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AIによるDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速
ビジネスにおいてAIという言葉が一般化して久しいですが、AIの活用はデジタルトランスフォーメーション(DX)におけるキーポイントといってもよいでしょう。AIは夢の技術では決してなく、使いどころを見極めた上で導入していく必要があります。
本稿では、DXとAIの関係性を整理しつつ、AI技術の概要や分野別の技術水準の紹介、およびAIを活用したDXに関する事例やポイントについて紹介します。
1. DXとAIの関係性
1. DXとAIの関係性
まず、DXとAIの関係性について以下で整理します。
DXにおけるAIの位置づけ
AIは、DX推進に有効な手段として期待されています。AIは漠然とした言葉でありながらも、多くの方が従来の技術では実現できなかったような新しい取り組みに活用できるイメージを持たれるのではないでしょうか。
しかし、AIを用いれば必ずDXを推進できるわけではありません。AIとは要するに、機械学習をはじめとしたAI関連技術の総称であり、あくまで一つの技術分野です。「AI = DX」ではなく、「AI = DXにおける道具であり武器」と考えるとよいでしょう。従来のITシステムなどと同様に、AIを導入すれば必ず効果があるものではなく、有効な場面を見極めた上でAI技術を適用することで、初めてDX推進につながります。
AIはDX推進の一手段であり、万能ではないことに注意しなければなりません。
AI活用が効果的な場面の例
それでは、どのような場面においてAI技術の活用が有効なのでしょうか。AI技術の中でも、分野によってその技術水準が異なることに注意する必要があります。詳細は後述しますが、例えば画像処理分野においてはAIの技術水準が高く、人間が視覚的に判断するのと同等レベルの作業が可能です。目視による検査や故障検知、商品の仕分け作業などは、AIの活用が効果的な場面の例といえるでしょう。
一方で、AIの言語解析能力は分野によっては不十分といえます。AIが人間と全く同じように柔軟に顧客対応を行うことは難しい状況です。言語解析の分野では、AIは、あらかじめ定められた範囲において一定の確率で正しい返答を行う、というのが現状の技術水準となるため、使いどころが限られます。
DX推進にAIを活用する効果
ここでは、DX推進にAIを活用することで期待できる3つの効果について紹介します。
・省力化:
これまで人間が実施していた作業をAIに任せることで、省力化が可能となります。例えば、人間による商品の仕分け作業をAIにより自動化することで、作業負荷を低減させることができます。
・高度化:
AIによって現状より高精度・高水準で作業を実施できる可能性があります。例えば、人間ではどうしてもミスが発生してしまう検査業務を、より高い精度で実現できるケースがあります。
・新規事業:
AI技術によって顧客への新しい付加価値を提案できる可能性があります。例えば、近年のマップサービスでは、人工知能により過去の交通量実績から現在の予想交通量を推定して最適な交通ルートを提案することで、より精度の高いルート案内を実現しています。
2. AIとは何か
AIという言葉は非常に漠然とした言葉であり、正確な理解が難しいといえます。そもそも、AIとはいったい何なのでしょうか。以下で解説します。
AIを定義することは困難
AIの定義は困難であるということが、人工知能研究者の間での共通認識です。実際に、総務省の情報通信白書でも示されているように、研究者によってAIの定義はバラバラです。厳密にAIという言葉の意味を定義することは不可能といえるでしょう。
しかしながら、少なくとも現在のビジネス分野においては、以下で解説する機械学習を用いたシステムやソフトウェアをAIと呼ぶ傾向があります。ビジネスにおいて「AIの活用」という場合、おおむね機械学習等のAI関連技術の活用であると理解して問題ないでしょう。
AIを構成する技術要素
AIの研究は、人間の脳の模倣や心の再現など様々な分野で行われています。しかしながら、上述の通り現代のビジネス領域においてAIと呼ばれるものは、基本的には機械学習をはじめとする技術群です。
機械学習は統計分野に関連する技術であり、あるタスクを行う上で、過去のデータを利用して性能を向上させる手法です。つまり「過去の統計はこうなっているから、今回はこのように判断できるだろう」というのが機械学習の仕組みです。
