DXの遅れにより2025年には最大で年間12兆円の経済損失
AIやIoTのほか、インターネットを介したサービスの拡大に伴い、IT業界の市場は急成長を遂げています。増加する提供サービスに比例して、必要とされるエンジニアも多くなり、人材不足が加速しています。
既存システムを見直し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現しようにも、人手が足りなければ進めようがありません。経済産業省の「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」では、DXの遅れにより、2025年には日本国内で年間最大12兆円の経済損失が発生する可能性があると予測されています。その後、同レポートは2度アップデートされており、2022年にまとめられた最新版では「DX 推進に取り組むことの重要性は広がる一方で、 デジタル投資の内訳は DX レポート発出後も変化がなく、既存ビジネスの維持・運営に約8割が占められている状況が継続」していると分析。2025年を目前に状況はさらに深刻化していると考えられます。
原因の一つとして挙げられているのが、いまだ多くの事業会社がITシステム開発をIT企業に「丸投げ」している状態、IT企業は事業会社の要望に応じて対価を得ている状態の「低位安定の関係」にあること断じています。このような関係性が続く限り、IT企業と事業会社がITの知見やノウハウを貯めることができず、DXの推進が困難になると分析しています。
2030年には79万人も不足?IT人材が不足する原因とは
では今後2030年までにIT人材の需要はどう変化していくのでしょうか。経済産業省委託事業の調査によると、もっとも悪いシナリオで79万人、中間のシナリオでも45万人が不足すると予測されています。
さらに、もう一つIT人材が不足する理由になっているのが「人材の質」です。本当に必要とするスキルや経験を持つ人材がいないため、なかなか採用が進まず「人材不足」を加速させているわけです。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2023」によると、DXを推進する人材の「質」の確保について日本とアメリカでは正反対の結果が出ています。前年度と比較して、日本では「過不足はない」と回答した企業が10.7%から6.1%に減少、逆にアメリカでは44.5%から50.8%に増加しています。一方、日本では「大幅に不足している」と回答した企業が30.3%から51.7%に急上昇していることに対し、アメリカでは26.7%から7.6%に大幅に減少しています。2021年と2022年のわずか1年で、ここまで日本の質の高いIT人材の不足が加速した背景には、この1年でDXに取り組む企業の割合が増加。それに合わせてDXの推進に必要な優秀な人材に対するニーズが高まっていることが考えられます。
IT人材不足を解消する5つのポイント
IPAの「DX白書2023」では、DXを推進する人材に関する取り組みのポイントとして「人材像の設定・周知」、「人材の獲得・確保」、「キャリア形成・学び」、「評価・定着化」、「企業文化・風土」の5つを挙げています。各ポイントを具体的に解説していきます。
「人材像の設定・周知」
DXを推進する人材について、まずは明確な人材像を設定し、社内に周知する必要があります。「DX白書2023」の調べでは、人材像を「設定していない」割合は日本では40.0%を占め、アメリカの2.7%と大きな開きが出てます。このアメリカに対する遅れを認識し、早急に取り組む必要があるでしょう。
「人材の獲得・確保」
次に設定した人材像に当てはまる人材を獲得、確保していく必要があります。「DX白書2023」では、日本企業のDXを推進する人材の獲得・確保の方法も調査しています。日本とアメリカの結果を比べてみると、アメリカは日本より「特定技術を有する企業や個人との契約」(42.5%)、「リファラル採用(自社の社員から友人や知人などを紹介してもらう手法)」(24.9%)など社外からの多様な獲得手段の割合が高いようです。このような手段を日本企業も積極的に活用していくことが重要になります。
「キャリア形成・学び」
獲得・確保した人材については、DXを推進する人材としてのキャリア形成やキャリアサポートの施策を明確にして会社を挙げて取り組むことも重要です。DXを推進する人材育成方法という調査では、日本ではアメリカに比べて「実施・支援なし」の割合が高く、日本で「会社として実施」が最も高かった「DX案件を通じたOJTプログラム」でも23.9%に過ぎず、アメリカの60.1%に大きく水をあけられています。積極的にスキルアップのための育成施策、既存人材の学び直しなどへの取り組みが急務といえるでしょう。
「評価・定着化」
DXを推進する人材に対しては、デジタル技術に関する能力に加え、デジタル化による業務変革やビジネスモデルの変革への貢献など、既存の人材とは異なる評価基準が必要です。そのための評価基準の新たな定義、定期的な評価を実施し、人材にフィードバックすることが人材の定着化につながります。
「企業文化・風土」
DXが組織に根付いていくためには土壌となる企業文化・風土のあり方も重要になります。しかし、現状ではDXに必要な要素が備わっている日本企業は少ない状況です。自社の風土・文化の特性を把握し、DXにふさわしい姿に変革していくことも重要なポイントになります。
DXを推進する人材不足に伴い、デジタル技術を利活用した新事業の立ち上げ、運営人材の育成、配置転換などが必須となります。これからIT社内人材をDX担当に切り替えせざるを得ない状況になると、ネットワークやサーバーなどの運用保守を担当する人材の需給はますます逼迫することが見込まれます。ここについても、通常の業務が回るよう、しっかりと備えておくべきでしょう。
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企業がIT人材不足に備える対策
今後多くの会社でIT人材が不足する傾向が避けられない状況において、企業が取るべき対策にはどのようなものがあるのかを解説していきます。
効率化、自動化による必要人員の削減
AIアプリケーションの活用は、人手不足への備えになります。
たとえば、情報システム部門に頻繁に寄せられる質問や相談の内容がデータベースにあれば、AIチャットボットを社内WikiやFAQポータルなどに実装することで、対応稼働の人的負荷が軽減できます。
現状の業務のうち、本当にIT人材で対応すべき業務はどれなのか、ツール活用で自動化できる作業の有無を精査してみることが効率化の第一歩です。
アウトソーシングの活用
ITに関連したすべての業務を社内人員だけで対応する必要はありません。外部に任せられる業務と社内に残すべき業務の整理も検討すべきでしょう。
IT投資を多くかけずとも、ネットワークやミドルウェアシステムなど、保守業務の運用アウトソーシング活用でリソースを削減できている例もあります。
情シス担当者は、ミッションクリティカルな開発案件や成長戦略に欠かせないコア業務に集中できるため、持続的な生産性が確保できます。
IT人材不足に対応するサービス
ドコモビジネスでは、ICT環境の構築や見直しをトータルでサポートするサービスを提供しています。人手不足でDXが進まないという課題を抱えるお客さまに対し、実績、経験の豊富なエンジニアがお客さまの状況にあわせた最適なICT環境を構築します。