産性でしょう。リモートワークの生産性に関しては「パーソル総合研究所」の調査が興味深いものになっています(※調査内ではテレワークと表記されていますが、ここでは同義として扱います)。
2022年7月の調査では、出社時を100としたときのリモートワーク時の主観的生産性については、平均89.6%という結果が出ています。2022年2月の調査時よりも5.4ポイント上昇しています。
ここで注目したいのが、職種別で生産性についてかなり開きがあるという点です。例えば、Webクリエイティブ職は100.2%。クリエイティブ職(デザイン、ディレクターなど)、企画・マーケティングは約96%と高い数字を出しています。この結果は実感と乖離していないでしょう。実際に私の周りのWebライターやデザイナーは、地方移住する人が増えています。
一方、想像に難くないのですが、製造や建築・土木系の技術職、販売職、個人向け営業などは平均より低い主観的生産性となっています。
コンサルタント、顧客サービス・サポート、商品開発・研究などは約90%で、出社よりも1割生産性が低いと感じているようです。
出社し越境することでイノベーションが生まれる
次に、生産性以外の点でも見ていきましょう。
リモートワークは、出社と比較して通勤による疲労やタイムロス、人間関係のストレスが軽減されると考えられています。確かに、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に毎日身を置くのはしんどいものがあります。
一方でリモートワークでは仕事のON/OFFがつけにくく、ストレスや孤独を感じやすい。コミュニケーションが減少しモチベーションが低下するといった短所も挙げられます。
さらにフルリモートだとキャリアの見通しが低くなる可能性が指摘されています。周囲にキャリアモデルとなる先輩がいないと先行きが見えにくくなるからです。
出社に関しては、悪い点ばかりではありません。周りとのコミュニケーションが取りやすくなる点やイノベーションの発想が生まれやすくなるといった長所が挙げられます。
コミュニケーションやイノベーションを大切にしてオフィスを設計した好例としては、ピクサー本社の「アトリウム」が有名です。
ピクサー本社では、社員同士の偶然の出会いと予期せぬコラボレーションを重視した設計がされているといわれています。建物に入ると最初に「アトリウム」と呼ばれる広大なエリアがあり、全社員と訪問者が自然と交流できる構造になっているのです。
クリエイティブ部署の人とテクニカル部署の人がアトリウムを自由に行き来して、偶発的に出会いコラボレーションした結果、イノベーションを生み出すことを期待したのです。
自分にフィットした「働き方」を選択する時代
このような点を踏まえて、個人としては働き方をどのように選択すればよいかを考えてみましょう。
まず、社会人経験の浅い人たちは、フルリモートには向かず、出社比率をできるだけ高めたほうがよいでしょう。特に新入社員については、出社比率を高めることをおすすめします。キャリアの見通しが立っていない点や、コミュニケーションの取りづらさが、業務上の致命傷になりかねないからです。
また、新入社員の多くはプライベートでの環境も大きく変わるタイミングです。そのため、孤独を感じやすくなっているので、心理的なサポートも重要になります。
あくまでも実体験なのですが、私は医者1年目を迎えたときに遠く離れた土地で就職しました。そのため、大学からの友人は一人もいない環境でした。しかしながら、職場の同期やひとつ上の先輩たちと寮生活をしていたので、激変した環境でも心理的に孤独を感じることなく、忙しい日々を乗り切ることができました。
現在、産業医として新人研修などを行うと「心が折れそうな日々に仲間と集まれる機会があってよかった」というアンケート結果が多く見られます。
人との関わりで「疲れるか/疲れないか」を判断軸にする
反対にある程度経験があり、プライベートでも孤独を感じにくい属性の人は、ある程度出社比率を下げても問題ないでしょう。具体的には社会人経験が豊富で、家族や友人が近くにいる人です。とはいえ、業務内容を考慮して出社比率を変える余地はあると思われます。
もう一点、個人が働き方を選ぶうえでは、自分が内向的なタイプか外交的なタイプかという視点も加味しておくとよいと考えます。自身が内向的か外交的かについては、究極には「人と関わって疲れやすいかどうか?」で判断します。
外交的なタイプの人は、人と関わってもあまり疲れません。むしろエネルギーがチャージされる人です。内向的なタイプの人は、人との関わりで疲れやすい人です。付き合いがよいかどうかという点は置いておいて、あくまでも「疲れるか/疲れないか」という視点で考えてみてください。内向的な人の出社率が高すぎると、社内の人付き合いで疲弊してしまうので、適度な出社を心がけるとよいでしょう。
判断軸に照らし合わせ「リモート適性」をジャッジする
以上から、自分にフィットした働き方を選ぶうえでは以下の判断軸があります。
- 通勤のストレスが高いかどうか
- 自分のキャリアの見通しが立っているかどうか
- リモートワークで生産性が下がり過ぎないかどうか
- 孤独を感じないかどうか
- 内向的なタイプか、外交的なタイプか
これらの判断軸に加えて、自分がどれだけイノベーションや発想を求めているかということも加味するとよいでしょう。色んな人と集まってイノベーションや発想を生みたいと思う人は出社比率を高めて交流を増やすとよいでしょう。もちろん、オフィス出社にこだわらなくても、色んな人と会う手段があるので、そちらに重点を置くのもよいでしょう。
試行錯誤を繰り返しベストな働き方を見いだす
企業や業務内容だけでなく、「働き方」にも選択肢が増えたのが今の世の中です。同じ仕事をするにしても、出社するのかリモートワークにするのかをライフワークバランスを考えながら選択する必要が出てきたのです。
今回は、「リモート適性」について考えるための機軸についてお伝えしました。「リモート適性」が高いからといってフルリモートにする必要はありません。リモート比率を今よりも少し高めにしてみるといった試行錯誤を重ねつつ、ご自身のベストな働き方を見いだしていきましょう。
堤多可弘(つつみ・たかひろ) 医師。東京出身。青森の弘前大学を卒業後、全国で精神科医・産業医やセミナー講師、メンタルへルスアドバイザーを務めている。産業医・精神科医として企業と従業員それぞれの立場に立ったアドバイスに定評がある。
この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
文:堤多可弘
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:松浦美帆、野上英文