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法人向けモバイルサービス

IoT分野でも注目。
MVNOからフルMVNOの移行で何が変わるのか

IoT分野でも注目。MVNOからフルMVNOの移行で何が変わるのか

「フルMVNO」への注目が高まっています。
当稿では「MVNO」から「フルMVNO」への変遷や相違点、そしてフルMVNOがIoT分野で注目を集める背景や要因について考察していきます。

1.MVNOの軌跡

日本のMVNOの軌跡を振り返る前に、まず基本的な「MNO」「MVNO」「MVNE」という3つの用語を解説します。

MVNOの軌跡

MNO

MNOとは「Mobile Network Operator(モバイル・ネットワーク・オペレーター)」の略
日本語に訳すと「移動体通信事業者」
MNOとは、携帯電話等のモバイル用の回線網を所有しており、自社ブランドで通信サービスを提供している会社

MVNO

MVNOとは「Mobile Virtual Network Operator(モバイル・ヴァーチャル・ネットワーク・オペレーター)」の略
日本語に訳すと「仮想移動体通信事業者」
MNOにVirtual(仮想)という言葉を追加
MVNOとは、自社で回線網を持たずに、MNOから回線網を借りて通信サービスを提供している企業/格安SIM事業者

MVNE

MVNEとは「Mobile Virtual Network Enabler(モバイル・ヴァーチャル・ネットワーク・イネイブラー)」の略
日本語に訳すと「仮想移動体サービス提供者」
Enabler(イネイブラー)とは「~できるようにする物/者」の意味で簡単に言えば「裏方」
MVNEはMVNO事業を手伝う立場

MVNOの定義

MVNOとは他社(MNO)から無線通信インフラを借り受けて、音声通信やデータ通信の移動体通信サービスを提供する事業者のことを指します。イメージとしては移動体通信サービスにおけるOEM製品と言えば分かりやすいでしょうか。サービスとして格安SIMを提供することから格安SIM事業者と呼ばれることもあります。総務省の定義としては「MNOの提供する移動通信サービスを利用して、又はMNOと接続して、移動通信サービスを提供する電気通信事業者であって、当該移動通信サービスに係る無線局(基地局)を自ら開設しておらず、かつ、運用をしていない者」となります。

日本でMVNOが誕生した経緯

2000年に総務省が「次世代移動体通信システム上のビジネスモデルに関する研究会」を設置しました。その目的は「モバイルネットワークを開放することで、多様な通信サービスが展開できる世界を目指す」「日本のモバイル業界で変革を起こす」ということでした。そして、2001年に日本通信が初めてのMVNOとして「b-mobile」をスタート。日本国内MVNO市場の2019年9月末時点での実績は、回線契約数が1,405.0万回線となり、前年比16.8%増。また、携帯電話(3GおよびLTE)契約数に占めるMVNOの契約数比率は7.8%に高まりました(MM総研/プリペイド契約の数値を含まない)。

MVNOの海外市場

海外でも2000年以降「設備を借りてサービスを提供する」という事業モデルは注目を集めました。特に普及率が高いのは欧州エリアで、その中でもドイツが最も高い普及率となっています。2014年の統計データでは、全世界のMVNO事業者のうちヨーロッパが59%となっています(GSMA Intelligence/2015年)。

MVNOの2つの事業モデル

現在のMVNOの事業モデルは2つに分けることができます。「SIM再販型」と「レイヤー2接続型(またはレイヤー3接続型)」の2つです。それぞれを説明します。

「SIM再販型」とは

SIM再販型はMNOやMVNEを介して提供される通信サービスを販売

「レイヤー2接続型(またはレイヤー3接続型)」とは

レイヤー2接続型ではネットワークの概念モデル「OSI参照モデル」の最下層から2番目(つまりレイヤー2)の「データリンク層」でMNOとMVNOのネットワークを接続
※レイヤー3接続型は最下層から3番目の「ネットワーク層」で接続
レイヤー2ではPGW(Packet Data Network Gateway)と呼ばれるネットワーク設備がMVNO側に存在

最近ではレイヤー2接続型のMVNOが非常に増えています。これはネットワーク設備PGW(Packet Data Network Gateway)が存在することで携帯電話網のネットワーク機能の一部を直接的にコントロールすることが可能となり、そのためにサービスの自由度が高いからです。

2.フルMVNOとは

フルMVNOは日本では2018年にスタートしました。フルMVNOとは独自にSIMカードを発行できるMVNOのことです。従来MVNOのSIMカードは、MVNOではなくMNOが発行したカードでした。MNOから発行されたSIMカードをユーザーに提供しているMVNOは「ライトMVNO」とも呼ばれます。従来のMVNOと「ライトMVNO」は同義と言ってよいでしょう。
フルMVNOがMVNOと決定的に異なるのは、移動体通信のコアとなるネットワークの一部を、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといったMNO(移動体通信事業者)の設備を利用せずに自ら運用することです。特に加入者管理機能(HLR/HSS)を自ら運用し、国際的な移動体通信における識別子であるMNC・IMSIを保有する独立した通信事業者となります。加入者管理機能(HLR/HSS)とはSIM回線を管理するデータベースと言ってもいいでしょう。「フルMVNO」のメリットはこの加入者管理機能(HLR/HSS)を自前で運用することから生じ、主に3点があげられます。