機械学習でできることは、「回帰」と「分類」の二つです。これらを具体例で説明していきます。
例えば、過去のテストで50点、55点、60点を取った学生がいたとします。この学生は次のテストで何点をとると予想できるでしょうか。おそらく多くの方は65点くらいを予想するのではないでしょうか。過去のデータから、この学生は徐々に学力を伸ばしていることが読み取れます。これが、機械学習の一つである回帰です。
また、商品を箱詰めする際に、赤はAの箱に、青はBの箱に入れるとします。箱詰めを行う中で、赤みがかった紫と、青みがかった紫の商品がやってきました。おそらく、前者はAに、後者はBに入れるでしょう。このように、曖昧なものを分類していくのが、機械学習の一つである分類です。
AI技術を使う際には、どのような問題であったとしても、これらの回帰と分類をベースにして有効な成果をあげていくことになります。
今AIが注目されている理由
それでは、今AIが注目されている背景はどこにあるのでしょうか。最も大きい要因は、近年AIの性能が爆発的に向上した点にあります。
2012年に登場したディープラーニングをはじめとして、AI分野の技術は発達を続けています。近年では、一部の領域において人間を超えたパフォーマンスを示すようになり、さらに注目が高まりました。
また、GAFAMを代表とする新鋭企業がAIを活用した新サービスの開発を進め、いわゆる破壊的イノベーターとして既存ビジネス領域に侵食しつつあるという現状があります。この状況に危機感を覚えた経済産業省などがDXの必要性やAIの可能性を提言したことから、企業におけるAI活用の取り組みに注目が集まっているともいえるでしょう。
3. AIの技術レベルの現状
3. AIの技術レベルの現状
上述の通り、AIの技術レベルはその分野によって異なります。よって、AIで何ができるのかを分野ごとに理解したうえで、AIの活用を検討することが重要です。ここでは、分野ごとのAIの技術レベルについて解説します。
画像認識
AIによる画像認識とは、要するに人間の目で行っていることをAI化するということです。ビジネスへのAI技術の適用可能性が最も高いのは、この画像認識分野です。すでにAIによる画像認識精度は人間を超えており、人が目で見て判断している業務についてはAIに置き換えることができるでしょう。
画像認識に関するAI適用可能性の判断は、技術レベルの問題よりも費用対効果が問題になるといえます。AIの開発・導入コストと比較して、業務改善効果や売上改善効果などが高いようであれば、AIの導入が十分に検討できるでしょう。
音声認識
音声認識もまた、AIの活用可能性が高い分野といえます。音声認識とは、要するに人間の耳で行っていることをAI化するということです。単純な聞き取り能力であれば、AIはすでに人間の聞き取り性能を超える結果を示しています。一方で、音声を人間並みに聞き取ることができても、後述するように言語理解のAI性能はまだ不十分であることに注意が必要です。音声データを正確にテキストデータに変換することはできても、その内容を理解して、適切に返答ができるかというと難しいのが現状ですので、音声認識関連でAIを導入できる範囲は限定的といえるでしょう。
言語解析
言語解析においては、AIはまだ人間レベルの性能に至っていません。ただし、ある能力に特化し、特定のタスクのみを行うAIは実用レベルに達しています。例えば、翻訳などの定型的な処理であればAIは十分に実用的な性能を持っていますし、限定された範囲内でのQ&A対応などであれば、チャットボットで十分に対応が可能です。
言語解析については、相手の曖昧な言葉を解釈し、適切な返答をこなせるわけではないものの、限定された特定の範囲であれば、AI導入が検討できるといえるでしょう。
数値予測
数値予測はAIの得意とするところであり、人間より優れた能力で予測をすることができます。しかしながら、数値予測においてはそもそもの問題設定が難しいケースが多く、AIにどのようなインプットを与えるかによって結果が大きく異なることに注意が必要です。よって、適切に問題設定ができるのであれば、AIの導入は十分に可能性があります。
また、数値予測については機械学習とは別に、いわゆる数理最適化と呼ばれる分野の技術も活用できます。数値予測にAI技術を導入できるかどうか検討する際には、その他の手法の導入も併せて検討するとよいでしょう。
ロボティクス
