
マネジメントの危機から生まれた「完コピ読書術」
「完コピ読書術」を生み出す以前は「完全にビジネスパーソン劣等生だった」というあつみさん。25歳で結婚・出産を経験し、専業主婦を経て28歳で仕事復帰した当時の自分を「何もできないのにプライドだけが高い状態」と振り返ります。
あつみ「思うように成長できず、突破口を求めていろいろな本を読んでいました。ただ、難しい本を手に取って賢くなった気になっているだけで、実際はよくわからないから途中で読むのをやめることを繰り返していて。
夫の本も含め、家には約100冊のビジネス書がありましたが、3割以上読んだ本はほとんどなかったと思います」
結局何も身に付かないまま、仕事復帰をしてからの5〜6年間は鳴かず飛ばず。転機となったのは、33歳で営業マネジャーとして営業部の立て直しを命じられたことでした。

あつみ「売り上げ目標を達成したことがない状況で、業務委託メンバーの契約をどうするか、半年で判断するように言われました。
でも、当時の私はマネジメント経験がほぼなくて。『私の背中を見て学べばいいのに』と思うのに誰も学んでくれないし、もう、めちゃくちゃ行き詰まったんです」
そんなときに出合ったのが、累計発行部数300万部を超えるベストセラー「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、通称「もしドラ」です。
これまで本を読破したことがほとんどなく、読書になじみがなかったあつみさんでしたが、会社から帰宅する電車で一気読み。車中で「人目もはばからず大号泣した」と言います。
あつみ「自分のマネジメントが全部間違っていたことに気が付きましたし、フィクションとはいえ、高校生ができることを自分は何もできていないことがとにかくショックだったんです」

泣き腫らした顔で保育園へ子どもをお迎えに行きながら、あつみさんの胸にはある考えがよぎっていました。
「今うまくいっていない自分のマネジメント方法と『もしドラ』は真逆。だからこそ同じようにできたら、このチームは変わるかもしれない」
チーム全員での完コピ実践と劇的な成果
翌朝、あつみさんは思い切った行動に出ます。メンバーを会議室に集め、これまでの自分のマネジメントを謝罪。その上で、「もしドラ」を全員に配り、「みんなでこの本を完コピしよう」と提案したのです。
あつみ「突然だったのでみんな驚いていましたが、面白そうだからと全員一致でやることになって。そこからチームで1冊の本を教科書に、完コピする体験を半年かけてやっていきました」

その結果は驚くべきものでした。売り上げは3倍に跳ね上がり、目標を200%達成。この成功体験が、その後の「完コピ読書術」の基礎となりました。
完コピ読書術の最初のステップは、完コピする「師匠本」を1冊決めること。その第一歩は「本棚を眺めること」だと言います。
あつみさんは、その選び方について重要なポイントを示します。

あつみ「何が自分に足りないのか、どういう人になりたいのか、明確な人は少数だと思います。
でも、本を何冊も買っているということは、本当は理想像のようなものがあるはず。たくさんある本の中から選んで、お金を払って買った本ですから、その集積値は自分に対するものすごいメッセージだと思います」
完コピ読書術は「なりたい自分」になるための読書術。「絶対にこうなりたい」という執着心が完コピへのモチベーションにもなります。


あつみ「例えばマネジメントの本で、全くの新しい切り口で書かれた本は少ないと思います。大事なことはどの本にも大体書いてあるからこそ、自分との相性が大事。
そう理解した上で書き方や整理の仕方がしっくりくる1冊を選べば、他の本に目移りせずに済むと思います」
「後がない」必死さが完コピを成功に導く
「面倒くさがりで三日坊主、最後まで読めた本は数えるほどしかなかった」というあつみさんが『もしドラ』を完コピできたのは、「もう後がない」という必死さにあったといいます。
あつみ「33歳で3人目を生んで子育てがさらに大変になる中、目の前のマネジメントはうまくいかないし、私のキャリアはどうなっちゃうんだろうって追い込まれていましたから」

追い込まれたときは、必死になるチャンスでもあります。
あつみ「そういうときって忙しさも関係なくなるんですよ。私自身、『もしドラ』を完コピしたのは幼い子どもを3人育てながら仕事をしていた、一番忙しかった頃でした。
だからこそ、これからどうやってキャリアを積み上げていけばいいんだろうと悩んでいる人に、完コピ読書術を伝えたいですね」
後編では、読書に苦手意識がある人に向けた実践的なアドバイスを紹介していきます。

執筆:天野夏海
撮影:大畑陽子
バナー写真:delmonte1977 / gettyimages
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子