フルMVNOとは

契約オペレーションの柔軟性

モバイル回線を契約すると、通信に必要な契約者情報が最終的にHLR/HSSで処理され、当該契約のSIMを使って通信のための認証が成功します。これがSIMカードで通信可能な状態です。これまでMVNOは、MNOが運用するHLR/HSSでサービスを提供していたために、セキュリティなどの観点からMVNOは直接HLR/HSSにアクセスすることは不可能でした。つまりMNOによって定められた仕様に基づいでSIMカードを利用する形態です。 開通処理においてもMNOのシステム仕様による回線開通のための電文をやり取りしていました。 このような開通処理をMVNOが定めた仕様で完結できることで、使いやすく・拡張しやすい契約オペレーションの柔軟性が生れます。

ネットワークの柔軟性

従来のMVNOはMNOの運用するHLR/HSSでサービス提供をおこなうため、MNOから借りたSIMカードとMNOが設定したネットワークの組み合わせしか提供できませんでした。 国際ローミングのように海外事業者のネットワークを利用しなければならないサービスも、MNOが提供している卸サービスの範囲内の利用にとどまりました。 フルMVNOの利点を活用すれば、海外のモバイル事業者と直接接続が可能になるため、国内外を問わず柔軟性の高いサービスが可能になります。

SIMを自由に提供可能

フルMVNOでは、独自にSIMベンダから調達したSIMカードでさまざまなサービスが提供可能です。 たとえば「eSIM」(イーシム)と呼ばれる書き換え可能なSIMが提供できるようになり、遠隔地からのプロビジョニング(サービス提供のための開通準備)も可能です。 これにより、SIMの挿し替えが現実的でないような環境にあるデバイスにもSIMの組み込みが可能になり、新たな可能性が広がります。 特にIoTの領域でさまざまな応用が可能になると考えられます。

加入者管理機能(HLR/HSS)をMVNOが自前で運用することは「HLR/HSSの開放」とも呼ばれます。つまりHLR/HSS機能をMNO側から「解放」するという意味です。総務省もこのHLR/HSSを「開放を促進すべき機能」に位置付けています。開放すること、つまりMNOがMVNOに対して設備を貸し出すことを「アンバンドル」と呼びます。アンバンドルとは「別々にする」「切り離す」という意味です。このアンバンドルをする際の条件として、総務省の「MVNO事業化ガイドライン」によれば「他の事業者から要望があること」「技術的に可能であること」「携帯電話事業者に過度の経済的負担を与えないこと」「必要性・重要性が高いこと」の4つが定められています。

3.IoT分野で注目が集まるフルMVNO

フルMVNOは、基地局以外の設備はMVNO側がコントロールすることで、設備をもつMNOから独立した通信事業者となることができます。現在、フルMVNOのIoT分野での活用に注目が集まっています。その背景・要因を考察してみましょう。

SIMの状態を「開通(アクティブ)」と「中断(サスペンド)」に切り替え可能

フルMVNO特徴のひとつとして、直接HLR/HSSにアクセスすることでSIMの状態を「開通(アクティブ)」と「中断(サスペンド)」の状態に自由に設定できます。このような回線の開通、一時停止、再開、解約などの状態を管理することを「SIMライフサイクル管理機能」と呼びます。
IoTデバイスでの利用においては、たとえば特定の期間はセンサー情報が必要だが、それ以外は通信が不要といった場合が頻繁にあります。ここでSIMライフサイクル管理機能を利用し、「開通(アクティブ)」と「中断(サスペンド)」に切り替える訳です。これは使用期間中のコスト削減だけにとどまらず、IoTデバイスなどの製品を稼働前の在庫等の時点では「中断」にしておくことも考えられます。さらに不要な通信をなくすことで、セキュリティリスクを軽減することも可能となります。

4.注目を集める「eSIM」

ライフサイクル管理機能も含めて、IoT分野で期待されるフルMVNOの強みは「eSIM」にあると言えます。「eSIM」とはSIMの次世代規格です。「eSIM」には2つの定義があります。

embedded SIM

「embedded」は「組み込み」の意味。「チップ型SIM」とも呼称

eUICC SIM

通信キャリア等を遠隔から「書き換え」できるSIM。RSP(リモートSIMプロビジョニング)対応

「eSIM」を提供できるのはMNOあるいはフルMVNOの二者になります。eSIMはIoT分野における「SIMをあらゆるデバイスに組み込みたい」「通信キャリアに縛られない」といったニーズに応えることが可能です。
eSIMのなかでも特にRSP(リモートSIMプロビジョニング)対応のものが注目を集めています。SIMの通信プロファイルの設定内容を遠隔からリモート設定・管理できることで以下のようなメリットが生じます。

