製造業が注目する「AI需要予測」とは

製造業が注目する「AI需要予測」とは

製造業にとって、モノの売れ行きの見通しを立てる「需要予測」は非常に重要です。これまでは経験や勘といった属人的な判断材料によって行われるケースが多かったものの、テクノロジーの進化によりAIによる需要予測が、現実的なものになりつつあります。AIを活用することで、発注予測精度の向上や、生産量と在庫量の最適化など多くのメリットを見込むことができますが、具体的にはどのようなことが可能になるのでしょうか。「AI需要予測」のメリット、活用方法についてひも解きます。

目次

AIによる需要予測とは

生産数や売上の見通しを立てるための需要予測は、製造業に欠かせません。もし、予測が大きく外れてしまえば、在庫を多く抱えてしまったり、逆に製品が足りず販売機会をのがしてしまうリスクがあるため、高い精度が求められます。

これまで、需要予測は自社に蓄積したデータや、担当者の経験や勘を根拠に行われるケースが一般的でしたが、社会情勢の変化や、それに伴う物価の乱高下などで、これまでのような属人的な手法では、適切な需要予測が難しくなっています。

こうしたなか、注目を集めているのが、AIによる需要予測です。需要予測にAIを利用するとどのようなことが実現できるのでしょうか。経済産業省の「AI導入ガイドブック 製造業へのAI需要予測の導入」によれば次のようなメリットを見込むことができます。

上の図では、AIの需要予測の導入によって、実現できることが5つ紹介されていますが、大きく分けると、予測精度の向上による生産量・在庫量の適正化、そして、自動化による業務効率化・担当者の負荷軽減が期待できるとされています。

とはいえ、AIによる需要予測も万能ではありません。AIは過去のデータをベースに予測を行うため、データそのものが少ない場合は、予測の精度は低下します。また、これまでなかったような不測の事態、たとえば感染症拡大や自然災害、世界情勢の変化などが発生した場合も、精度の低下は避けられません。

AIによる需要予測の進め方

では実際、AIで需要予測を行うためには、どのようなことに取り組んでいけばよいのでしょうか。前述の「AI導入ガイドブック」によれば、導入は大きく9つのステップに分けることができます。

① AI導入の目的・目標設定

最初に、AIで解決したい「業務の困りごと」を整理します。そして、AIを利用したときの結果と比較できるように、その困りごとの現在の状況を定量的に把握、このデータを元にAIモデルの目標精度を検討します。

② データの確認

次に手元にあるデータの確認を行います。AIモデルの構築に必須なのは以下の3点です。

  • いつ(売上日、取引日、計上日 など)
  • どこで(商品、店舗 など)
  • どれだけ(売上高、発注数量、在庫金額、欠品回数 など)
こうしたデータを継続的に取得する方法について検討し、「今はないけれど、今後必要になるデータ」についても、蓄積する方法や継続的に活用・取得していく方法を考えておく必要があります。

③ 実務での活用イメージ検討

どの期間の需要をどのような粒度で予測し、業務にどう活用するかによって、AIモデルの在り方が変わります。実業務での使い方を事前イメージしておく必要があります。

④ 初期費用の検討

AI導入計画では、検証期間の設定が必要です。自社にAIに詳しい人材がいない場合、AIベンダー協力のもとで進め、検証工程は2〜3カ月程度設けるのが一般的です。この検証行程のなかで、必要最低限の初期費用を見積もるべきでしょう。効果・成果が出るか判然としない段階で、高額な投資を行うのは控えるのが無難です。

⑤ モデル構築、検証・最適化

ここからは検証工程です。AIモデル構築は、データ準備~構築~精度検証~最適化 の順序で進めていきます。もしAI構築をベンダーに依頼している場合も、彼らに任せきりにするのではなく、自社のビジネスを理解している担当者が積極的に関与していくことが欠かせません。

⑥ 業務への適用可否検討

AI予測結果を、いつ、誰が、どのように活用し、どんなネクストアクションに繋げるのか、を設計します。この時点でも業務に詳しい人によるチェックを忘れないようにしましょう。

⑦ 本番実装計画の策定

本番実装前に、AIモデル導入により生み出される価値を計算します。これまで人手で対応していた工数や、需要予測ミスによる追加コストが、AIを導入することでどれほど改善するのか、定量的にシミュレーションします。一方でAI導入にかかるコストを計算し、コストをかけて導入するのに見合う価値があるのかも明確にしておくべきでしょう。

⑧ 業務への活用・システム実装

AIの導入・社内への浸透にあたっては、経営者・管理者・担当者が一丸となって、AIへの理解を深めながら進めていく必要があります。業務への活用、システム実装の前に、なぜ今変革が必要なのか、なぜAIシステムを活用するのかを周知し、実際の導入は段階的に進めていくことが重要です。

⑨ AI精度モニタリング・再学習

導入後は、AIモデルが問題なく機能しているかを定期的に評価しつつ、精度が低下したり、外部環境が変化したりした場合に、AIに再学習をさせることがポイントです。AI運用が安定したら、次のステップに向けてAI範囲の拡大・システム連携範囲の拡大を目指していくことになります。

トライアンドエラーの繰り返しがAIの精度を高める

需要予測にAIを活用することで、これまで熟練者の経験や勘に頼ることが多かった領域に対して、高い精度の予測ができるようになります。これまで需要予測に掛けていた時間が削減することで、業務が効率化、経営陣の意思決定もより速くなるでしょう。

とはいえ、AIにまかせきりというわけにはいきません。自然災害など、予測できない事態が起きた場合の対応には、引き続き人間による判断が欠かせないのです。AIでの需要予測を成功させる秘訣は、モニタリングと再学習、トライアンドエラーを繰り返して精度を上げていくこと。導入して完結ではなく、日々進化と改善を図り、より実用性を高めようと努めることで、さらに精度と信頼性が担保されていくのではないでしょうか。

※本記事は2024年2月の情報をもとに制作されています。

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