文句を言っているだけではダメ
「地方創生」を実現するには、東京と地方それぞれのマインド、カルチャー、そして行動の変容が不可欠です。
過去数十年にわたって東京一極集中を加速させてきた結果が「いま」であり、地方の人口流出や過疎化はそこにいる人たちの意思と努力だけではどうにもならない社会構造の問題になっているのです。
コロナ禍をきっかけに、地方へ移住する人や、東京圏の都市部と地方都市との多拠点居住をする人が増えました。
一方で、ここにきて再び都心回帰への揺り戻しの兆しが見えているのも、また事実です。東京と地方、それぞれにおいてどのような行動が求められるのでしょうか──。
前編では、東京圏の企業や中央省庁に求める5つの提言を紹介してきましたが、もちろん、地方側も文句を言っているだけではダメです。
後編では、地方が頑張るべき4つのことを挙げていきたいと思います。

【地方が頑張ること4つ】
1.訪問者目線での地域デザインを
せっかく東京の人たちが地方に足を運んでくれても、悪気ない「あたりまえ」が訪問者の地域体験を損なうことがあります。とりわけ、居場所や移動手段の問題は深刻です。
●仕事の作業やオンラインミーティングをする場所がない。ホテルも午前10時にチェックアウトさせられる。ドロップイン可能なワークスペースや午前11時以降にチェックアウトできるサービスを増やしてほしい。地域企業の人たちも、毎回、東京の人たちからワークスペースの有無や場所を聞かれて、答えるのも大変です。
●食事処は月曜や水曜に一斉休業、ランチタイムも午後2時に強制終了(私はこの慣習を2時の壁=「ニジカベ」と呼んでいます)。せっかく地域の地のものを食べたくても、タイミングが悪いとありつけない状況があります。午前中の会議が長引こうものなら、食事する場所にも困ってしまうのです。
●ドライバー不足によるタクシーの不足やレンタカーの不足も深刻。空港やターミナル駅のレンタカーも、日中時間帯しか営業しておらず、都市部からの出張者が朝や夜の便で現地に移動しようとしても、借りられない/返せない、かつ泣く泣く空港や駅の近くに1泊を強いられるケースもあります。自動運転やライドシェアなどの新たな試みも、都心ではなく地方からこそ始めてほしいと強く思います。
いずれも悪気ない塩対応だといえます。訪問者のペイン(痛み)を解消するためのサービスならば、高くても喜んでおカネを出す人が少なくないでしょう。むしろ、いい地域体験には喜んでおカネを出したがっている人もいます。

2.脱自前主義で“よそ者”と一緒にコトを興そう!
都市部からの訪問者のペインを解消するためには?
気持ちよく時間とおカネを落としてもらうには?
それを考えるうえで、都市部の人たちと同じ景色を見てほしいと思います。そのためにも、地域の人たちが自分たちだけでなんとかしようとする思考習慣や行動パターンを改める必要があります。東京など都市部の人たちと共創して、ものごとを進めてみましょう。
筆者は昨年末に「読書ワーケーション」という名前の新たな文化創造活動を立ち上げました。
ワーケーション社労士の岩田佑介さん、豊橋市の私設図書館「ひとなる図書館」館長の桜田純一さん、豊橋市の社労士 村井真子さんと始めた活動で、本を読みながら旅をする行動を促進する取り組みです。
豊橋市発祥の、新しい文化創造として全国の地域に広げていくつもりです。
東京などの大都市から、読書をしに来る人と地域でつながる。一緒に本の感想を共有したりワークショップをやる。
そんな景色が広がればと思いますし、そこから新たな共創が始まればと思っています。なにより、豊橋を訪れてくれる人が増えたら幸いです。皆さんの地域でも是非取り組んでみてください。
越境、共創、そしてシェア
3.共創のための筋トレを!
共創でものごとを進めるためには、個人個人の能力開発も欠かせません。以下は共創のために必要なスキルや知識の一部です。このようなスキルや知識を、地方都市の人たちも身に付けていきましょう。
- 対話スキル
- ファシリテーションスキル
- プロジェクトマネジメントスキル
- ダイバーシティ&インクルージョン
4.見えないモノやコトにもおカネを出そう!
地方において、なにより大切なカルチャーシフトです。ITやデザイン、人材育成や能力開発、高付加価値サービス創りなどにかかわる“目に見えないモノやコト”にもおカネを出しましょう。
デザイナーやライター、マーケターなど地方の老舗企業にはなかった職種の人たちに、それこそ最初は東京の人たちにリモートワークや複業・兼業で参画してもらうことで、サービス開発や高利益シフトを実現した地方の企業もあります。
「買いたたき」「下請け扱い」「業者扱い」のような、共創と逆行するような行動や言動を改める。おカネを稼ぐことが悪いこと、仕事はみんなで苦しんで当然、というような価値観も改めていってほしい。
そうでないと都市部の人たちは寄り付かず、かつ地域の単調な景色にモヤモヤを感じている人も流出し、地域の経済も知の循環も活性化しません。

真の地方創生に必要なのは、越境、共創、そしてシェアです。それは、東京と地方の双方に当てはまります。筆者、及び当社も地域企業の一員として行動し、働きかけを頑張っています。
ともに汗をかき、東京一極集中の景色を変えていきましょう。
沢渡あまね(さわたり・あまね)
作家・企業顧問/ワークスタイル&組織開発。『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰。あまねキャリアCEO/ダム際ワーキング協会 共同代表/大手企業人事部門・デザイン部門ほか顧問。プロティアン・キャリア協会アンバサダー、DX白書2023有識者委員。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。著書『新時代を生き抜く越境思考』『EXジャーニー』『組織の体質を現場から変える100の方法』『職場の問題地図』ほか。#ダム際ワーキング推進者。
この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
文:沢渡あまね
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:鈴木毅(POWER NEWS)