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若手のやる気を引き出す声かけとは。
自走する組織の作り方

若手のやる気を引き出す声かけとは。自走する組織の作り方

高田 公太(作家、ライター)青森県弘前市のベンチャー企業・もりやま園がくり広げる革新的なりんご農園経営は近年、業界から熱い注目を浴びています。 同社代表取締役の森山聡彦さんの経営哲学を伺うと、その根底にある「人と人のつながりの大事さ」こそが大きな成果を生んでいることが見えてきます。 適材が適所に置かれ、それぞれが自発的に仕事をこなしていく企業の作り方とは。(第2回/全3回)

目次

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「忙しい人と仕事ができる人の違い」とは

もりやま園の工房には「忙しい人と仕事ができる人の違い」がいくつもの箇条書きで知記されたプリント3枚が貼り出されています。
内容は「評価基準」「納期意識」など20程度の項目に分けられていて、【『忙しい人』は、「忙しい」と周りに言えば、「カッコイイ、頑張っている」と他人が評価してくれると思っている】【『仕事ができる人』は、絶対にここまでに終わらせるというスケジュール意識が強い】など、「忙しい人と仕事ができる人」の特徴が幾つも記されています。

画像:出所:ブログ「モチベーションは楽しさ創造から」
出所:ブログ「モチベーションは楽しさ創造から」

森山「あの貼り紙、社員で見ている人いるのかな……(笑)。あれは妻がネットで見つけてくれた言葉で、僕へのメッセージのようなものです。
父が『忙しい忙しい』と言って、やらなくてはならないことまで後回しにしているのを見てきました。目先のことばかりやっていると本当にやらなくてはならないことが後回しになって、結局ずっと変わらないのを何とかしたいと思って」

森山さんはスケジュール管理が苦手で、社員が止めに入るまでメディア取材に付き合ってしまうこともしばしばとのこと。

森山「もちろん、自分のタスク管理もしていますが……そうしないとよく頭がごちゃ混ぜになってしまいますので。本当に何も考えないで用事をこなそうとすると、めちゃくちゃです。
行ったり来たりばかりしなくてはいけなくて、それでよくやるのが紙にこういうふうに十字線を描いて(下記画像参照)、縦軸は重要度、横軸は緊急度で4分割します。

1は重要かつ緊急なので、最優先で片づけます。2は重要なんだけど、別に今日明日の話じゃなくて忘れずにやっていかないとならなくて、でも進捗管理は怠ってはならないことをここに書いていくんです。
3は急ぎだけど15分以内で済ませられるような簡単な用件。4は重要でも急ぎでもなくて、ぶっちゃけどうでもいい用件をここに……そうやって頭の中をいったん整理するとすごく頭が楽になる」

画像:「忙しい人と仕事ができる人の違い」とは

自らの得手不得手を自覚している森山さんにとって、代表取締役と妻、そして社員は補い合う関係。

森山「貼り紙に関しては、妻が僕にこれを『日々チェックしなさい』と用意してくれました。私なんかより従業員のほうがよっぽどそれを実践しているような気がします。
営業担当の引田(引田裕さん、勤務5年)なんかは半年以上前から商談会などの計画を立てていますし、それに必要なタスクを全部ピックアップして役割を振って、私や他の社員の相談も受けて、『僕がやるよ』とやってくれるので私も動きやすいです……。
どっちが上司か分からないですね(笑)。私はやるかやらないかの判断と必要な資金を『よし、やるか』と出すぐらいで済みます」

脱プレイングマネジャー

もりやま園では農園全体の動き、社内を走るプロジェクトを可視化させています。現場から離れて経営改善やアイデアの創出に時間を割けるようになった森山さんに、「プレイングマネジメントからの脱し方」について伺いました。

森山「全体のタスク管理はAsanaというプロジェクト管理ツールを使ってます。これも妻が見つけてきてくれました。
Asanaで『自分が受けた案件だけれどもこういう受注が入りました』と担当の人にタスクを渡す。そうすることで、その人が完了したらこっちに通知が来て、『ちゃんと発送してくれてありがとう』と、いいねボタンを押して反応する。
社員同士でタスクにひもづいた質問をコメントに入れて、やり取りの経緯が残ります。一つのプロジェクトを役割分担して、それぞれいつまでと期限をつけて進捗を管理するというふうなことにも役立っています。
私が細かく指示を出さなければ回らないような仕組みは望んでないんですよ」

画像:脱プレイングマネジャー

社員の長所を伸ばすために、最低限の管理で済ますスタイルです。

森山「今までは新卒採用ではなくて、中途採用で様々な業務経験を積んできた人を雇ってきたので、専門家ではないにせよ、何かしら生かせるスキルやリソースを持った人がたまたまうちに来てくれた感じです。
引き継ぎすべき業務を一通り一緒にやったあとは『とりあえずやってみて、分からないことがあったら都度聞いたり、相談して』という感じで。
ときどきチェックしてああしたらいいんじゃない、こうしたらいいんじゃないとか、これいいねとかいう感じで反応する程度でやっています。
畑仕事に関しては、なかなか現場に出られないので、やっぱり見える化しないと判断したり評価したりができないですね」

プレイングマネジメントの欠点とは。

森山「多くのプレイングマネジャーは現場に行かないと分からないことがあるからまずは現場に向かいますし、業務を円滑に回したり、問題を見つけたりして、対処するためにトップが現場に出向いて個々のスタッフとのコミュニケーションを取ることは必要不可欠ではあります。

