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【最先端】渋沢栄一の故郷、
深谷市で始まったアグリテック集積戦略

【最先端】渋沢栄一の故郷、深谷市で始まったアグリテック集積戦略

「アグリテック」 とは、農業(Agriculture)と技術(Technology)を融合させた造語です。IoTやビッグデータを活用し、農薬散布にドローンやロボットを用いるなどして、農業領域でICT技術を使っていくことを意味します。2019年6月、深谷ねぎをはじめとする農作物の一大産地の埼玉県深谷市は、農業と最先端技術の融合を目指す「DEEP VALLEY アグリテック集積宣言」を発表し、人口減少や高齢化による農業課題の解決に向けて動き出しました。5年後の現在、技術革新と農業の融合はどう進んでいるのでしょうか。深谷市の「アグリテック集積戦略」の現在地と未来を見ていきます。

目次

今、世界中で注目を集めている「アグリテック」。ICTやロボット技術を活用した新しい農業で、日本では、農林水産省が推奨する「スマート農業」と同義語として使われています。

アグリテックが注目される背景には、農業に携わる人の減少が挙げられます。同時に農業に携わる人々の高齢化も深刻で、後継者不足に悩まされています。

資料:農林業センサス、農業構造動態調査(農林水産省統計部)
資料:農林業センサス、農業構造動態調査(農林水産省統計部)

国際的に取り組まれているSDGsでも、持続可能な農業の促進が掲げられています。

政府は、2025年度までに食料自給率を供給熱量ベースで45%にするという目標を掲げてはいるものの、農業の担い手が減少している中で、生産性を上げ、自給率をアップさせるには、アグリテックの普及が必要になっていきます。

深谷市の「DEEP VALLEY アグリテック集積宣言」

農業とテクノロジーを融合させるアグリテックの市場規模は、国際的にも拡大してきていますが、深谷市では、2019年に、農業と最先端技術の融合を目指す「DEEP VALLEY アグリテック集積宣言」を発表しました。

深谷市が掲げるアグリテック集積都市像(画像提供:深谷市)
深谷市が掲げるアグリテック集積都市像(画像提供:深谷市)

深谷市産業振興部産業ブランド推進室の室長補佐の福嶋隆宏さんは、1年間準備に費やしたといいます。

福嶋隆宏さん。埼玉県深谷市出身。2000年に深谷市に入庁し、2018年から現職。深谷市の産業ブランディング推進方針に掲げる「儲かる農業都市ふかや」の実現に注力している
福嶋隆宏さん。埼玉県深谷市出身。2000年に深谷市に入庁し、2018年から現職。深谷市の産業ブランディング推進方針に掲げる「儲かる農業都市ふかや」の実現に注力している

福嶋「今問題になっている地域人口の減少と生産者の高齢化は、深谷市でも起きています。現在の人口は約14万1000人ですが、40年後には9万人台になっていきます。生産年齢人口が激減し、65歳以上の割合は20%台から45%に上がっていきます。

産業振興は自治体の経営そのもの。教育や医療、社会保障費、道路整備など、自治体のサービスをこれからも続けていくために、収入を増やしていかなくてはならない。そのために産業ブランド推進室が立ち上がりました」

地方経済の危機に直面した深谷市の戦略

持続可能な自治体経営を目指す、その核となったのは「深谷といえば何か」でした。

福嶋「誰もがイメージするのが深谷ねぎですが、深谷市の農業での収入は290億円ほど、そして、製造業は約5000億円、商業は約3000億円ですから、実は、農業の規模は全体の中では大きくはありません。

しかしながら、深谷らしさである農業を核にして儲かる農業都市を実現すれば、工業、商業、サービス産業も盛り上げていくことができる。そう信じて進めてきました」

福嶋「深谷市は、渋沢栄一の故郷ということもあって、もともとチャレンジ精神が旺盛な風土があります。さらに市長も商人なので、『失敗を恐れることなくチャレンジしよう』という考え方を持っていました」

