監修者プロフィール
當舎 緑
當舎社会保険労務士行政書士法務事務所の代表。社労士としての顧問契約、行政書士としての法律相談、ファイナンシャルプランナーとしての相談、ライフプラン作成、執筆、セミナー講師など多岐にわたって活動している。近年は、一般社団法人ウーマンライフパートナーの活動に参加して、女性のおひとりさまのライフプランや子育て家庭の家計相談にも取り組んでいる。
自社に合った補助金を探し出すのは難しい
中小企業を対象とした補助金制度は、各省庁およびその外郭団体をはじめ、都道府県や市町村といった各自治体単位で実施しているものもあり、全体としては膨大な数になります。こうした制度自体の認知度は決して高いとはいえず、中小企業の担当者が自社に合った制度を見つけ出すにはハードルが高いのが実情です。
また、補助金は融資ではないので返済は不要ですが、申請してから審査があり、採択の通知を受けます。しかし、採択されたからといって必ずしも受給できるわけではありません。事業を実施した後に、事業が申請した内容通りに行われていることを確認してから、適用された金額を受け取る流れになっています。
このように補助金は原則後払いであること、かかった経費の全額ではなく、認められた経費の一部をサポートする制度であることを理解したうえで、申請するかどうか判断する必要があります。
中小企業が受給できる可能性のある補助金4選
それでは中小企業を対象とした補助金にはどのようなものがあるのか、国が実施している補助金制度について具体例を挙げて解説します。今回紹介する4つの補助金は応募期間の締め切りが複数回設けられているなど、通年ベースで実施されているものです。なかでも「IT導入補助金」「ものづくり補助金」「小規模事業者持続化補助金」の3つは令和元年度以降、中小企業生産性革命推進事業の柱となる支援金制度に位置づけられています。
【IT導入補助金】製造業・建設業・運輸業・サービス業
業務の効率化を目的としたソフトウェアやクラウドサービスなどITツールの導入をサポートする制度です。「通常枠」のほかに、サイバー攻撃のリスクを低減する「セキュリティ対策推進枠」、企業間取引のデジタル化を促進するための「デジタル化基盤導入枠」があります。
「デジタル化基盤導入枠」は、受発注や決済ソフトに特化した「デジタル化基盤導入類型」、インボイス制度のための「商流一括インボイス対応類型」、サプライチェーンや特定の商圏が連携して取り組むための「複数社連携IT導入類型」に分かれています。「商流一括インボイス対応類型」は、中小企業との受発注に導入する場合のみ、大企業などの事業者も対象となります。
【適用要件】
「IT導入補助金」の主な適用要件は下記の通りです。このほか申請時に登録や確認が必要な事項があります。
- 中小企業・小規模事業者であること
※中小企業の定義は製造業・建設業・運輸業が資本金3億円以下、常勤従業員300人以下、サービス業が資本金5,000万円以下、常勤従業員100人以下など業種によって資本金、従業員の要件いずれかを満たすことが必要。 - 日本国内で法人登記され、国内で事業を営む法人であること
- 交付申請の直近月の最低賃金が法令上の地域別最低賃金以上であること
【補助額】
補助金額はそれぞれの枠によって異なります。申請に際しては対象となる経費や補助の割合、上限額などを確認しておく必要があります。なお、「通常枠」は対象となるソフトウェアの業務プロセスが1種類以上だと「A類型」、4種類以上だと「B類型」となり、補助額が変わってきます。
・通常枠
類型 | 補助額 | 補助率 |
---|---|---|
A類型 | 5〜150万円未満 | 1/2以内 |
B類型 | 150〜450万円以下 | 1/2以内 |
・セキュリティ対策推進枠
補助額 | 補助率 |
---|---|
5〜100万円以下 | 1/2以内 |
・デジタル化基盤導入枠
類型 | 補助対象 | 補助額 | 補助率 |
---|---|---|---|
デジタル化基盤導入類型 | ソフトウェア等 | (下限なし)〜50万円以下 | 3/4以内 |
50万円超〜350万円以下 | 2/3以内 | ||
ハードウェア(PC、タブレット等) | 10万円以下 | 1/2以内 | |