が、あくまで現場の指揮を執るのは現場担当者でないといけないと思っています。社長が現場で何でもやってしまうと、現場担当者からすればメンツがつぶれるし、そのやり方ばかりだと社長がいないと回らなくなってしまうのです。
社長が現場を仕切ってくれるでしょう、だったらただ作業してればいいや、と捉えられちゃう。
その状態では結局、社長は現場から抜けられなくなって新しいことに着手できなくなっちゃいますよね。自分で自分の首を絞めちゃうことになっちゃう。
基本は邪魔しないで現場に任せる。ときどきは現場に出向いて様子を肌で感じる、その程度がいいと思います」

画像:(写真提供:もりやま園) 画像:(写真提供:もりやま園)
(写真提供:もりやま園)

「農業を成長産業に変えたい」という思い

中学生の時に同級生がつぶやいた「農家って可哀想」という言葉は、今も森山さんの胸の奥底に刻まれています。
こうした経験や、日本の農林水産業の現状を顧みて作られたもりやま園の理念は、社会全体の構造の変革にも及ぶもの。
もりやま園のホームページには「農業を成長産業に変えたい」というフレーズがあり、こういったスローガンもまた社員のエンゲージメントに大きな影響を与えているようです。

森山「ミーティング時には会社の方針や企業理念を何度も従業員に伝えて、何で我々はこの会社を立ち上げて、私たちはこの会社で何を目指して仕事しているのかを確かめ合って、みんなの力を一つの方向に向かわせる。
それぞれみんな価値観を個々に持っているし、『家族や友人、自己実現、そういったものを大事にしたい』という生きがいであったり、心のよりどころであったり、そういうものを持っていると思うんです」

画像:年に何度か、従業員たちと「森山宴」という名の親睦会を行っている(写真提供:もりやま園)
年に何度か、従業員たちと「森山宴」という名の親睦会を行っている(写真提供:もりやま園)

しかし、その個人個人の目線とリーダーの目線はだいぶ違うそうです。

森山「高低差があるんです。単体のプロジェクトだけを取り上げて『この結果を目指しているからみんな力を貸して』となると、なかなか社員の力を引き出しにくい。

個人や家庭レベルの目線で話して、『みんなが安心安全な暮らしを実現したい』という価値観を共有して、
『そうするためにはここの地域が高齢化に負けないような産業基盤を作っていかないといけない』
『農業が衰退すると、この地域の2次産業、3次産業みんな衰退してしまって、みんなここからいなくなって都会に人が行ってしまう。そうしないために1次産業の我々が頑張らないと我々の生活を守れない』
『だからみんなの力を借りたい』
と伝える。

そうすると、『自分や子どもたちが将来に安心して暮らすための地域基盤を作るためには、今の我々が頑張らないといけない。みんなで力を出し合おう!』と全体のやる気を引き出せます」

画像:自分たちで造ったアップルソーダやシードルを味わいながら、オープンコミュニケーションで盛り上がるひととき(写真提供:もりやま園)
自分たちで造ったアップルソーダやシードルを味わいながら、オープンコミュニケーションで盛り上がるひととき(写真提供:もりやま園)

自走する組織の作り方

取材中、森山さんは社員の功績をうれしそうに語っていました。「やらせてみたら、こんな良い結果が生まれた」といった調子の社内エピソードを聞くにつれ、勢いよく自走する社内の様子が目に浮かびます。

森山「会社の動かし方はいろいろあります。トップダウンでああしろ、こうしろと細かく指示を出すやり方もありますが、それだとあまりみんな自分の生きがいにつながらないと思いますね。
私は、社員の『自分で考えて自分で目標を達成して自己実現したい』という欲求を満たすためにこの会社を使ってほしいです。
大きな未来の目標は私が立てています。

『目標額を達成するのに生産部いくら、どれだけ売り上げを出してどのくらい利益を出すのか、飲料製造部はどれくらい売上を出して、どれくらい利益を出すのか、そういうのは各部調整してくれ』
『だいたい去年はこういう感じだよ。各部門の収支内訳がこうなってる。どう伸ばすかはみんな目標を自分で立てていいからね』

と社員に伝えて、自分たちで決めたことを成し遂げた達成感を味わってほしいんです。それが生きがいになりますから」

画像:自走する組織の作り方

社員とのコミュニケーションを取る機会は。

森山「全体会議か朝礼。個別面談も少なくとも半年や2、3カ月に1回やります。全体的なことは主に朝礼と全体ミーティングですね。自発性が問われる会社なので、そこで悩んでしまう社員もいました。そんな時も個別面談ですね。
『最近、元気ないね?』といったところから話すと、個人の悩みが出てきます。そして、その悩みがもりやま園で解決できるものなのか、あるいはできないものなのかが重要になってきます」

具体的に、どんな声かけをしているのでしょうか。

森山「『まずはここで何年かやってみて、そのあと独立してもいいんだよ』『必ずしも黒字を出せとは言ってないから、やってみたら?』といったことですね。
ただ、数字だけ見せても効果はまったくありません。その人の行動を変えられるか、その人の力を引き出せるかとなると、行動を起こすレベルの脳のプログラムにアクセスしないといけませんから。

心のレベルで響かないことには自発的な行動は望めないですよね。人がどういうことを望んでいるか、何を糧に仕事をしているのだろうかとか、どうしたら喜ぶだろうか、幸せになれるんだろうかとか、そういう引力です。
『どうやったらこの人を引っ張れるか』をサーチする個別面談が一番重要ですね」

※第3回に続く

画像:自走する組織の作り方

この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。

執筆:高田公太
写真:成田写真事務所
図版:WATARIGRAPHIC
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子

農業DX 100年後のりんご農家へ渡すバトン(全3回)

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