日々の生活にも役立つ「食品表示」の知識
今回のニュース
「紅麹」サプリの健康被害で死者5人、入院200人以上
小林製薬(本社・大阪市)が機能性表示食品として販売していたサプリメント「紅麹コレステヘルプ」など3製品を摂取した消費者から、腎臓の病気を発症するなど多くの健康被害が出ていることが問題になっています。3月22日に同社から紅麹関連製品の自主回収が発表されて以降、これまでに5人が死亡、のべ200人以上が入院したことが報告されました(4月7日の厚生労働省発表)。
大阪市の調査によると、3種の製品は全国で約86万個が販売されたことがわかっていますが、さらに問題を大きくしているのは、同社製の紅麹を原料とした他社製品が国内で広く流通していることです。帝国データバンクは、国内で最大3万3000社に流通している可能性を指摘。さらに紅麹を原料にした製品は世界にも輸出され、台湾などでは2次被害を懸念する声が上がっています。
紅麹は、米などの穀類に紅麹菌を繁殖させたもので、もともとは薬膳の材料として使われてきました。今回、問題になっている「紅麹コレステヘルプ」も、悪玉コレステロールや動脈硬化指数を下げるという効果がうたわれています。また紅麹は発酵すると赤く発色するため、赤い着色料としても多くの企業が小林製薬の紅麹を購入し、製品に使用しています。
すでにこの紅麹を使って他社が製造した健康食品や菓子、飲料、調味料などの自主回収が進んでいますが、紅麹の食品表示がされていなくても実際には含まれているケースがあるので、混乱が生じています。回収などの措置は、各メーカーに任されているため、表示のない紅麹の摂取をどうやって避ければいいのか、消費者の不安は高まっています。
ちなみに表示がないのは、2種類以上の原材料を使った「複合原材料」の表示ルールによるもの。製品に占める重量割合が5%未満である場合や、「かまぼこ」など一般にその原材料が明らかな場合などは、複合原材料のうち一部の表示を省略することが許容されています。
いずれにしても、全容の解明には、少なくとも数カ月かかると言われるこの問題。健康被害の可能性を把握してから2カ月間、公表・自主回収をしなかった小林製薬の対応や、2015年4月に始まった「機能性表示食品」制度のあり方、さらには上記の食品表示の問題など、「食の安全」をめぐるさまざまな議論が巻き起こっています。
「食品表示法」と「保健機能食品」
サプリメントや健康食品に関わる検定はいろいろと種類があって、私も「サプリメントマイスター」「JNFサプリメントアドバイザー」「健康食品コーディネーター」などの資格を持っています。これらは多種多様な製品の特長や活用法などが学べる有益な資格ですが、今回のニュースでは、特定のサプリや健康食品の効果というよりも、健康への懸念や成分表示などの点が注目されています。
そこで今回は「食品表示検定」にスポットを当ててみたいと思います。
医薬品医療機器法(薬機法)で規制される医薬品とは異なり、サプリを直接規制する法令というのは存在しておらず、食品衛生法などでは野菜や加工食品などと同じく「食品」という枠組みで取り扱われます。
今回の紅麹問題はまだ原因が特定されていないため不明点も多いですが、サプリが原因で死者が出てしまうケースがあることに驚いた人も多いはず。また、「特定保健用食品(トクホ)」と「機能性表示食品」の違いを改めて認識したという人も少なくないのではないでしょうか。
食品表示検定の試験内容の大部分を占める「食品表示法」は、従来、「食品衛生法」「JAS法」「健康増進法」で個々に定められていた食品表示に関する規定を統合し、包括的かつ一元的な制度を創設するために2015年に施行されたものです。食品の安全性確保のため、また一般消費者が合理的に食品を選択できるよう、原材料、内容量、原産地などのほか、アレルギー情報などを加えて表示することが義務づけられています。
検定では「保健機能食品」についても学ぶことになります。健康維持・増進に関する機能を食品のパッケージに表示できる国の制度で「栄養機能食品」のほか、上記の「特定保健用食品(トクホ)」「機能性表示食品」の3種類があります。
トクホが国の審査がある個別許可制なのに対し、機能性表示食品は、事業者の責任において科学的根拠に基づいた機能を表示する届け出制。時間とコストが大幅に削減できるため、2015年4月の制度開始以来、対象商品は爆発的に拡大してきました。
食品表示欄を読み解く実践的な問題
