大阪学院大学
大きな揺れまで数秒でも猶予があれば減災に有効な初動対応が可能に なる
緊急地震速報配信サービス
課題
より安心・安全な学習・研究環境の整備のため、地震の有効策を検討
対策
地震発生時の学内パニック誘発を防ぐため、緊急地震速報配信サービスを導入
効果
行動マニュアルと組み合わせることで以前は不可能だった初動対応が可能になった
大阪学院大学
庶務課 課長
大野 昌一 氏(当時)
大阪学院大学
庶務課 主任
宮原 秀明 氏(当時)
課題
社会や企業で即戦力となる人材育成を目指す大阪学院大学では、環境の変化に応じた実践的なカリキュラムに定評がある。また、関西地域の大学でいち早く全館に冷暖房設備を導入したほか、校舎および学内の美観形成やICT(情報通信技術)の積極的な活用など、学習・研究環境の整備・充実への取り組みも注目されている。
こうした取り組みにおいて、近年重要な課題となっていたのが、より安心・安全な学習・研究環境の整備だった。そこで同学では、地震や台風、火災、事故などあらゆる災害に対して、学生と職員の安全管理、資産保護などを目的に、学内だけではなく学外での対応も想定した、災害対策基本法にもとづく「災害危機管理」を2007年4月に策定して運用している。
災害対策について、同学 庶務課 課長 大野昌一氏(当時)は、「あらゆる災害・事故は、発生時の初動対応が最も重要だと考えています。的確な初動対応が実施できれば、大幅な減災が期待できるからです」と話す。
同学では、2004年7月より一般に利用が許可された医療機器、「AED(自動体外式除細動器)」をいち早く導入しており、現在、キャンパスをはじめグラウンドなどに合計6台を設置している。同学 庶務課 主任 宮原秀明氏(当時)は、「心臓が痙攣して血液が体内に循環しない『心室細動』は、時間の経過とともに生存退院率が低下し、対応が早いほど救命率は高くなります。これは、初動対応の重要性を物語っている好例です」と説明する。
ただし、AEDによる救命活動が必要な緊急事態は、いつどこで起こるか想定できない。そこで、職員の誰もが緊急事態に対応できるよう、所轄の消防署員を大学に招いて、AEDをはじめ心臓マッサージや人工呼吸の講習を受けている。現在、AEDについては半数以上の職員が受講を終えており、今後は全職員が受講することを目指している。
しかし、地震防災対策については、初動対応の決め手となる有効策がなかなか講じられなかった。言うまでもなく地震は、いつ発生するか想定できるものではなく、万が一、大きな地震が発生したら大規模な被害へとつがなってしまう。そのため、学内の安全を守るうえで、地震防災対策は災害危機管理において重要な課題となっていた。
対策
地震防災対策における従来の初動対応は、地震発生時に走り出さず、机の下に隠れたり、大きな棚やガラスの近くなど危険な場所から退避するなどの、行動マニュアルを作成していた。しかし大野氏(当時)は、「従来の初動対応は、大きな揺れが発生している最中の事後対応でしかありません。もしも、大きな揺れが発生するまで、1秒でも2秒でも猶予があれば、安全に机の下に隠れられるなど、有効な初動対応ができる可能性が高まると考えました」と強調する。
以前は大きな揺れの発生を、事前に把握することは不可能だった。しかし、「災害危機管理マニュアル」を策定していたころ、気象庁では緊急地震速報の実用化に取り組んでおり、情報提供の開始に向けた準備が進められていた。この情報に注目したのが、同学を担当するNTTコミュニケーションズの営業担当者だった。営業担当者は、同学のさまざまな課題について日ごろから情報交換をしていたため、地震災害対策における課題も把握していたことから、緊急地震速報配信サービスの提案につながった。
この提案に対して宮原氏(当時)は、「個人的には、すぐにでも導入したい素晴らしいサービスだと評価しましたが、サービス導入に対して懸念事項があったのも事実です」と振り返る。それは、地震が発生することを知った学生がパニックに陥るのではないか、といった不安だった。しかし宮原氏(当時)は、「教職員が地震の情報を把握していないにも関わらず、携帯電話やテレビなどで情報を知った学生が走り出したりするなど、情報に差があることの方が危険です。情報を均等に提供すれば、走り出す学生を別の学生や教職員が制止するなど、パニックの抑止にもつながると考えました」と説明する。
さらに大野氏(当時)宮原氏(当時)は、「自治体や電鉄会社も導入しており、多くの学生が集まり社会的な責任を負う大学でも、緊急地震速報配信サービスを導入するべきだと考えました」と続ける。こうして、緊急地震速報配信サービスの導入を決断した同学は、最初に提案を受けたNTTコミュニケーションズのサービスを本命として検討を開始。いくつかのサービスを比較検討した結果、NTTコミュニケーションズのサービス導入を決断した。その経緯について宮原氏(当時)は、「人命に関わる仕組みですから、実績に裏付けられた信頼性が重要です。その要件を満たせるサービスは、NTTコミュニケーションズしかありませんでした」と語る。
効果
NTTコミュニケーションズの緊急地震速報配信サービスは、全国約1,000カ所に設置されている観測点で観測したデータをもとに、気象庁から発信される緊急地震速報を、NTT東日本・西日本のフレッツサービスを通じて情報を配信する。情報の配信にIPv6マルチキャスト配信を利用することで、インターネット経由のユニキャスト方式と比較して遅延を少なくでき、多拠点に効率よく配信できるという利点がある。
また、より確実な配信を行うため、サーバーと専用受信端末間の通信が正常に行えているかを、30秒間隔で「Pingレベル」、「マルチキャスト受信レベル」、「アプリケーションレベル(端末の動作)」の3段階でヘルスチェック(動作監視)を行っており、端末の故障に気付かず、地震発生時に情報が得られないといった不安も解消できる。そして、万が一、異常が発見されたら、あらかじめ登録された担当者へ警告メールが送信されるようになっている。
サービスの利用に必要な専用受信端末には、各種機器制御と連携できるインターフェースを提供する機種も用意されており、NTTコミュニケーションズの緊急地震速報配信サービスを導入した同学では、既存の学内放送機器と連動させて、緊急地震速報が発令されると自動的に放送を流す全館自動放送システムを2008年4月1日より実現し、地震発生時の初動対応に活かしている。
その効果への期待について大野氏(当時)は、「サービスの導入後、学生、職員、学内、学外など、役割や状況ごとに細分化した『地震発生時の初動マニュアル』を作成して、緊急地震速報発令時の初動対応の強化に努めています。理想はすべての学生が初動マニュアルを理解してくれることですが、その場に居合わせた数名でも理解してくれていれば、初動マニュアルに従って周りを導いてくれることが期待できます。そして、大きな揺れが来るまでにわずかでも猶予があれば、机の下に隠れるなど、有効な初動対応が可能になります」と説明する。
さらに宮原氏(当時)は、「サービスの導入によって、災害について議論する機会が増え、自ずと防災への意識が高まっているという副次効果もあります。そうした議論が、現状の取り組みの見直しや、新しい取り組みへのきっかけにもなっています」と続ける。
同学では、引き続き地震発生時の初動マニュアルの周知徹底と内容の充実に取り組むほか、地震発生後の対応についても行動マニュアルを充実して強化する計画だ。