ロボティクスは厳密にはAIや機械学習の分野とは異なるものの、AIと同一視されることが多い分野です。ここでは、AIに関係する分野として整理します。
ロボティクス技術の発展は著しく、産業向け、ヘルスケア、無人車両、ドローンなど、特定の用途を持つ多数のロボットがすでに実用化されています。一方で、人間のように汎用的な作業をこなすロボットは発展途上段階にある状況といえます。現時点では、物の操作や運搬、作業などについては目的特化型のロボットが活用されている状況です。
4. AI活用によるDX推進の事例
以下では、AI活用によるDX推進の事例を紹介していきます。
製造業における外観検査工程のAI化
上述の通り、AI技術のうち画像認識については技術水準が高く、実用化の範囲も広いといえます。画像認識を用いたAI活用の事例としてよく挙げられるのが、製造業における製品・部品の外観検査のAI化です。
製造現場における製品・部品の外観検査には、人が自分の目で見て検査する目視検査と、検査機を用いたルールベースによる検査の2種類が存在します。しかし、目視検査は人手不足や熟練工の退職といった課題があり、一方で検査機を用いる手法は定型的な検査しか実施できず、汎用性に欠けるという課題がありました。
このような状況を背景に、人手が不要で、かつ汎用的な検査を実施できる手法としてAIによる外観検査に注目が集まっています。AIを用いた外観検査では、製造ライン上にカメラを設置し、AIに製品や部品の画像を読み込ませることで、正常品と異常品を判別することができます。
顧客対応・接点獲得
AIの言語解析能力は限定的であるものの、場面を絞って利用すれば十分に実用化の可能性があります。なかでも近年多く見られるのが、問い合わせ対応チャットボットの導入です。DXの一環として、コールセンターや窓口などをチャットボットに置き換えていく事例です。
チャットボットは、事前にQ&A集などをAIに学習させることで、ユーザの質問から最も近しい答えを提示する仕組みです。ある程度定型的な質問であれば、十分にチャットボットで対応が可能となります。特に若者世代を中心に、電話に対する心理的な障壁が高まっているという背景もあり、チャットボットは新しい問い合わせ対応として期待できるものといえるでしょう。
一方で、やはりAIの限界としてチャットボットに100%正しい答えを期待することはできません。多くの事例では、チャットボットが対応できない場合があることを前提として、チャットボット内にエスカレーションフローを用意し、オペレーターへの接続を行えるようにしています。
自動運転
近年では、多くの自動車に安全支援システムや走行支援システムが搭載されるようになりました。これらの機能の多くはAIにより実現されています。
車に搭載されたカメラの映像を元に、画像解析技術により車線や標識、先行車などを認識します。現状の自動運転技術では、その解析精度の問題からあくまで運転者の操作を支援する位置づけのものとなっており、完全な自動運転は達成できていません。しかしながら、運転に関する画像処理は難易度が高くないこともあり、将来的には100%に近い精度で自動運転が実現すると予想されています。
RPA
DX推進の中で、大企業も含めて多くの企業でRPA(Robotic Process Automation)の活用が進んでいます。RPAは定型的な業務を自動処理できるツールではありますが、より高度なRPAの利用方法として注目されているのがRPAとAIの連携です。
RPAの処理の中でAIを活用することで、自動化する範囲の拡大が可能になります。よくあるのが、紙資料をAI-OCRによってデジタルデータ化し、RPAに読み込ませる事例です。紙媒体で申込書を作成しているケースなどで有効であり、人手によるデータ入力の手間を削減し、さらに後続処理の自動化も実現できます。
また、与信をAIに任せるケースも多く見られます。申込時に入力された申込者の属性情報を元に、AIによって貸し倒れリスクを判断し、申込の可否を判断したうえで、後続の事務処理をRPAに任せるような使い方で利用されています。
5. AIの一般的な導入フロー
ここでは、AI導入の流れについて解説します。一般的に、AIの導入は以下のフローで行われます。
データ収集
上述の通り、AIは機械学習という統計的な手法によるものですので、AIを構築するためには過去データを与えて傾向を学習させる必要があります。よって、AI導入のファーストステップは、AIに学習させるためのデータ収集です。