食品表示検定は、一般の消費者から、食の生産・製造・流通などの職場で専門知識が必要な人まで幅広い層を対象にしています。
食品表示の基礎知識を問う「初級」の合格率が6割前後。「中級」はやや応用・専門的な内容となりますが、合格率5割前後で難易度はそこまで高くありません。中級合格者のみ受験可能な「上級」は、食品表示の責任者クラスを対象とした高度な内容で、記述式問題がメインとなるため、合格率1~2割とかなりの難関試験となっています。
認定テキストは現在、第8版まで版を重ねています。たびたびニュースとなる食品の健康被害や偽装表示に関わる事件などに対応して、食品関係の法令はたえず改正されているからです。
かなりボリュームがある内容ですが、日々の生活に密接したテーマだけに、ふだん何げなく見ていた食品表示の意味がわかるような興味深い問題や、食生活の改善に役立つ知識が学べる問題も多いです。
公式サイトには各級の試験問題例がいくつか掲載されていますが、架空の製品の食品表示欄を読み解く実践的な問題もあったりして、なかなか面白いです。
たとえば、「漬物に関する下記の食品表示欄について、『原材料名』『添加物』『原料原産地名』『賞味期限』の4つの項目のうちどれかが不適切な表示になっているが、それはどの項目?」というような問題があります。
正解(不適切なもの)は「原材料名」なのですが、その理由は、原材料に占める重量の割合の高いものから4種類以上を具体的に表示する必要がある(原材料が5種類以上のもので、製品の内容量が300グラムを超える場合)ところ、問題文中では「A、B、C、その他」と3つまでしか具体的に記載していないから、となっています。
へえ、そんなルールがあるんだな、という気づきが多く得られる検定だといえるでしょう。
「消費者」としても「生産者」としても有益な知見
小林製薬の紅麹問題を受けて、消費者庁は3月28日、「紅麹を含む健康食品関係について」という文書をサイトで公開しています。ここでは「機能性表示食品の利用のポイント」として、3つのポイントが紹介されています。
- ① 自身の食生活をふりかえってみましょう(食事のバランスが大切)
- ② たくさん摂取すれば、より多くの効果が期待できるというものではありません。
過剰な摂取が健康に害を及ぼす場合もあります - ③ 体調に異変を感じた際は、速やかに摂取を中止しましょう
「食生活が乱れていてもサプリさえ取っていれば大丈夫」「サプリは健康にいいから、とにかく積極的に取る」などと短絡的に考えず、正しい知識と判断のもとで活用していくことが大切です。そして、その重要な指標となるもののひとつが「食品表示」なのです。
アレルギーを引き起こす原料や添加物など、食品の安全性に誰もが目を光らせる時代。今回の問題をきっかけに、この傾向は今後、さらに強まるかもしれません。自分たちが口にしているものがどういうものなのか、日ごろから食品表示を通じてちゃんと把握しておくことは、食をめぐるトラブルを回避して健康的な生活を送るための第一歩といえるでしょう。
逆に食品メーカーなど生産者側からすると、健康や環境に配慮した商品など消費者に向けて「食の安全」をアピールしたいときに、食品表示欄をより丁寧に書き込むことで、消費者に選んでもらえる機会を増やすことができます。
食品表示の知識は、消費者の立場からは食品の安全性や特徴を見極めるための手がかりとして、生産者の立場からは自社の取り組みをアピールするきっかけとして、たいへん有益な知見です。いち消費者として、あるいは食品メーカーなどの担当者として、ぜひ多くの人に学んでもらいたい検定です。
鈴木秀明(すずき・ひであき)
1981年生まれ。総合情報サイト「All About」資格ガイド。東京大学理学部卒。東京大学公共政策大学院修了。年間80個ペースで資格試験を受験し、米国公認会計士、気象予報士、中小企業診断士など950以上の資格を取得。雑誌・テレビ・ラジオなどのメディア出演実績は500件以上。著書に『効率よく短期集中で覚えられる 7日間勉強法』(ダイヤモンド社)など。
この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
取材・文:福光恵
編集:鈴木毅(POWER NEWS)
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
タイトルバナー:gettyimages