  • IoT機器のプロファイルをより低廉な価格のモバイルキャリアに切り替え可能
  • 法制度上ローミングが規制されている国においてローミングではなく現地モバイルキャリアの利用を行うといった柔軟な対応
  • eSIMを組み込んだIoT機器を工場から出荷する際、あらかじめ利用する国に合わせた設定を行う必要がない

RSPの2つの種類

RSPの仕組みも2つのモデルがあります。違いとして、プロファイルの切り替えを誰が実施するかという違いです。

M2Mモデル

M2Mモデルは、提供事業者(MNOやMVNO)が自社でコントロールしているeSIMのプロファイルを与える(切り替える)ものです。 eSIM内には、提供事業者の持つeSIMプラットフォームとやり取りをおこなう仕組みが組み込まれています。

コンシューマモデル

コンシューマモデルはユーザーが自分自身でプロファイルを決定します。 たとえば海外旅行の場合、渡航先の国で利用できるキャリアと契約し、eSIMに対応したスマホにプロファイルをダウンロードすることで、通信キャリアの切り替えをおこないます。端末には、eSIMの他にLPAと呼ばれるeSIMにプロファイルをダウンロードする際に中継する機能や、ユーザインターフェースが必要とされます。
この2つのモデルは、GSMAで標準化されており、現在も仕様として拡張されています。

RSP技術開発の経緯

RSP技術が注目を集めたのは、2010年に北米スマートフォンメーカーの出願中特許の内容が明らかになった時です。この特許では機器メーカーが自らMVNOとなり、ユーザの要望や利用条件に合致した各国・エリアのMNOのサービスを端末内で切換えながら最適なサービスを自ら提供するという内容でした。この提案は欧米を中心にモバイル業界に衝撃を与えました。この提案を期に、欧米のMNOと関連技術のシステムベンダの業界団体であるGSMA(GSM Association)の間で議論が始まり、標準化が進められてきました。

5.「セキュリティSIM」の動向にも注目

「セキュリティSIM」の動向にも注目

フルMVNOでは「SIM」「HLR/HSS」がMNO側からMVNO側に移行することを見てきました。そこでの重要な課題がセキュリティです。またフルMVNOの活用が期待されるIoT分野では、自社の機器のみがつながるクローズドな環境から、他社の機器との連携も含めたオープンな環境においてIoTを活用する流れが予想されます。つまりセキュリティの重要性はますます高まっていきます。このような背景のなかで、SIM自体にセキュリティ機能を実装する「セキュリティSIM」の開発に注目が集まっています。

「セキュリティSIM」とは

SIM自体にセキュリティ機能を実装する「セキュリティSIM」は、モバイル回線の加入者認証をおこなう機能に加えて、暗号鍵などのデータを用いたIoT機器の識別や認証、通信データの暗号化と真正性の確認、ソフトウェア改ざんなどの不正検知を行うセキュリティ機能を備えています。また、フラッシュメモリではなくICチップ内にセキュリティ機能を実装することで、物理攻撃やサイドチャネル攻撃に対するきわめて高い耐タンパ性の確保を目指しています。

通信データの暗号化と真正性の確認機能

通信するデータの暗号化および復号(暗号化データの元の状態に復元)をSIMチップ内部で実施します。データをIoT機器で暗号化してクラウドに送ることができるほか、クラウドから送られてきたデータをIoT機器で復号することが可能です。このため、オープンな通信経路でも、IoTで用いるデータをエンド・ツー・エンドで保護して、データの真正性を確保することができます。暗号アルゴリズムは、2030年以降も利用可能な「共通鍵暗号」「公開鍵暗号」「ハッシュ関数」等の搭載が検討されています。

機器のソフトウェア改ざんなどの不正検知機能

IoT機器に搭載するOSやアプリケーションの改ざんを防止するために、SIMチップ内で管理する秘密鍵やホワイトリストを用いて、署名検証やIoT機器のセキュアブートの機能も検討されています。

これらの機能を実現するために、従来は「SAM (Secure Application Module)」や「TPM (Trusted Platform Module)」と呼ばれるセキュアなICチップを、SIMとは別にIoT機器に組み込む必要がありました。セキュリティSIMをひと言で表すならば、SIMとSAMの機能を1つのセキュアなICチップ内に一体化していると言えます。

6.まとめ

「MVNO」から「フルMVNO」への変遷や相違点を見てきました。HLR/HSSが開放され、独自にSIMカードが選択できるフルMVNOのポテンシャルはきわめて高いといえます。MVNOの事業モデルが時に“格安スマホ”と呼ばれることもあったのに対して、フルMVNOはより幅広い分野の活用が期待されています。そのひとつがIoT分野であることは間違いないと考えられます。

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