世の中では生成AIが大きなブームを呼び起こし、多くの企業がこの技術の導入に向けて動き始めています。ただ、そうした中では生成AIがあたかも“打ち出の小槌”であるかのような過剰な期待を寄せていたり、「生成AIにほとんどの仕事を奪われる」といった誤った流言に惑わされていたりするケースも少なくありません。生成AIを効果的に使いこなすためには、まずその本質を正しく理解することが重要です。生成AIは多くのビジネスパーソンが待ち望んでいたデジタルのアシスタントであり、人材の能力を大きく伸ばしていく可能性を持っています。
生成AIの概要と特徴
これまでもAIは多くの企業に注目されてきました。その中心に位置するのはマシンラーニング(機械学習)やディープラーニング(深層学習)といった技術で、特定の用途(業務)における情報検索やデータ分析、画像認識、自然言語処理、将来予測といった分野で活用が進められてきました。
ただし、そんなAIといえども誰にでも簡単に使いこなせるものではありませんでした。用途に応じた学習モデルを開発するためには、数理科学や統計学、プログラミングなど、データサイエンティストの高度なスキルが要求されるためです。
これに対して生成AIは、従来のAIと同様にディープラーニングの技術をベースとしながらも、人間が意図的に与えていない情報も大量に取り込みながら、AIがみずから学習を重ねることで、まったく新しいコンテンツを生み出すことを特徴としています。
生成AIが画期的なのは、その利用面です。生成AIはこれまでのAIと比べて圧倒的に高い汎用性を持っているため、対話型のユーザーインターフェースを組み合わせることで、誰でも簡単に利用することができるのです。たとえばチャット形式で生成AIとやり取りを重ねることで、文書作成はもとより翻訳や文章の要約など、多岐にわたるアウトプットを容易に得ることができます。
すなわち生成AIは人間の相棒やアシスタントとして、さまざまな業務を支援してくれるツールとなりえるのです。
生成AIの種類
生成AIが世界的に注目されるようになったのは、OpenAIが2022年11月より公開を開始したAIチャットサービス「ChatGPT」が大きなきっかけとなっています。
ChatGPTは、もともと小説やゲーム内でのキャラクターとの会話を自動生成することを目的に開発された「GPT」と呼ばれる大規模言語モデル(LLM)をベースとしており、与えられたプロンプト(指示)に基づいてテキスト形式のコンテンツを生成します。
インターネット上にある膨大な情報をすでに学習済みで、日本語を含むさまざまな言語による自然な対話を行えるのが特徴です。
そしてGPTは現在もアップデートが進められており、2023年2月にGPT-3.5、2023年3月にGPT-4がリリースされました。出力されるコンテンツの精度を高めるとともに、テキストのみならず、画像や音声なども入力データとして利用できる「マルチモーダル」に対応したことが、GPT-4の機能強化のポイントです。
もちろんChatGPTに代表されるテキスト生成だけが生成AIではありません。入力された指示に基づいて画像や動画、音楽、音声を生成するものなど、さまざまな生成AIのサービスが登場しています。
加えて新たな動きとして注目していただきたいのが、生成AIを単体サービスとして提供するのではなく、日常的に使われている業務ツールに生系AIの機能を実装するというアプローチです。
マイクロソフトが発表した「Microsoft 365 Copilot」は、Microsoft 365に実装された生成AIで、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Teamsなどのアプリ上でシームレスに生成AIの機能を活用することができます。同様に Google が発表した「 Duet AI for Google Workspace 」も、Google Workspace の Gmail やドキュメント、スライド、スプレッドシート、Meet などのアプリに生成AI機能を追加します。
これらのサービスではより簡単に生成AIを活用することが可能で、シンプルな指示のやり取りを重ねるだけで、目的とする文書や資料のたたき台づくりや編集、要約などを行うことができます。
生成AI活用による働き方の変化
生成AIに対して、一部には「人間が担ってきた多くの仕事が奪われる」といったネガティブな意見も散見されます。
しかし、これはあまりにも近視眼的と言わざるを得ません。生成AIの本質は、煩雑で価値の低い業務から人間を解放することにあるのです。
これまでITシステムは、さまざまな定型的な業務を効率化・省人化することに寄与してきました。従来型のAIも同様です。ただし、そこに非定型的な要素が入り込むと、これらのシステムでは処理できず、どうしても人間が対応せざるを得ませんでした。たとえば会議の議事録のとりまとめや、商談や講演のプレゼン資料づくり、メールの確認といった作業に膨大な時間をとられているのが実情です。ただでさえ人材不足、人手不足が叫ばれている中で、生産性の低い業務に貴重な人的リソースを無駄に消費していました。
そこに生成AIを適用することで、仕事の進め方は大きく変わります。たとえば、先に紹介したMicrosoft 365 Copilotや Duet AI for Google Workspace などを活用することで、議事録の作成であれば会議の音声をテキスト化し、さらにその内容の要点をまとめるといった一連の作業を自動化できます。プレゼン資料も生成AIとの対話を重ねることで、PowerPointなどのツールを直接操作することなく作成することができます。
これよって人間は、より付加価値の高いクリエイティブな業務に専念することが可能となります。しかも、そういった場面でも生成AIを役立てることが可能です。たとえば企画を立てる際に、断片的なアイデアや情報を入力し、生成AIから助言を得るといった使い方が考えられます。
自然言語で指示を出すだけで目的のプログラムコードやテストデータを作成する生成AIも登場しており、システム開発のあり方も大きく変化する可能性があります。
まとめ
生成AIは、従来のITシステムでは対応できなかった業務領域にデジタル化のメリットを拡大します。これまで単純かつ煩雑な非定型な作業に貴重な時間を取られていた、特にホワイトカラー層の業務効率化や生産性向上に大きく寄与すると考えられます。
そのぶん人材をより創造性が重視される業務にシフトしたワークスタイル変革やDXを推進することが可能となります。また、そうした新たな働き方の中でも生成AIは良きアシスタントとなり、漠然としたアイデアを具体的な企画や設計などの形にしていくプロセスを強力にサポートしてくれます。
ただし、生成AIの便利な機能に依存しきっているだけでは、革新的な価値を生み出すことは難しいでしょう。生成AIと協働するという前向きな考え方に立ち、この技術を自らの能力向上に積極的に役立てていくことが最も重要です。