ハードウェア(レジ、券売機) | 20万円以下 | 1/2以内 |
・商流一括インボイス対応類型
補助額 | 補助率 |
---|---|
(下限なし)〜350万円以下 | 2/3以内 ※中小企業と受発注を行っている大企業などの事業者は補助率1/2以内 |
・複数社連携IT導入類型
経費区分 | 補助率 | 補助上限額 | |
---|---|---|---|
基盤導入経費 | 3/4以内 | 50万円以下×構成員数 | 3,000万円以下 |
2/3以内 | 50〜350万円×構成員数 | ||
消費動向等分析経費 | 2/3以内 | 50万円以下×構成員数 | |
事務費・専門家費 | 2/3以内 | 200万円以下 |
※デジタル化基盤導入類型と同様に50万円以下の部分と、50万円を超える部分で補助率が変わってきます。
※事務費・専門家費の補助上限額は(基盤導入経費の合計額)×10%×(補助率2/3)もしくは200万円のいずれか小さい額。
【申請期間】
IT導入補助金2023の後期募集は令和5年8月1日からスタートしており、複数回に分けて締め切りが設定されています。「通常枠」の場合、9次募集の締め切りが令和5年12月25日17:00、10次募集の締め切りが令和6年1月29日17:00となっています。これ以降については今後発表される予定です。
※上記には、参考として前回までの公募内容を記載しています。最新の情報は、サービス等生産性向上IT導入支援事業事務局の「IT導入補助金2023」のページをご確認ください。
※補助金の場合、受給率が100%ではなく、条件も予算によって異なってくる(もしくは厳しくなる)ことがあります
【ものづくり補助金】製造業・建設業・運輸業・サービス業
正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」で、中小企業や小規模事業者等が、革新的なサービスや試作品の開発、生産工程の見直しなどに取り組むことで、生産性を向上させるために行う設備やシステムへの投資をサポートする制度です。
「通常枠」に加え、賃上げや雇用拡大に取り組む事業者向けの「回復型賃上げ・雇用拡大枠」、デジタル技術の活用に重点を置いた「デジタル枠」、温室効果ガスの排出削減に取り組む「グリーン枠」、海外事業の拡大を目指す「グローバル市場開拓枠」があります。
【適用要件】
「ものづくり補助金」の主な適用要件は下記の通りですが、それぞれの枠に応じた申請要件があります。
- 日本国内に本社および補助事業の実施場所がある中小企業・小規模事業者、規定に該当する組合や特定非営利活動法人、社会福祉法人であること
- グローバル市場開拓枠のうち「海外直接投資類型」は、事業実施場所が日本国内のほかに海外にあること
【補助額】
補助金額はそれぞれの枠によって異なり、従業員数は応募時の常勤従業員数が対象となります。
申請枠 | 従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|---|
通常枠 | 5人以下 | 100〜750万円 | 1/2 ※小規模企業者、小規模事業者、再生事業者は2/3 |
6〜20人 | 100〜1,000万円 | ||
21人以上 | 100〜1,250万円 | ||
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 5人以下 | 100〜750万円 | 2/3 |
6〜20人 | 100〜1,000万円 | ||
21人以上 | 100〜1,250万円 | ||
デジタル枠 | 5人以下 | 100〜750万円 | 2/3 |
6〜20人 | 100〜1,000万円 | ||
21人以上 | 100〜1,250万円 | ||
グリーン枠(エントリー類型) | 5人以下 | 100〜750万円 | 2/3 |
6〜20人 | 100〜1,000万円 | ||
21人以上 | 100〜1,250万円 | ||
グリーン枠(スタンダード類型) | 5人以下 | 750〜1,000万円 | |
6〜20人 | 1,000〜1,500万円 | ||
21人以上 | 1,250〜2,000万円 | ||
