メタバースとは
2003年にアメリカのリンデンラボが運営を開始した「セカンドライフ」をご存じでしょうか。セカンドライフは、インターネット上の3Dの仮想空間であり、住民は自分で作ったデジタル制作物を「リンデンドル」という今でいうところの仮想通貨を使って他の住民に販売することができます。仮想空間では土地も売買されていました。
セカンドライフは、今ブームになっているメタバースの原型であるように見えます。セカンドライフは高スペックなパソコンが必要で、スマートフォンではアクセスできませんでした。そのため参加できる人が多くはありませんでした。
しかし現在はスマートフォンの普及により誰もが気軽にインターネットに接続できる環境になっており、個人向けのVRのヘッドセットも数多く登場しています。メタバースが普及する土壌がここへ来てようやく整いつつあると言えます。
メタバースは「Meta(ギリシャ語で「超越」)」「Universe(宇宙)」を組み合わせた造語です。メタバースに明確な定義があるわけではありません。現在、メタバースと呼ばれるのは、次のようなものがあります。
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仮想空間を3D化したもの
仮想空間の延長線上として3D化したものもメタバースと呼ばれます。SNSやECモール、チャットツール等も仮想世界ですが、3D化した空間となることでメタバースと呼ばれるものもあります。リアルに近くなることで、ユーザー体験が向上し、コミュニケーションが活発になることが期待できます。
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NFTを組み合わせることで新たな経済圏を作るもの
NFTはブロックチェーン上で管理するデジタルコンテンツの鑑定書のようなものです。偽造や複製を防ぎ、デジタルコンテンツに唯一無二の価値を与えます。参加者同士でNFTをやり取りすることでマネタイズが可能となり、新たな経済圏が生まれます。
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リアルと仮想で生産活動と消費活動が融合するもの
例えばアバターとして農産物の栽培に参加し、収穫されたら実物の農産物が届くといったように、リアルと仮想の空間で生産活動と消費活動が融合するものです。リアルと連動した仮想空間は、参加者の行動範囲が広くなり、新たな消費を生み出すと期待されています。
世にあるメタバースってどんなもの?
今後、メタバースが生活に浸透してくれば定義が明確になっていくでしょう。しかし現時点では「えっこれもメタバース?」と驚くものも中にはあります。メタバースと呼ばれているものにどのようなものがあるのか、イメージをつかんでいただくために代表的な例をご紹介します。
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あつまれ どうぶつの森(あつ森)
あつ森は仮想空間であるものの、インターネットに接続しなくても遊べるゲームです。一見、メタバースの要素は薄いのですが、全世界で参加者が多いため、リアル空間の要素が少しずつあつ森に入り込んだという経緯があります。例えばメトロポリタン美術館では、40万点以上の所蔵作品をデジタルデータとして公開しました。あつ森の空間世界の影響力に着目して、ジョー・バイデン氏が大統領の選挙活動に利用したということも。現在は運営元である任天堂が政治活動やゲーム外の購買行動に誘導する行為を控えるように呼び掛けています。
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ファイナルファンタジーXIV(FF14)
MMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)と呼ばれる多くの人が同時に参加するRPGです。FF14に参加する人は必ずしもゲームをする人ばかりではありません。散歩を楽しんだり、キャラクターを変えたりアイテムを追加したりしておしゃれを楽しむ人もいます。この世界の中でどのように行動するかは、ユーザー自身が自由に決めていくことができます。「まるでその世界に住んでいるような感覚を持ってもらうことが大きな目標である」と制作者も明言しているとおり、目指す世界観はメタバースにリンクする部分があります。
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The Sandbox
メタバースとNFTを組み合わせたゲームです。メタバースの土地を「LAND」として販売しており、多くの企業がLANDを活用したビジネスに取り組んでいます。ユーザーはLAND上で自作のゲームやゲームで使用するキャラクター・アイテムをNFTとして独自の仮想通貨「SAND」で売買することで、マネタイズすることが可能です。The Sandboxは2022年3月に「アルファシーズン2」をリリースし、すべての人が全コンテンツを楽しめるようになりました。今後普及をしていけば、LANDやSANDの価値が上がっていく可能性が大きく広がります。
このようにみると現時点ではゲームとの親和性が高いように見えますが、メタバースの世界は、ビジネスの領域にも着実に広がっています。例えば社内オフィスを仮想空間に構築することで、距離の制約の解消を目指すメタバースがあります。メタバースが仮想空間となるだけでなく、ワークスタイルを変革する可能性を秘めています。そこで次章からはワークスタイルの観点からメタバースを紹介していきたいと思います。
Microsoft Teamsもメタバースに?
