「プロジェクトは失敗するもの」から始めよう
冒頭でも触れたように、プロジェクトとは新しいものを生み出すことです。同じことを繰り返すルーティーンワークとは違い、未知なる想定外の出来事と、常に対峙することが求められます。
本書によると、プロジェクトに取り組む際にハマってしまいがちな3つの「落とし穴」が存在するといいます。
一つめは「ノウハウや知識の不足」です。着々と成功に向けて計画を立てようとしても、そのプロジェクトに関連した経験や知識がないと、計画はあくまでも予測に頼ることになります。不慣れな状態で問題に対応してもうまく処理できず、ますます計画が後ろ倒しになってしまいがちです。
二つめは「不完全な情報収集」です。そもそもどんなプロジェクトでも、事前に必要な情報を完璧に収集できるということはありません。突発的な問題がひとつでも起きると、情報はさらに不足します。都度状況を見ながら対応していくうちに、当初の計画から徐々にずれて納期が遅れるといったことは少なくありません。
三つめは「環境の変化」です。取引先からの条件提示が変わる、予算が想定より多く資金配分を再考せざるをえなくなる……など、プロジェクトには考慮すべき変数があります。すぐに解決できる内容ならまだしも、対応に時間がかかるような変化であれば、計画にも大きな影響を及ぼすでしょう。
このようにさまざまな要因によるプロジェクト推進の落とし穴があることを踏まえ、ゴールまでのプロセスで起こりうるリスクを可能な限り事前に想定しておくと、いざという時に軌道修正しやすいといえます。
言葉もゴールも共有しよう
プロジェクトに挑戦することが決まった時点で、参加メンバーの誰もが思うことは、失敗率をできるだけ下げて、成功率をできるだけ上げたいということでしょう。
そのために避けて通れないのが、メンバー間のコミュニケーションの充実です。なぜならどんなプロジェクトも、2人以上のメンバーの共同作業によって進められるものだからです。
たとえば、「リンゴが欲しいから買ってきて」というたったひとつの簡単な単語であっても、メンバーによって違う意味にとらえてしまう可能性があります。
買って欲しいと頼まれたリンゴは赤色か、青色か?個数は1個か、ダンボール1箱分か?産地は?おやつ用なのか調理用なのか、もしかしたら食べるのではなく撮影用なのか?スーパーに買いに走る前にこうしたことを確認しておかないと、すれ違いが起きます。
こうした確認を怠ると、場合によっては取り返しがつかないミスを生む可能性があります。「あの時に確認しておけばよかった」とならないよう、メンバーの発言を自分勝手に解釈せず、不明な点はしっかり確認する意識を持つことが重要です。
たとえ今までに何度か同じプロジェクトに所属していたメンバーであっても、そのプロジェクトでの共同作業は初めてです。資料のまとめ方やアイデアの出し方などについて共通のルールをあらかじめ決めて、プロジェクトに存在する数々のタスクについて共通認識を持つべきでしょう。
また、メンバー全員でめざす「ゴール」を共有するのも不可欠です。「このプロジェクトは何をもって成功とするのか」というゴールを最初に共有しておけば、途中で問題が起きた時もどう対応すべきか判断しやすく、結果的に迅速な解消につながります。
WBSよりも、ガントチャートよりも、使えるものがある
さらに、プロジェクトのメンバー同士がスムーズにコミュニケーションを取るために、本書では「プロジェクト譜」の活用を勧めています。プロジェクト譜とは逐次変化するプロジェクトの状況や構造、関係性といった全体像を可視化できるツールのことです。各局面で求められる条件や施策、中間目標、ゴールを記載したもので、本書でも付録として付いています。
プロジェクト管理ツールとしては、WBS(作業分解構成図)やガントチャートがよく使われますが、本書では「プロジェクト内外の状況や関係性の変化・意思決定のプロセスを可視化するのが難しい」と評価しています。
新しい第一歩を踏み出すためには、当然困難を伴います。ですが、本書で取り上げられているような、プロジェクトが進行している際に起こる問題を理解して、効果的な解決法を得やすくするために、プロジェクト譜を積極的に活用しましょう。
メンバー間の密なコミュニケーションや、プロジェクト全体を効果的に可視化できるプロジェクト譜の活用といった事前準備がしっかりできていれば、何か問題が起きてもリカバリーしやすく、計画が大きく乱れることを避けられます。
予定通りに進まない時こそ、事前準備の有無が差となり、プロジェクトの成否を分けるといえるでしょう。