グリーン枠(アドバンス類型) | 5人以下 | 1,000〜2,000万円 | |
6〜20人 | 1,500〜3,000万円 | ||
21人以上 | 2,000〜4,000万円 | ||
グローバル市場開拓枠 | - | 100〜3,000万円 | 1/2 ※小規模企業者、小規模事業者は2/3 |
【申請期間】
ものづくり補助金の16次公募は令和5年11月に締め切られましたが、今後17次公募が始まる予定となっています。
※上記には、参考として前回までの公募内容を記載しています。最新の情報は、ものづくり補助金事務局の「ものづくり補助金総合サイト」のページをご確認ください。
【事業再構築補助金】製造業・サービス業
事業再構築補助金は、コロナ禍による影響を受けて令和3年に新設された制度で、業績の回復が難しい中小企業等が新市場の開拓や事業・業種転換といった思い切った事業再編に乗り出すのをサポートします。
補助金には、成長分野への事業再構築の取り組みを支援する「成長枠」や、研究・技術開発、人材育成を行いながら課題に取り組む「グリーン成長枠」があるほか、これらいずれかの補助事業によって中小企業から中堅企業への成長を目指す上乗せ支援の「卒業推進枠」、補助事業を通して大規模な賃上げに取り組むための上乗せ支援「大規模賃金引上推進枠」があります。
このほかにも「産業構造転換枠」、「最低賃金枠」、「物価高騰対策・回復再生応援枠」などが設けられており、目的に合わせた類型に応募することができます。
【必須要件】
- 事業計画について認定経営革新等支援機関の確認を受けること
- 補助事業終了後3〜5年で付加価値額を向上させること
【適用要件】
「事業再構築補助金」の主な適用要件は下記の通りですが、それぞれの枠に応じて対象事業要件が定められています。
- 日本国内に本社がある中小企業、中堅企業、個人事業者、企業組合等であること
※中堅企業の定義は資本金10億円未満
【補助額】
補助金額の対象となる業種・業態はそれぞれの枠によって異なります。
申請枠 | 従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|---|
成長枠 | 20人以下 | 100〜2,000万円 | 中小企業者等:1/2(大規模な賃上げを行う場合は2/3) 中堅企業等:1/3(大規模な賃上げを行う場合は1/2) |
21〜50人 | 100〜4,000万円 | ||
51〜100人 | 100〜5,000万円 | ||
101人以上 | 100〜7,000万円 | ||
グリーン成長枠(エントリー) | 20人以下 | 100〜4,000万円 | 中小企業者等:1/2(大規模な賃上げを行う場合は2/3) 中堅企業等:1/3(大規模な賃上げを行う場合は1/2) |
21〜50人 | 100〜6,000万円 | ||
51人以上 | 100〜8,000万円 | ||
中堅企業等 | 100万〜1億円 | ||
グリーン成長枠(スタンダード) | 中小企業者等 | 100万〜1億円 | |
中堅企業等 | 100万〜1億5千万円 | ||
卒業推進枠 | 成長枠・グリーン成長枠に準じる | 中小企業者等:1/2 中堅企業等:1/3 |
|
大規模賃金引上促進枠 | - | 100〜3,000万円 | 中小企業者等:1/2 中堅企業等:1/3 |
産業構造転換枠 | 20人以下 | 100〜2,000万円 | 中小企業者等:2/3 中堅企業等:1/2 |
21〜50人 | 100〜4,000万円 | ||
51〜100人 | 100〜5,000万円 | ||
101人以上 | 100〜7,000万円 ※廃業を伴う場合は廃業費を最大2,000万円上乗せ |
||
最低賃金枠 | 5人以下 | 100〜500万円 | 中小企業者等:3/4 中堅企業等:2/3 |
6〜20人 | 100〜1,000万円 | ||
21人以上 | 100〜1,500万円 | ||
物価高騰対策・回復再生応援枠 | 5人以下 | 100〜1,000万円 | 中小企業者等:2/3 ※従業員5人以下は400万円、6〜20人は600万円、21〜50人は800万円、51人以上は1,200万円までは3/4 中堅企業等:1/2 ※従業員5人以下は400万円、6〜20人は600万円、21〜50人は800万円、51人以上は1,200万円までは2/3 |
