条件反射で否定語を口にしていないか?
会話をしていると、何でも否定で返してくる人がいます。「でもね」「だって」「しかしさ」など、否定語の接続詞から会話を始める人は、その典型的なタイプといえるでしょう。
「そうはいってもね」「わかるけど」などは、一見相手に寄り添っているようでいて、相手を否定していることに変わりはありません。
会話の途中で相手を遮ってまで、「いやいやいや」という言葉を発する人もいます。「いやいやいや」と言ったあと、ひと呼吸おいて「それはちょっと無理だな」など、やはり相手を否定する言葉が続いたりするものです。
意識していないだけで、このような否定から始まる会話は、思っている以上にしていたりします。特に問題なのが、このような否定語から入る言い方がクセになっているタイプの人です。
そういうタイプの人は、相手をコントロールしたい気持ちが強いのが特徴です。
例えば、上司がこのような否定語ばかり言うタイプなら、無意識に部下をコントロールしようとしているということ。上司と部下のように関係性に上下がある場合に限らず、人をコントロールしたいという人は、自分の意見を押し通したいというプライドが高い半面、自己肯定感は低め。自分への自信のなさが相手を否定して下げる言動となり、それによって自分が優位に立ちたいと考えているのです。
結局、相手の話を受け止める精神的なゆとりがないことが、相手への否定で会話を始める態度になっているといえるでしょう。

否定語から始まる会話は続かない
このような否定語から始まる会話のデメリットは、具体的にどんなことがあるのでしょう。
開口一番、「でもさ」「わかるけどね」というような否定語が発せられた瞬間、その言葉を聞いた人は相手に対して「あ、この人は聞く耳をもってくれない」と判断。「自分の考えや気持ちをちゃんと聞いてくれない相手だ」「どうせ適当に聞き流して、真摯に考えてはくれないだろう」と思うと同時に、自分の存在自体が相手に認められていないと感じます。
そうすると、相手への信頼がなくなり、お互いを理解しようとするモチベーションも低下。コミュニケーションが破綻することになります。
このような会話の弊害は、ビジネスにおいて致命的です。難しい判断について話し合おうとしても、頭から否定されると意見を言う気力もなくなりますよね。ベストな解決策を見つけるのが難しくなるだけでなく、問題をそのまま見て見ぬふりをすることにもつながりかねません。


一度受け止めることで、前向きな交渉を引き出す
そんな否定から始まる会話を、よりよいコミュニケーションに言い換えるにはどうしたらいいのでしょうか。心がけることはひとつだけ。相手の意見への賛成・反対はいったん置いて、まずは「相手の言葉や気持ちを受け止めること」です。
相手の言葉を受け止める表現とは、どんなものでしょう。例えば、「なるほど、そう考えているんだね」「君はそういう意見なんだね」というようなイメージです。
一例として、繁忙期に「有休を取りたい」と言われたときのことを考えてみましょう。「無理に決まっている」という言葉が頭をよぎったとしても、即座に「でも、そんなのできるわけないですよね」という言葉を言うのはストップ。まずは「なるほど、この時期に有休を取りたいんですね」と、相手の要望を理解したという言葉を返します。
そのあとは、「できない」と可能性を全否定するのではなく、「ほかの人たちでカバーできるかどうか、検討してみましょう」など、建設的な考えを示すようにするといいですね。その結果、「この時期の有休取得は難しい」という結論になっても構いません。
相手を受け止めるということは、相手にすべて迎合するということではありません。例えば「この時期を外せる可能性はありますか?」「今、抱えている仕事を前倒しして仕上げることは可能ですか?」など、相手の要望を実現するために必要な策を提案して、交渉することもポイントです。
重要なのは、最初から可能性を全否定しないこと、前向きな道筋に向けてコミュニケーションできるようにすることです。

会話を進める際は、「この時期に休みたい」という相手の視点を忘れないようにすると、自然に相手も自分が妥協できるポイントを心理的に探しやすくなります。
相手を否定するより、相手を認めて受け止めること。それが気持ちのよいコミュニケーションの鉄則です。相手を受け止めて、そのうえで自分の素直な意見を伝えるだけで、会話が気持ちよくスムーズなものに変わっていきますよ。
この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
文:大野萌子
編集・構成:久遠秋生
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
タイトルバナー:oatawa / iStock