2019年3月に深谷市は農業とそれに関連する領域の発展に寄与する企業をターゲットとした誘致策として、「アグリテック集積戦略」を策定。同年6月に東京都内でプレス発表会を行った際には、30社近いメディアが集まりました。

アグリテックのコンテストを開催し企業を誘致

深谷市が目指す集積都市像は、企業の成長を支援する仕組みを生み出すこと。

DEEP VALLEYのWEBサイト(写真提供:深谷市)
DEEP VALLEYのWEBサイト(写真提供:深谷市)

福嶋「アグリテック企業が集積する農業版シリコンバレーを目標に、深谷という名前から『DEEP VALLEY』を掲げ、深谷市はWEBサイトを立ち上げました。

本市主催のアグリテックのコンテストを開催することを決め、深谷市の農業課題の解決に資する技術やアイデアを募集することにしました」

コンテストは「DEEP VALLEY Agritech Award」と名付けられ、2019年から毎年開催されており、2024年も8月16日にエントリーが終了しています。

賞金ではなく投資をし、深谷市と連携してもらう

現在、国内でも同様のコンテストが複数開催されてきていますが、深谷市はその先駆けとなりました。

審査のポイントは、「需要性」「経済性」「独創性・競合優位性」「継続性」「実現性」の5つ。提案の内容を評価する審査員には北海道大学の野口伸教授をはじめ、農水省、グローバル企業、ベンチャーキャピタルなど、錚々たる顔ぶれがそろいました。

有識者による審査後の的確なフィードバックも、アグリテック企業の活力になっているといいます。

2023年の「DEEP VALLEY Agritech Award」の表彰式の様子(写真提供:深谷市)
2023年の「DEEP VALLEY Agritech Award」の表彰式の様子(写真提供:深谷市)

福嶋「最優秀賞を受賞した企業には、株式取得のための出資交渉権として1000万円を上限として授与しています。単なる賞金ではなく出資としているのは、このアワードを機に、市と企業との継続的な関係性を構築していきたいという目的があるからです」

受賞企業の実証実験が行われ事業も育っている

受賞企業に関わらず参加企業に対して、深谷市での実証実験や事業化を図るためのサポートが行われています。

2019年の第1回でコンセプト部門最優秀賞を受賞した株式会社PROPELaは、地産地消DXを推進するサービス「地産Market」をリリースし、深谷市内で実証実験を実施しました。

2020年に現場導入部門最優秀賞を受賞したアグリテックベンチャーの株式会社レグミンは、アワードへの応募をきっかけに、本社を本市に移転。自動農薬散布ロボットの実用化を進め、実証実験を重ねてきました。現在、農家から受注する形で実用化しています。

農家からの依頼で農薬散布を行うレグミンのロボットとスタッフ
農家からの依頼で農薬散布を行うレグミンのロボットとスタッフ

アグリテック企業の挑戦の場

福嶋「コンテストの開催目的が、アグリテック企業に『深谷に行けばなんとかなる』『活用のための実証実験を行える理解と風土がある』と思ってもらうことだったので、目的は順調に達成していっているといえます」

深谷市産業振興部産業ブランド推進室の室長補佐の福嶋隆宏さん
深谷市産業振興部産業ブランド推進室の室長補佐の福嶋隆宏さん

農家側からも「炎天下の農薬散布をロボットがやってくれるならそのほうがありがたい」などの声が上がり、実験に協力してくれる農家も増加。現在、全国各地の自治体が深谷市の取り組みを視察に訪れているといいます。

次回は、「DEEP VALLEY Agritech Award」で受賞し、その後深谷市と連携を図って技術革新を進めるアグリテック企業の現在についてお伝えします。

この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております。

編集:岩辺みどり
デザイン:山口言悟(Gengo Design office)
取材・文:Yoshimura Maru(編集オフィスPLUGGED)
写真:小野さやか

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