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【一休・榊淳】売上高10倍、営業利益率5割超え。「データドリブン経営」とは

テクノロジーが進化しても
ビジネスの本質は変わらない
2012年にコンサルタントとして一休の経営に関わり、「データドリブン経営」に取り組み始めました。当時と比べてデータを使った経営に変化があるかというと、あまり変わらないかもしれません。
クラウドによって大きなコンピューティングリソースを使えるようになったり、AIを活用した施策を講じることができるようになったりという、テクノロジーの進歩は当然あります。データの整備が進み、リアルタイムに取得できるものも増えています。
一方で、私たちのビジネスは商品在庫を持たないマッチングサービスであり、あくまでそこでできることはユーザーインターフェースの磨き込みや、レコメンドやプライシングの精度の向上ぐらい。ビジネスの本質の部分は、変化がないように思いますね。

テクノロジーの進化によって取得できるデータが増加していますが、それによってビジネスの難易度が変わることもないと思います。
概してテクノロジーが進化すると、ビジネスパーソンとテクノロジー人材の境はどんどん大きくなります。AIひとつとっても、その技術の理解には専門的な知識がより求められるようになっていて、一般的なビジネスパーソンはとても及ばなくなるでしょう。
片や、コーディングの知識を必要としないノーコードツールが登場するなど、ツールの力でプログラミングやデータ分析が容易になっている面もあります。
テクノロジーの進化についていける人とついていけない人が分かれる可能性はありそうですね。

ビジネスパーソンは手近なかたちで
データドリブンの実践を
データドリブン経営が広がる将来、ビジネスパーソンが自らテクノロジーを活用してデータ分析に取り組む場面も増えると思います。しかし、そもそもテクノロジーに対して拒否反応を示す人も多い。
例えばエクセルには皆さん、なじみがあると思いますが、データベースと言った途端に受け付けなくなる。ただ、基本的に構造は変わらず、用語が異なるだけなのです。
扱っているデータの量が、エクセルではせいぜい数十万行といったところがデータベースだと数億行と増えるのみ。
どういうデータがあってどんな分析ができて、データによってこういうことが言えるのではないかと仮説を立てるのは、テクノロジーうんぬんの話ではありません。拒否反応を示すビジネスパーソンは、そうしたデータの構造すら理解しようとしていないですよね。

そこでひとつできるのが、データベースをエクセルのかたちに落とし込んで分析してみることです。数億行のなかから100行程度のデータを引っ張り出して、ピボットテーブルを組んだりグラフをつくったりする。
例えば私がやっていたのは、数百万行というデータから下2桁の数字が00番の顧客のデータだけを抽出する。こうするとデータが100分の1のサイズになるため、エクセルで分析することができます。
そして結果をふまえて、エンジニアへ全件のデータに対して同様の分析をしてもらうよう依頼する。
エクセルに収まればいいので、元のデータの1万分の1でも1000分の1でも、抽出するサイズは問いません。
自分で分析してからエンジニアに作業を頼むので、つまずくポイントがあればそこもふまえて指示を出すことができますし、エンジニアとのコミュニケーションも円滑に進みます。一度分析できてしまえば、その後の応用の幅も広がるのではないでしょうか。

エンジニアがいないような企業であれば、大規模なデータはそもそも扱っていないと思います。その場合、同じかたちでエクセルで分析するところから始めてもらえればと思いますね。
データドリブン経営は
「AIドリブン経営」へ発展する
データドリブン経営は今後、どんどん「AIドリブン経営」に変化していくと思っています。これまではデータからインサイトを見いだし、人が判断して施策を講じてきました。
ここにAIが入ってきます。ヒトとAI、どちらが賢いかという話ですよね。私たちのビジネスのなかでも、あらゆるものがAIに置き換わっているところです。

例えばGoogle広告のビッディング(編注:ネット上の広告枠のリアルタイム取引)についても、これまでは一定のルールにもとづいて人力である程度手がけていたところ、AIは各広告枠に対して個別の価格を設定することができます。
それが1万や100万という枠数にかかわらず、苦もなく処理してしまうのです。AIの進化はますます加速していますし、すさまじいものがあります。そんななかで、データをレバレッジして正しいことをやるという方向にどんどん向かっていると感じます。
一休は、昨日今日で始まった話ではなく、常にAIドリブン経営に向かって動いてきたという感じです。世界的に見ても、企業の経営はそちらの方向に向かっていますよね。
日本の場合、ボトルネックになると考えているのが人材の流動性です。これは友人から聞いた話なのですが、ある日本企業ではデータドリブンの取り組みが進んでいない一方で、アメリカの子会社ではデータドリブンが行き渡っていると。
日本の本社でデータドリブンが進まないのはなぜかというと、それが浸透することで仕事を奪われることを恐れて、社員がデータを渡さないというんです。
アメリカの企業でそんなことをしたらクビだと思いますが、日本ではそうした事例が至るところで起きている。これは、そもそも人材の流動性が低いことに起因した動きだと思いますね。
若者こそ、データドリブン経営によって活躍できる
一休では、どうすることが顧客にとってより素晴らしい体験を生むかを考えて行動することを求めています。
考えたうえで、例えばチームをなくして人材を配置転換したほうがいいのであればそれも辞さない。顧客にとって有益になる仕事をしたほうが、社員にとっても将来的にメリットがあると思っています。

日本には優秀なミドル層が多いことも、製造業などでは強みとして機能していましたが、情報化が進みAIをはじめとするテクノロジーでレバレッジが利くようになった現在は、逆に枷(かせ)となってしまうかもしれません。
記事の前編でもお話ししましたが、アメリカのようにひとりの優秀なトップへ全張りするのは、日本人のメンタリティーだとなかなか難しい。そんななか、日本ではトップマネジメントに直言するような若い人材が現れるといいなと。
若い方々にお伝えしたいことは、会社単位でも事業単位でもかまいませんが、いまはひとりの若者、ひとりの社員がすべてを変えられる時代だということです。データドリブンによって、ぜひ行動を起こしてもらえたらと思いますね。

この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
執筆・編集:加藤智朗
撮影:大橋友樹
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)