なぜ中小企業でDXが進まないのか
コロナ禍で中小企業にもリモートワークが求められ、デジタルシフトが進んだと言われます。しかしその内実は、Web会議やチャットなどのツールの導入にとどまっているケースが少なくありません。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2023年2月9日の発表した「DX白書2023」がサブタイトルに掲げた「進み始めたデジタル、進まないトランスフォーメーション」は、まさにその現状を物語っています。
同白書によれば、日本でDXに取組んでいる企業の割合は2021年度調査の55.8%から2022年度調査では69.3%に増加しており、DXに取組む企業の割合は着実に増えていることが見て取れます。ただし全社戦略に基づいて取り組んでいる企業の割合は、米国の68.1%に対して日本が54.2%にとどまっているのが実情です。
さらに中小企業に目を向けると状況はどうでしょうか。中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が2022年5月に公表した「中小企業のDX推進に関する調査 アンケート調査報告書」によれば、従業員規模101人以上の企業ではDXに「既に取り組んでいる」が23%となっており、「取り組みを検討している」の34%と合わせれば6割近い企業が何らかの動きを開始しています。しかしその一方、従業員規模20人以下の企業では「既に取り組んでいる」は2.9%と極めて低く、「取り組む予定はない」という企業も56.2%と過半数を占めているのが現実です。
DXへの一歩を踏み出す方法
中小企業がDXに踏み出す上で、具体的にどんなことが課題となっているのでしょうか。先の中小機構の調査結果によれば、「DX に関わる人材が足りない(31.1%)」、「ITに関わる人材が足りない(24.9%)」などデジタル/IT 関連の人材不足のほか、「具体的な効果や成果が見えない(24.1%)」、「予算の確保が難しい(22.9%)」が続いています。
出典:中小企業基盤整備機構 「中小企業のDX推進に関する調査 アンケート調査報告書」(2022年5月) P13
特に従業員規模20人以下の企業に限定すると、「予算の確保が難しい(26.4%)」という回答が最も多く、これに「具体的な効果や成果が見えない(24.3%)」、「DXに関わる人材が不足(23.5%)」、「何から始めてよいかわからない(22.8%)」が続いています。
出典:中小企業基盤整備機構 「中小企業のDX推進に関する調査 アンケート調査報告書」(2022年5月) P13
DXに取り組みたくても余裕のない、中小企業の切実な状況が見て取れます。しかし最初から完璧な体制を整えてから始めることに固執していたのでは、いつまでたってもDXを実現することはできません。
大切なことは発想を転換し、「とにかくやってみる」「DXをスモールスタートさせる」ことです。まずは身近で取り掛かりやすいペイン(困りごと)から始めましょう。
中小企業におけるDXへの取り組み事例
実際に身近な課題からDXへの取り組みを開始し、業務効率化や働き方改革の成果を上げている中小企業の事例を紹介します。
①道路設備サービス TSK株式会社の事例
TSK株式会社は高速道路を中心とした設備の保守サービス、製品販売、システム開発、工事を4つの柱とする事業を展開しています。しかしB to Bでの部品や部材の販売を手がける中、昨今の原材料高は同社の経営に甚大な影響を及ぼしています。材料の値上げ分を単純に価格に転嫁できない場合も多く、さらなるコスト削減が急務となっていました。
そこで踏み出したのがDXのスモールスタートです。全国の営業所を合わせても30名程度の小規模な会社だからこそ、コスト削減の手段としてデジタルテクノロジーによる業務の効率化が最も効果が大きいと考えたのです。
こうしてTSK株式会社はクラウドベースのグループウェアであるGoogle Workspaceと、その機能を拡張するワークフロー製品を導入。これまで紙で行われていた決裁業務をデジタル化するとともに、テレワークにも対応して従業員の業務負担を軽減しました。
この結果、これまで管理職が不在だと完全にストップしていた決裁のほとんどが当日中に終わるようになり、業務は大幅にスピードアップしました。あわせて出退勤報告や物品購入など決裁以外の申請書もすべてデジタル化したことでペーパーレス化も進むなど、様々な無駄を省いてコストを削減するとともに、意思決定までの時間を大幅に短縮してビジネスチャンスを拡大しています。
(参考)
Google Workspace と拡張ツールにより決裁業務をデジタル化
業務環境の改善と効率化によって原材料高とコロナ禍に立ち向かう
②害虫駆除・有害生物対策サービス 株式会社三条害虫の事例
害虫駆除・有害生物対策サービスや、飲食店の消毒作業などの衛生管理業務を主事業とする株式会社三条害虫は、紙によるスケジュール表により業務を回していました。手書きもしくはExcelで作成したスケジュール表を紙に出力して事務所に掲示し、変更があれば各自それぞれに新たな内容を上書きしていくという運用です。
ただし、そこには多くの課題がありました。従業員の多くの占める技術担当者や営業担当者はほとんど社外で活動しているため、顧客から突発的な依頼が入った際に誰が対応できるのか、社内に残った事務担当者が一人ひとりと連絡をとって最新のスケジュールを確認しなければなりません。長時間にわたって顧客を待たせてしまうなど、サービス品質の低下を招く要因となっていました。
加えて現場で必要となる顧客情報や作業指示書、関連資料なども紙での状態で管理されていたため、情報伝達もプリントアウトした書類を手渡しで行うほかありません。
この課題を克服すべく、株式会社三条害虫はデジタル化による業務変革を目指してGoogle Workspaceを導入。まずはGoogleカレンダーによるスケジュール共有から始めたところ、現場を飛び回る技術担当者や営業担当者からも「外出先からスケジュールを更新しても、その内容がすぐに反映されて事務の人たちにも伝わるので、突発的な案件にも対応しやすくなる」という高い評価を得て、利用が広がっています。
一方、事務担当者も誰がどこにいるのかひと目で把握し、顧客の現場の近くにいる人を素早く効率的に手配できるようになりました。これにより無駄な残業を削減するとともに、顧客からも「すぐに対応してもらえて助かった」といった喜びの声が寄せられるなど、サービスに対する満足度を高めています。
(参考)
Google Workspace の導入により業務効率化とサービスの向上を実現
IT部門のない地域密着型企業が取り組む“いいとこ取り”のDXとは
まとめ
見方を変えれば、組織がコンパクトであるほどDXは着手しやすく、まさに中小企業ならではの特権とも言えます。
DXを推進することで、経営基盤の強化や新事業創出、販路開拓、海外展開、事業承継といった課題を解決し、持続的な成長を遂げることが可能となります。