地域経済活性化に「空き家」の解消は不可欠
空き家の所有者のうち、取得した経緯の半数以上が相続です。空き家になる理由は、所有者の死亡や別の住宅への転居、老人ホームなどへの入居が挙げられます。
つまり、親が所有していた住宅を子が相続し、子が住まないために空き家が生まれているわけです。これらの空き家は放置されると、景観の悪化や悪臭の発生、ゴミなどの不法投棄、それらによる治安の悪化など、重大な外部不経済を引き起こすとされ、近年問題になっています。
2015年に、空き家問題に取り組むための法律「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されたことで、状態の良くない空き家の所有者に対し、市町村が助言、指導、勧告といった行政指導や命令ができるようになりました。
特別措置法制定時に即座に「空き家活用」に着目して、空き家をリノベーションし新たな地域の拠点として生まれ変わらせる「アキサポ」の運営をスタートさせたのがジェクトワンです。空き家活用の草分け的な存在で、新たな試みを続けています。
ジェクトワンの取締役で空き家アナリストの清水貴仁さんにお話を伺いました。

ジェクトワンの設立時より入社し、現在は地域コミュニティ事業部長として事業拡大に尽力。
NPO法人空き家活用プロジェクトの理事を兼任。
清水「2015年に特別措置法が施行されたとき、我々もこの空き家問題に対して何かできないかと考え、2016年に『アキサポ』をスタートしました。空き家を放置してしまっているほとんどの所有者さんが、『空き家には困っているが売れない、売りたくない』という思いを抱えていらっしゃいます。当社の空き家活用は、空き家を借り上げて改修工事を行い、よみがえった空き家を利用者さんに貸し出すというスキームです」
アキサポでは所有者から空き家を借り上げて所有者の負担なしでリノベーションして借り主に貸し出し、所有者には家賃を支払います。
アキサポの収益は、工事費負担額を考慮した転貸料収入との差額です。初期投資費用を数年間かけて回収していくビジネスモデルになっています。
清水「空き家を活用する不動産業者は他にもありますが、取り壊して新たな住宅にすることがほとんどです。アキサポでは、ニーズによって住宅にしたり、店舗にしたりするなどして、その地域に新しい価値を提供しています」
もちろん、リノベーションして貸し出すことが目的なので、立地や駅からの距離などもろもろの要件は出てきますが、所有者は物件を手放すことなく巨額のリノベーション費用を一度に負担することなくリノベーションしてもらうことができ、定期借家契約の終了後に物件が戻ってくるため、物件の資産価値向上につながっているといいます。
所有者の思いと地域のニーズを擦り合わせる
アキサポとしての最初の案件は、東京都文京区茗荷谷にある長屋のうちの一軒でした。物件の所有者はその家を空き家として放置してしまっていることを、心苦しく感じていたといいます。
清水「所有者は、高齢のために子どもと同居することになり、物件は5年ほど空き家になっていました。『子どもたちに相続する前に、なんとかしたい』と売却も検討されたようですが、長屋の真ん中に位置するためなかなか売れずに困っていらっしゃったのです」

アキサポは、この物件をリノベーションしてカフェを経営したい利用者に貸し出し、2016年に「小石川かふぇ」として生まれ変わりました。利用者は結婚を機に埼玉に転居したため2022年に閉店しましたが、新たな利用者が見つかり、2023年からは『Bar坂道』としてオープン。「小石川かふぇ」の常連も通っているといいます。
清水「事前に周辺調査を行うのですが、地域住民の皆さんからは『気軽に立ち寄れるカフェなどがあるとうれしい』という声が聞かれていましたから、その声を反映させて飲食店にリノベーションしたことで、地域で愛される場所になったと思います」

この事業をスタートしてから、アキサポが何よりも大切にしているのは所有者の声だといいます。
清水「アキサポ立ち上げ当初は社内でも、『空き家をお売りいただき、建て直すほうが効率的』というような意見もありました。でも、所有者さんがこれまで空き家を手放せなかった理由こそが、空き家問題の核でもあることに気づいたのです」
所有者の話を聞くうちに「売れればいい」というほど簡単な課題ではないということがわかってきました。
清水「所有者さんは、空き家の管理ができず困っている一方で、『売りたくない』と言われることが多い。また、多くの場合は不動産業者側が『こうしましょう』『こうしたほうがいい』と提案しがちなのですが、私たちは所有者に対して『この空き家がどうなってほしいのか』というところを伺うようにしています」

さらに、空き家が存在する地域の住人へのヒアリング調査を徹底し、そのエリアで必要とされているものについてマーケティングを行っているといいます。所有者と地域の人々の声を反映させながら、地域が活性化するような物件を生み出す提案をしているのです。
清水「現場で所有者さんの思いに寄り添い、鏡開きならぬ『空き家びらき©』を行って地域の方にお披露目し、地域の中で空き家が新たな「居場所」として生まれ変わる瞬間を何度も目にする機会があります。古きものをリサイクルするというSDGsでありながら、ビジネスとしても有効で、さらに社会貢献につながる非常に意味のある事業だということを実感しました」
固定資産税の納付書が届く時期は、アキサポに問い合わせが入る件数が体感として比較的多いという清水さん。空き家の問題は全国的な問題であり、各市区町村でさまざまな対策が検討され、公開されています。
人口が密集している都心部では特に密集市街地における老朽化した、倒壊の危険のある空き家の課題が深刻で、地方では過疎化による空き家の増加による課題が大きいようです。
空き家が埋まりやすい首都圏、
過疎や老朽化が課題の地方
アキサポ事業に携わりつつ、総務省の地域活性化起業人制度で新潟県三条市に特命空き家仕事人として派遣されている熊谷浩太さんに伺いました。
熊谷「首都圏の空き家は立地条件などがあったとしても、アキサポのスキームで借り上げてリノベーションをして貸し出すという事業で成り立つ可能性が非常に高い。マーケティングをしてきちんとリニューアルすれば付加価値がついて借り手もすぐに決まり、ある程度の家賃収入が得られるからです」

JR東日本にて大規模開発、不動産デベロッパーなどを経て2020年ジェクトワンに入社。
2022年5月より、三条市 特命空き家仕事人に就任。
取り壊し費用やリノベーションの費用が高くて空き家を放置していた所有者が、行政の助成やアキサポのような制度を知ることによって解消していくことは難しくありません。
その一方、地方の空き家問題というと話はやや深刻になります。
熊谷「まず、長く放置されすぎて改修するのに費用がかかるケースが多いということと、リノベーションしたとしても、その資金を回収するための賃料を設定しにくい。また、首都圏は駅近であれば高い賃料を設定できますが、地方はたとえ駅に近くても賃料を高く設定できないため物件の選定が難しいです。人口が減少していることから利用者を見つけづらいこともあり、空き家活用に踏み切りにくい傾向があります」
そういったなか、アキサポでは、首都圏の課題、地方の課題、それぞれに策を講じながら、空き家問題を解決し、地域経済の活性化に寄与しているといいます。
熊谷「地方では、古民家を移住体験施設やワーケーション施設などに改修するなどし、首都圏の企業への情報発信なども行っています」
次回は、アキサポの首都圏での空き家活用事例を取り上げながら、さらに、空き家問題の解決策を掘り下げます。
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取材、執筆:MARU
バナーデザイン: 山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:岩辺みどり
写真提供:ジェクトワン
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