細長い雨雲の列「線状降水帯」に要注意
夏は大雨の季節です。毎年のように、全国各地で大雨が発生し、警戒を呼びかけるニュースが報じられています。
この大雨の原因のひとつが「線状降水帯」です。線状降水帯とは、発達した雨雲(積乱雲)が列をなし、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過、もしくは停滞することで作り出される、長さ50~300km程度、幅20~50m程度の強い降水域のことです。
線状降水帯は、文字通り「線」のような細長い形状をしているため、雨雲が通り過ぎるまでにしばらく時間がかかる場合があります。同じ地域に大雨が降り続くことで、洪水や浸水、土砂崩れなどの災害が発生する可能性も十分に考えられます。
たとえば、2020年に熊本県で発生した「令和2年7月豪雨」も、線状降水帯が原因と見られています。熊本県土木部の資料によると、同月3日23時頃から4日10時頃までの11時間にわたって、県内に線状降水帯が停滞。県内山間部のあさぎり町では、7月3日10時~4日10時までの24時間で、7月約1カ月分の降水量が観測されたといいます。
こうした豪雨の結果、大量の雨が河川に流れ込んで氾濫、土砂崩れが発生する地域もあったといいます。同豪雨による死者は65人、行方不明は2名、被県内の被害額は1,452億円に及んだといいます。
なぜ線状降水帯の予想は難しいのか
この線状降水帯は、いつどこで発生するのか、予想がしづらい点も特徴です。
気象庁によると、線状降水帯が生まれるメカニズムは、【1】大気の下層を中心に、大量の暖かく湿った空気が流入し、【2】その空気が局地的な前線(暖かい気団と冷たい気団の境目)や地形などの影で持ち上げられて雨雲が発生。【3】大気が不安定な中、雨雲が積乱雲にまで発達し、複数の積乱雲の塊である「積乱雲群」ができる、【4】上空の風の影響で積乱雲や積乱雲群が線状に並び、線状降水帯が形成される、という4つのステップがあるといいます。
このように線状降水帯のメカニズムは解明されているものの、その誕生には水蒸気の量や大気の安定度、各高度の風など複数の要素が複雑に関係しているため、線状降水帯の発生条件や、線状降水帯が強化、維持するメカニズムは未解明な点が多く、発生の正確な予想が困難といいます。
予測の鍵となるのは、「水蒸気」です。線状降水帯は海上から陸上にかけて位置することが多く、大雨のもととなる水蒸気も海上から補給されるため、海上の水蒸気量を把握することが、発生の予測に役立ちます。しかし、海上は陸上に比べて観測データが十分ではないため、線状降水帯の予想が難しいといいます。
さらに、気象庁が現在警報、注意報、天気予報の発表などの予報作業で利用している数値予報モデルは、積乱雲の発生や発達を十分に把握するには解像度が足りないといいます。このため、現在、予報作業で利用している数値予報モデルでは、線状降水帯の発生を把握できず、大雨が降る場所や時間を正確に予報することは困難としています。
予想の精度は徐々に高まっている
このように線状降水帯の発生は予想がしづらいものの、その精度は徐々に高まりつつあります。
九州大学の研究では、太平洋高気圧から前線上にある小低気圧へと吹き込む強い風が、低気圧内に吹く風とぶつかって行き場を失い上昇することで、線状降水帯をつくる積乱雲を生む可能性があることを発表しています。
また、気象庁では2023年3月に「線状降水帯予測スーパーコンピュータ」の運用をスタートし、この2024年3月にも、新しいスーパーコンピューターシステムの運用を開始したと発表。この結果、従来はできなかった府県単位での予測が、大雨が降る半日前からできるようになったといいます。同庁では、今後はさらに対象地域を狭めた予想を目指しており、2029年には市町村単位で危険を示すことを発表しています。
同庁では線状降水帯による大雨が発生した際の対策として、崖や川の近くなど、危険な場所にいる場合は、地元の市町村から発令されている避難情報に従い、適切な避難行動をとることを呼びかけています。もし避難場所への避難が危険だと判断した場合は、少しでも崖や沢から離れた建物や、浸水しにくい高い場所に移動するなど、身の安全を確保すべきとしています。
さらに、土砂災害、浸水害、洪水災害の危険度をマップで表示する「キキクル(危険度分布)」や、国土交通省の「川の防災情報」などのサイトを確認し、少しでも危険を感じた場合には、自ら安全な場所へ移動すべきとしています。
大雨は人類の脅威ではありますが、突如発生する地震と比べると、比較的予想しやすい側面もあります。水害発生時にどのような対策を取るか、もし発生した場合は従業員の安否や緊急連絡はどのように行うのかなど、平常時から準備を行っておくことで、線状降水帯による被害は抑えられるでしょう。