オウンドメディアがうまくいかない理由は、企業広告に徹するから
知名度やブランド力アップや企業カラーに合った求人を成功させるために、企業が積極的にオウンドメディアで発信する時代になりました。
しかし、立ち上げたものの、運営しきれず放置状態になっていたり、担当者がおらず運営できずにいたりするオウンドメディアも多くあります。力を入れているつもりなのに、内部関係者しか読んでいないメディアも……。
では、多くの人に読まれるメディアと読まれないメディアに二極化しがちなのはなぜでしょうか。
読まれるオウンドメディアと読まれないオウンドメディアの違いは、「目的やゴールが明確で、そこに伝わる文章が書けているかどうか」と語るのは、現在、経営者の言語化やコンテンツ化をサポートする顧問編集者の会社を経営している株式会社WORDSの代表取締役・竹村俊助さん。
「オウンドメディアと言っても、読んでいる人は企業の広告ではなく、コンテンツだと思って読んでいます。『この社長は、こんなことがやりたいんだ』というのが面白くて、ファンになったり、フォローしたりするんです。仰々しく『第一に我が社は』と語るのではなく、飾らない言葉で自身の思いや生き方、失敗談を語っただけで、多くの人にリーチして、何人かのファンを獲得することができるなら、すごい価値ですよね」
オウンドメディアが世に出てきたのは2011年ごろ。14年ぐらいからブームになりました。『トヨタイムズ』や『サイボウズ式』などが出てきて話題になり、自社発信が主流になってきましたが、当時は、セオリーもハウツーもルールも確立されておらず、迷走するメディアも少なくありませんでした。
SEO対策よりも読者を見て、コミュニケーションを
「オウンドメディアの記事が読まれずに終わってしまう理由のひとつは、競合他社の発信や検索エンジンに目を向けるばかりで、読者を見ていないということ。オウンドメディアは企業からの情報発信だと考えがちですが、本来はコミュニケーションツールであることを忘れてしまいます」
その後、SNSが出てきてTwitter(現X)が盛り上がり、インスタやYouTubeなどで動画で発信できるようになりました。メディアが多極化して、企業の広報活動も複雑化しています。
その中で上手にオウンドメディアを使いこなし、読まれる地位を確立するのは困難にも見えます。
「ライバルは他社のオウンドメディアではなく、世界中にあふれるエンタメのコンテンツです。また、読者は広告だと思って記事を読むわけではありません。社長が自社の新たな取り組みや事業内容、理念、ビジョンを硬い言葉で発信したところで、誰が読むでしょうか。人は会社ではなく人に興味を持ちやすい。会社として伝えたいものを無理やり読んでもらおうと頑張るよりも、まずは、社長の人となりが伝わるコンテンツを作ることが大切です」
読み手との温度差に気づかないと伝わらない
竹村さんは起業前、ダイヤモンド社などの出版社で多くのビジネス書の編集を手掛けてきました。経営者の言語化、コンテンツ化をサポートする「顧問編集者」の会社を経営する中で、改めて、情報を発信しようとする経営者と、受け取る読者に温度差を感じたといいます。
「人は『主観的』に動いています。企業の経営者の場合も自社のことで頭がいっぱいで、客観性を欠き、世間がどう思っているのかを見失いがちです。その状態で発信すると読み手との間にどうしてもギャップが生まれてしまいます。言いたいことと聞きたいことがずれているんです」
企業のキャッチコピーや商品名に、いわゆる「キラキラネーム」をつけてしまうことも少なくないようですが、それも社外からの視点を忘れてしまうが故に起きる温度差といえます。
「よく『仕事』を『志事』のように当て字にしたり、『思い』を『念い』と書いたりするような企業を見かけます。もちろん社内で使うぶんにはいいと思いますし、企業側に並々ならぬ思いがあるのは伝わってくるのですが、社外の人がそれを読んだときにどう感じるのか……客観性が欠けているんです」
企業内で盛り上がっているときこそ思い出してほしいのが、主観が強すぎると自意識過剰になってしまうということ。一方で、読み手、社外の人は意外と冷めているときだという竹村さん。
「こちらの温度と同じ温度で見てくれるわけではありません。大事なのは客観性です。読者の視点に立って『その企業の情報を読む必要性』を感じてもらうにはどうすればいいのかを、視野を広げて真剣に考えなくてはいけません」
