DX(デジタルトランスフォーメーション)は、なぜ必要なのか
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、経済産業省のデジタルガバナンス・コード2.0(旧 DX推進ガイドライン)で、以下のように定義しています。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
ここで注目したいのが「競争上の優位」です。デジタル技術を活用して顧客のニーズを把握した既存のビジネスモデルを根底から覆すような新規参入者が現れ、既存の大手企業から一気にシェアを奪って逆転するといった事例が見受けられます。例えば、いままで高額で提供されていたサービスを、従来とは異なるマネタイズ戦略により無料で提供する企業が突然あらわれ、急速にシェアを奪われ、既存プレーヤーはディスラプトされるという現実です。
ここから言えることは、DXに取り組まなければ、顧客に選択されず、会社は競争優位性を失いかねないということです。2000年前後に巻き起こった「IT革命」のように、デジタル化を進めて業務の一部を改善するといったものではなく、DXでは「顧客視点」がより重要になっているのです。
連絡手段の多様化により届けた情報を見てもらえない事態も
経済産業省のDXの定義に「顧客や社会のニーズを基に」とありました。顧客や社会が求めているものをどう把握し、どう自社に反映させていけばよいのでしょうか。
例えば、何が流行するかを予測するのは至難の業ですが、顧客が使っているデバイス、通信環境、コミュニケーション手段の変化は、ある程度予測がつきます。スマートフォンは年々普及し、今後も伸び続けるだけでなく、次世代通信技術「5G」や「IPoE」などネットワークの大幅な進歩により、あらゆるモノとモノがつながるIoT時代が本格的に到来することが予測されます。それを裏付けるかのように、我が国におけるインターネットのトラフィックは加速度的に伸びています。
※参考「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算- 総務省」(2022年5月)
こうしたマクロの変化を捉えたら、企業の情シスや経営者はどのようにデータを活用し、それによってどのような新しい価値を創出するのかの戦略やビジョンを提示が必要になります。
顧客のニーズを把握するうえで欠かせないのが、顧客とのコミュニケーションから得られるインサイトです。マーケティング用語としては、よく「潜在ニーズ」と説明されることがありますが、ここでは消費者の潜在的なニーズを引き出し、そのニーズを購買欲求へと変化させるいわばスイッチのようなものとして定義することにします。
例えば、購買情報やWebサイト・アプリ、店舗などの行動履歴などのデータを分析することで、すでにリーチできている層からニーズを拾うことは可能です。ですが、そこからインサイトを拾うことは難しいといえます。なぜなら、既存顧客は顕在層であり、現時点でその企業が発信している情報に関連した行動しかしないためです。
そこで顧客とのコミュニケーション変革で欠かせないのが、メインターゲットとしている顧客層がどのようなチャネルを利用しているかの情報です。スマートフォンやWebサービスの普及により、顧客の使うコミュニケーション手段は多様化しており、メールや電話に加えて、SNSやチャットなどの利用比率が増え続けています。いかに顧客と最適なチャネルかつ最適なタイミングでコミュニケーションをとるかが重要になってきます。
複数チャネルの使い分けは、コミュニケーション改善の第一歩
1人のユーザーだけでも複数のチャネルを使い分けており、仕事の連絡ではメールと電話が中心でも、社内やベンダーなど人間関係によっては、チャットサービスやテレビ会議など複数のサービスを使い分けています。
特にB to C事業の場合、顧客のメールアドレスを獲得してメールを送っても、普段からメールを見ていない人が多く、あまり読んでもらえないことがあります。顧客の属性や行動様式にあわせたコミュニケーションチャネルを採用しないことによる失敗例です。競合他社が顧客にとってより快適なチャネルでコミュニケーションすれば、顧客を奪われてしまいます。
例をあげると、深夜に航空券を探している人がいたとして、電話はつながらずメールをしてもすぐに返信がない旅行会社もあれば、チャットで希望の条件を入力するとAIが瞬時におすすめの航空券の候補を複数提示してくれる旅行会社があったとします。このような状況では、前者は後者に顧客を奪われてしまう可能性があります。
顧客が普段利用しているチャネルを把握し、コミュニケーションチャネルをどう組み合わせて活用するかを考えることは、どの企業でも共通した課題といえるでしょう。
発信のタイミングを探るのも顧客体験(CX)の改善に影響
コミュニケーションに影響を与えるのは、チャネルの選択だけではありません。連絡のタイミングや顧客に伝達する内容も顧客の満足度に大きな影響を及ぼします。
DXによってコミュニケーションのタイミングは受動から能動へ、画一的なものからカスタマイズされた内容へと変化しました。顧客からの質問や相談に回答する受動的なコミュニケーションだけではなく、先回りして顧客のニーズにあわせて能動的にコミュニケーションをとることがCXの改善に欠かせません。
- ECサイトで過去の購買履歴や商品の閲覧履歴の情報からその人におすすめの新商品の発売についてメールで通知する
- SaaS企業が顧客のサービス利用状況に応じて活用が進まない原因になっている箇所を推測してカスタマーサクセス担当から解決策を伝える
といった変化です。
お客さま視線でデータを活用し、先回りして連絡するのが今後企業に求められるCXを改善するための秘策といえます。
AIやチャットボットによる新しい時代のコミュニケーションの形
CX改善のためのデータ分析やリアルタイムでの要望や質問への回答のために、近年AIが活用されています。
- 顧客からのよくある質問に対して自動で回答するAIを搭載したチャットボット
- メールや電話でのやり取りを解析してより良い回答方法をAIが探してくれる
- 情報システム部門や管理部門に寄せられる質問に対してAIが自動で回答する
- 社内でドキュメントやデータの保管場所をAIが伝える
といった形で、すでに実用化されています。
また、多言語の会議でもAIは活用されており、日本語から英語、中国語、韓国語などの主要言語の訳文が画面に表示できるなど、現時点でもTOEIC960点超レベルの翻訳精度を誇るサービスも存在します。
顧客に適切な回答をリアルタイムで返信できれば、待ち時間やお問い合わせのたらい回しによるストレスを減らせるので、顧客ロイヤリティは高まるはずです。
AIやIoTによってコミュニケーションはどう変わっていくのか
今後、AIやIoTの進歩によって、コミュニケーションはより複雑化していくものと考えられています。顧客のチャネルの選択肢が増えるだけでなく、AI搭載のシステムやモノ同士のやり取りが普及すると予測されています。
たとえば、ある機械が動かなくなったときに壊れた箇所が自動で判別され、修理のために必要なパーツの在庫をメーカーのシステムに照会して、自動で発注するといったことが、実現しつつあります。
このような急速なテクノロジーの進化が見込まれるなか、コミュニケーションから得られるインサイトや蓄積されたデータをもとに、顧客がどのようなニーズを持っているかをいち早く察知して、適切なコミュニケーションを設計、運用する活動が必要です。定期的に社内のデータを再整理し、コミュニケーションの方法やチャネルを改善し続けることからはじめましょう。
「ニューノーマル時代の顧客接点強化」では、新しい顧客接点の作り方や、実施するうえでの課題と解決策などを紹介する記事をまとめています。CXの改善にご活用ください。