今回の悩み
「いわゆる“就職したい企業ランキング”などで常に名前が挙がるような大手商社に勤めています。
最近どこの会社でも増えている3年以内の離職者を少しでも減らして、長く働いてもらうためにも、新入社員には丁寧な指導をして手取り足取り教えるような習慣があります。
一方で、狭き門を勝ち抜いてきた優秀な新入社員からすると、『子ども扱いしないでほしい』という声がささやかれているのも耳にしました。
今の新卒社員は学生時代にインターンや起業の経験など、私たちの頃より社会経験豊富な状態で入ってくる気がします。
しかし、基礎から仕事をしっかり覚えてほしいからと雑務からスタートさせたり、これまでと同じ型にはめた新人研修を行っていたりという会社の状況もあり、今の若い人とのニーズにギャップを感じます。管理職として、どうするのがいいのでしょうか」
宮原さんの回答

回答者:宮原淳二さん 東レ経営研究所 DE&I共創部 部長
約20年前、当時“働き方改革”の先陣を切っていた資生堂に入社し、営業、商品開発・マーケティング、労働組合専従、人事部など様々な業務を経験した。特に男女共同参画・WLB(ワークライフバランス)の分野で中心的に活躍、当時まだ珍しかった男性育児休業も取得。マネジメント経験も豊富。2011年より東レ経営研究所に転職し、働き方改革に関する講演や政府の審議会委員なども務める。
ご相談ありがとうございます。
昨今の学生は既に起業の経験があったり、企業との商品開発などの共同プロジェクトの経験があったりと、社会人に近い体験をしてきている学生も多いですよね。我々のように「白紙で入社し、会社色に自ら染まる」と言われた世代とは全く違う世代になってきているのも事実でしょう。
米国のように大企業よりもベンチャーで最初から働きたい、また仕事をきちんと任せてくれないのなら別の会社に転職する、という人もいると聞きますから、やはり受け入れ側も意識を変えていく必要があるのでしょう。
お客様扱いするより、最初の3年で多くの体験を

ただ、そうは言っても、新人が完ぺきに業務をこなせるわけではないので、いろいろな業務をこなしながら“つまずく”経験も、教育の一環です。失敗も教育の機会なので、それも新人時代に経験させてあげたほうがいいことの一つかと思います。
そうした経験をさせるためには、簡単な雑務だけを頼んだり、子ども扱いしすぎたりせず、ちゃんと任せてみることも実は必要になります。
下記の厚生労働省のデータでもわかるように、3年以内の離職率は高く、社会的にも大きな問題になっています。大企業であっても新卒者の25%前後が3年以内に離職しているというデータが出ています。
図:3年以内の離職者

辞められるのが怖くて、お客様のように丁寧に扱いすぎてしまう企業もあるかもしれませんが、逆に最初の3年にどこまで経験できるかということを新入社員たちはちゃんと見ています。
だからこそ、丁寧に扱いすぎるよりも、経験をもっとさせてみるのがいいのではないでしょうか。
“雑務”も本当は重要な仕事の一環
一方で、“雑務”という仕事は、本来はないと私は思っています。雑草という名前の草がないのと同様に、どんなに小さな仕事でも、全て名前があり、意味があると思うのです。その意味をきちんと説明してあげることが管理職には求められますね。
ペーパーレスの時代にコピーを取ることもないかもしれませんが、わかりやすい例としてコピーをあげてみましょう。
ただ上司に「コピーを取っておくように」と頼まれたとしても、
Aさんは、言われた通りにただコピーし、上司に渡す
Bさんは、書類の内容を確認して間違いを見つけ、修正をしてからコピー
Cさんは、コピーしたものを渡すお客様の見やすさを考えて配置し直して整理
というように人によって対応は異なってくることがあります。

どれが正解と言いたいのではなく、一つの小さな作業でもこれだけの差が出ますし、成長の機会にもなります。
最初から理解のよい若手は、何も言わなくてもCの対応をしますが、たいていはAが多いです。そんなとき、コピーという小さな作業一つでも依頼する側が「BもしくはC」の対応ができるように、指導する必要がありますね。
忙しい中堅社員などをフォローすることも重要な役割なのです。使われる場面などを説明することで、彼らの意識はさらに変わってくると思います。
そしてこの書類の中身に対して、興味を持つかもしれません。いずれ自分もこうした仕事にかかわる立場になるんだ、と。
上司や受け入れる側が、
まめに成長に気づいてあげる
最初にあったような“丁寧に育てる”というのであれば、こうした周囲からのコミュニケーション面や作業面で気づきを与えることはとても重要だと思います。
しかしながら中小企業など、人員に余裕のない組織は多いのではないでしょうか。
管理職が忙しすぎて、若手に時間が割けないという会社は少なからず存在します。そんなときは、自己啓発を促すことも重要です。
私がいた会社では、会社の業務に役立つ資格を取ったり、直接は業務に関係ないものでも通信教育などで学びを修了したりすると、会社から半額程度の奨励賞が贈られていました。
通常は、人事部からその人がいる部署に「修了証」がきて、上司が本人に直接渡して終わりです。
しかし、私が以前指導されたある上司は、必ず朝礼でみんなの前でその修了証を渡してくれるのです。資格取得のために夜間や休日を利用して勉強している姿は先輩社員にも刺激になります。
朝礼の場でそうして機会を作ってくれたことで、自尊心が高められた思いがしました。“もっと成長したい!”という次への励みになりました。

つまずきも成長も、小さいことに目を配る
“つまずき”体験も必要、と最初に書きましたが、「こんな仕事は楽勝です」と思う若手でも失敗はつきものです。
そうしたときは、あえて失敗を待つ姿勢も重要ですね。
「ほら、言っただろう」という気持ちになることもあるでしょうが、部下の失敗を温かい目で見守る姿勢も大事ですね。
つまずいたときもこうして小さなステップを上ったときも、どう声をかけコミュニケーションを取っていくかが、やはり人を育てていきます。
動物などは、ある時期になったら餌を自分で捕らせるようにしており、一人前に捕れるようになったら、もう構わないようです。
しかし、人間には言葉があります。
きちんと言葉でコミュニケーションを取りながら、「小さな成功の芽」を見つけてあげるつもりで、どんどん経験をさせてあげてはいかがでしょうか。

この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
構成・編集:岩辺みどり
写真:鈴木愛子
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)