ビジネス空間のメタバース化も注目されています。それを実現するのが、マイクロソフト社が2022年中に提供を開始する予定の「Mesh for Microsoft Team」です。Meshでは、Web会議に自分の化身となるアバターで参加することができます。アバターはユーザーの話に合わせて顔のアニメーションが動きます。またヘッドセットのセンサーでユーザーの動きを捕捉し、参加者がうなずけばアバターもうなずくなど、動作を連動させます。自宅からWeb会議に参加する時には身なりを整えることに気を使いますが、アバターではその必要がありません。
さらにTeams上にイマーシブ空間と呼ばれるメタバースの空間を作ると、参加した人がそれぞれアバターとなって仮想のオフィスに集まり、会議を行うことができます。アクセンチュア社では、Teams上にメタバースの空間を構築する取り組みを2017年から実施しています。One Accenture Parkと呼ばれる仮想空間には、中央に会議室があり、複数のオフィスや役員室があります。毎年、新入社員はOne Accenture Parkで研修を受けています。また年に数十ものイベントが One Accenture Parkで開催され多くの社員が参加しています。メタバースの空間に参加すると、いきなり同僚である別のアバターと遭遇することもあります。「自然に雑談が生まれ仮想空間であることを忘れるほど、自然にコミュニケーションができる」という社員の声は、メタバース空間の可能性を感じさせます。
メタバースで働くことと、テレワークで働くこととの違いとは?
新型コロナウイルス感染症拡大による第一回目の緊急事態宣言から2年が経過する現在でも、多くの人がテレワークを実施しています。リコー社やセールスフォース社など大手企業が次々にテレワークの恒久化を発表し、ヤフー社は全国どこからでも通勤可能としました。今後もテレワークは働き方として定着し、オフィスとテレワークを組み合わせたハイブリッドな働き方が主流になると見られています。
しかし、依然としてテレワークには課題も残ります。遠隔でコミュニケーションを取ることに慣れてきた一方で「雑談が減った」「チーム以外の人との交流がない」といった声も聞かれます。Web会議は問題解決型のため、認識を共有したり合意を形成したりといったことは問題なくできますが、雑談やブレーンストーミングはやりにくい面もあります。また遠隔にいる人との連携に負荷がかかるため、必要な連携を取らず自分だけで仕事を完結してしまいがちだという声も聞かれます。また働く様子がわかりにくいため、管理者の負荷も高くなります。さらにメンバーは常に働いていることを発信していく必要があり「きちんと評価されているか」という不安もつきまといます。
こうした課題もメタバースを活用すれば解消できる可能性があります。メタバースの完成度が高ければ、オフィスにいる時と同じようにコミュニケーションできるからです。他の部署の人とも廊下ですれちがってちょっとした会話ができるかもしれません。仮想オフィスに入れば、チームの誰かが困っていることが一目でわかるかもしれません。そういった「空気感」を感じさせる空間にメタバースがなる可能性を秘めているのです。
実際に「メタバース」を体験してみた!
実際にOculus Quest 2(以下Oculus)を利用して、メタバースを体験してみました。アプリケーションとしてHorizon Workrooms、連携用端末としてMacBook Pro(以下 PC)を利用し、仮想空間内で今回の体験用に準備した業務を実施しました。
Oculusは、これまでに装着したことがあるVRゴーグルと比べて非常に軽く、さらにゴムバンドで固定されるため、頭を動かしてもゴーグルは大きく揺れず、ストレスの少ない装着感でした。ただし、眼鏡を掛けたまま装着すると、付属のメガネスペーサーを付けていても違和感を覚えました。慣れてくると眼鏡でも違和感は少なくなりますが、やはりコンタクトに変えて利用した方が、ストレスフリーに没入できました。
また、Oculusは初回使用時に、スマートフォンでアプリの登録やWi-Fiの設定をする必要がありますが、ゴーグルを着脱しながらの作業になるため、多少の手間を感じました。
Oculusの設定後に、Horizon WorkroomsとPCを連携させて、チャットや資料作成を実施しました。
上の画像のように、Horizon Workroomsの仮想空間内にキーボードも自分の手も映るため、リアルと同じようにPCを操作できます。チャット返信など単純な業務は、問題なく実施できましたが、資料修正などディテールが求められる業務は、ゴーグルを通さない方がしやすいです。また、仮想空間内にPC画面があるため、会議資料ファイルを見ながら打ち合わせをすることもできます。
3時間程度利用したところ、ゴーグルの装着、Oculus内でのMac画面の閲覧、キーボードの操作にも違和感がなくなってきました。また、自分のジェスチャーがそのままアバターに反映されるため、より没入感のあるコミュニケーションが可能でした。
時勢の関係で、リモートワークが増加し対面の機会が減少しました。その状況下で、より豊富なコミュニケーション手段として、メタバース利用のポテンシャルを感じています。下記の写真は上長との1on1ミーティングの風景です。会議室ではなく、海の見える開放的な場所でリラックスしてコミュニケーションを取ることができました。
Oculus Quest 2を少数ながらお貸し出しすることが可能ですので、ご興味のある方はお問い合わせ下さい。また、メタバースに限らずお客さまの環境に適したワークスタイルのご提案が可能です。是非お気軽にお問い合わせください。