6〜20人 | 100〜1,500万円 | ||
21〜50人 | 100〜2,000万円 | ||
51人以上 | 100〜3,000万円 |
【申請期間】
次回の公募期間のスケジュールは今後発表される予定です。上記公募枠は前回のもので、次回の公募枠が変わることもあります。
※上記には、参考として前回までの公募内容を記載しています。最新の情報は、事業再構築補助金事務局のホームページ「事業再構築補助金」のページをご確認ください。
【小規模事業者持続化補助金(一般型)】
製造業・サービス業
働き方改革や賃上げ、インボイス制度など、小規模事業者が直面している課題への取り組みを支援する制度です。新たな市場開拓に向けた商品開発や販路拡大など、生産性向上につながる取り組みをサポート、そのための経費の一部を補助します。
補助金には、「通常枠」以外に、最低賃金を地域別最低賃金よりプラス30円以上にする「賃金引上げ枠」、小規模事業者の枠を超えた事業拡大に取り組む「卒業枠」、中小企業の後継者が新規事業のアイデアを競うアトツギ甲子園の選出者向けの「後継者支援枠」、特定創業支援等事業の支援を受けて創業した事業者が対象の「創業枠」といった「特別枠」があります。
【適用要件】
「小規模事業者持続化補助金」は、下記に該当する法人、個人事業、特定非営利活動法人が対象です。
- 日本国内に所在する小規模事業者および所定の要件を満たした特定非営利活動法人であること
※小規模事業者の定義は、サービス業で常勤従業員5人以下、サービス業のうち宿泊業・娯楽業、製造業で常勤従業員20人以下 - 法人の場合、資本金または出資金が5億円以上の法人に直接または間接に100%の株式を保有されていないこと
- 直近過去3年分の各年または各事業年度の課税所得の年平均額が15億円を超えていないことなど、他にいくつかの要件があり、すべての要件を満たす方が補助対象者です。
【補助額】
補助金の額は補助対象経費の合計額に補助率をかけた金額となります。すべての枠において、インボイス特例の要件を満たした場合には、補助上限額に50万円が上乗せされます。
申請枠 | 補助額上限 | 補助率 | インボイス特例 |
---|---|---|---|
通常枠 | 50万円 | 2/3 | 50万円 |
賃金引上げ枠 | 200万円 | 2/3(赤字事業者は3/4) | |
卒業枠 | 200万円 | 2/3 | |
後継者支援枠 | 200万円 | 2/3 | |
創業枠 | 200万円 | 2/3 |
【申請期間】
次回の公募期間のスケジュールは今後発表される予定です。
※上記には、参考として前回までの公募内容を記載しています。最新の情報は、全国商工会連合会の「商工会議所地区 小規模事業者持続化補助金(一般型)」のページをご確認ください。
煩雑な申請作業は「dX助成金申請」におまかせ!
中小企業が限られた予算でデジタル化や働き方改革を推進するための一助となるのが、国や自治体が公募する補助金制度です。とはいえ募集期間や条件もまちまちで、自社に合った支援制度を探し出すのは至難の業でもあります。そこで利用したいのがドコモビジネスのサービス「dX助成金申請」です。
「dX助成金申請」というサービス名ですが、補助金の申請にも対応しています。簡単な質問に答えるだけで現在応募可能な補助金を調べることができ、専門スタッフとオンラインでの個別相談も可能です。申請に際しては労働基準法に準拠した法定帳簿なども必要になりますが、こうした申請書類の準備段階から受給までを一括してサポート(※)します。申請作業の煩わしさから見逃している補助金制度をもっと活用して、設備投資や人材育成に役立ててみましょう。
※本サービスでいうサポートとは、代理申請のことではありません。補助金によっては、代理申請をした場合に公募要項に反する行為として採択取り消しとなるものがありますのでご注意ください。
※本記事は2023年12月現在の情報を元に作成されています。最新・正確な情報は各省庁や自治体のホームページをご確認ください。