客観性を失うと社外には伝わらない
自社発信がうまくいかない理由に、紙媒体からオウンドメディアへの移行によって生まれた、「編集機能の喪失」があると竹村さんはいいます。
「これまで、企業が何かを発信しようと思ったら、内部の広報がメディアとやり取りをして、雑誌やテレビ、新聞などに取り上げてもらうというのが主流でした。企画、記事は媒体側の編集者がやっていました。これが、媒体がネット上に変わって、自社発信するようになったときに、失われたのは編集力です。広報の人は編集の経験がありません。自社のことをメディアで発信してみたところで、それはコンテンツになっていない。だから、誰にも見られないということが起きるんです」
企業でオウンドメディアやSNSでの発信がうまくいかないとき、コンテンツを企画し、編集するリソースが足りていないことにあるという竹村さんは、PRや広報の軸足が企業の側にあることも、大きな壁になっているといいます。
「魅力的なコンテンツを企画するのに必要なのは、『客観性』です。経営者も広報も、内部から外の景色を見ていて、外からの視点を持つことが難しい。人が自分のことがわからないように、企業のことも内部にいる人にはわからないもの。主観的になりすぎると、外から中がどう見えているのか、俯瞰して見ることができなくなります。これでは、良いコンテンツは作れません」
経営者に対して内部の人間は遠慮気味になるという竹村さん。編集者が俯瞰して見ることによって、「思い切って書いてみたほうがいいですよ」「読者はきっとこっちに興味があるので、こっちもお話しいただけませんか」と背中が押せるのだといいます。
「編集力、客観性を持つために、外部の利害関係のない人に意見を聞いてみる。または、新卒で入りたての社員に意見を聞いてみるのもいい。その人が、何を面白いと思うのか、何がわかりにくい、面白くないと思うのか。それだけでも、発見があると思います」
SNSやnoteが読まれない理由
Twitter(現X)やnoteなどで経営者自身が思いを発信する機会も増えていますが、同じように、読んでくれる人が増えずに頓挫することも少なくないようです。
竹村さんは「社長の隣に編集者を」をキャッチフレーズに、顧問編集者として経営に携わっていますが、多くの経営者が自社や自身の魅力に気づいていないといいます。
「外部の利害関係のない人間だからこそわかることがあります。『この取り組み、面白いですね』とか『実は御社の強みはここじゃないですか』と指摘してあげることで、経営者自身の発見につながって経営に役立ったり、今まで見えていなかった魅力が多くの人に伝わることで採用につながったりする。顧問編集者をやるようになって、ビジネスにも編集の視点が必要なのだということがわかったんです」
経営者がリスクを恐れ過ぎていることも、読まれるSNSや記事が生み出せない理由だといいます。
「炎上をやたら恐れる傾向がありますが、僕が伝えているのは、それほど世間は一人の人間に関心を寄せていないということ。世に言葉を発信すれば思わぬ不快感を抱く人は出てきます。発信することにリスクはもちろんありますが、発信しなければ何も始まりません。僕が企業の経営者の言葉を編集してきて実感したのは、めったに炎上などしないということ。逆にボリュームを上げないと炎上どころか、誰にも聞こえないのだということです」
経営者自身の体温が伝わる言葉のほうが、人には伝わりやすく、ファンになってくれる人も増えます。その結果、「この会社で働きたいと思う人を増やしていける」という竹村さん。
「求人にしても、今は企業のほうが選ばれる側です。経営者の言葉がきちんとコンテンツになって届くことで、働きたいという人が出てきて、ミスマッチも減ります。会社側が履歴書のように、今まで取り組んできたこと、ビジョンの裏側にある思いを発信していかないといけない時代だと思います」
後編では、竹村さんが、経営者や会社が自社発信するときに試してみてほしい、具体的な4つの方法についてお伝えします。
この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております。
取材、執筆:MARU
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編集:岩辺みどり