既に自社内にデータが存在する場合は良いですが、データが存在しない場合はデータの作成から行う必要があります。この作業はかなりの労力となり、AI導入の障壁となるケースも多いため、AI導入を検討する際には、まず利用できるデータの有無を確認するとよいでしょう。
アルゴリズム開発
次に、機械学習アルゴリズムを用いてAIのプログラムを作成します。機械学習には様々なアルゴリズムが存在するため、導入目的に合わせて最適なアルゴリズムを選択する必要があります。この辺りは専門的な知識が必要なので、いわゆるデータサイエンティストと呼ばれるエンジニアの力を借りることになります。
近年では、開発不要でAIを利用することができるSaaS型やパッケージ型のAIも存在しますので、必要に応じて利用を検討するとよいでしょう。
学習・テスト
次に、AIプログラムに対してデータを与えて学習させていきます。学習のためには高いハードウェアリソースと多くの時間が必要であることに注意が必要です。
学習後、テストデータを用いてAIの精度をテストします。一般的にAIの精度が100%になることはありませんが、できるだけ高い精度を目指してください。精度が不十分であれば、アルゴリズムの調整や与えるデータの変更などを実施して改善を行います。
実業務への適用
十分な精度が確保できたら、実業務へAIを適用します。AIは環境などによっても性能が変化するため、AIの導入は一度に実施せず、スモールスタートで少しずつ行っていくとよいでしょう。例えば、ラインが複数ある工場であれば、そのうち1ラインのみをAIに任せてみるといった導入方法が考えられます。
AI導入後は、継続的にAIの稼働状況をチェックし、精度が不十分となったら改善を検討してください。
6. AIを用いたDX推進のポイント
以下では、AIを用いたDX推進において、押さえておくべきポイントを解説します。
データの収集
AIを活用するためには、とにかくデータが重要です。自社にAIが適用できる範囲は、データが存在する範囲に限定されます。よって、AIに与えるデータを如何に収集できるかが、AI活用の幅を広げるためのキーポイントとなります。
AIを活用する上で障壁となりがちなのが、異常データの有無です。一般的に、正常なデータは企業内にも多く存在しているのですが、異常データは正常データと比較して不足する傾向にあります。この辺りも、AIを活用する上での知識として押さえておくとよいでしょう。
また、継続的かつ多分野でAIを導入していくことを検討している場合、自社の業務システムからデータを収集して汎用的なデータベースに集約することで、多様な用途でデータを利用できるようにする取り組みの検討もおすすめします。
AI人材の獲得・教育
AIの活用のためには、AIについて理解している人材が必要不可欠です。自社でAIの内製化を図る場合はもちろん、AI開発を外注する場合でも、AIに関する知識を持って発注先と会話できる人材を確保しなければなりません。
一方で、特にデータサイエンティストをはじめとして、AIについて理解した人材を獲得するのは難しいという現実もあります。そこで、社内で有望な人材に対して教育を行い、スキルアップを進める取り組みが重要です。AIのアルゴリズム構築はできないものの、AIを理解してビジネスを進めることができる人材であれば、研修などを活用して十分に教育できる可能性があります。
トライ&エラーを前提として取り組む
AIの導入は失敗する確率が高いものです。なぜならば、AIは実際にデータを学習させてみるまで精度が分からないという特徴があるためです。AIの適用を検討してみたものの、思ったより精度が出ずに実用化に至らないケースはよくあります。
よって、AI活用の取り組みはスモールスタートかつPoCなどのトライアルを行うなど、トライ&エラーで実施するとよいでしょう。この際には、失敗を責めない雰囲気の形成も重要となります。
目標設定と継続的な改善
これまでご紹介した通り、AIは一般的に100%の精度で答えを出すことはできません。よって、AIを実業務に導入する際には、どの程度の精度であれば導入にGoを出すかを決めておく必要があります。現在実施している業務をAI化する場合であれば、現行業務の精度が一つの指標となるでしょう。また、新たな取り組みを実施する場合であれば、実際にそのサービスを利用してみたユーザにアンケートを行うことで、満足度などを確認する方法もあります。
AIはアルゴリズムのチューニングや学習データの選別によって精度が変わるため、目標精度に達成するまでは継続的に改善を行っていくことになります。一方で、どうやっても精度が改善しない場合もあるため、撤退条件も定めておくとよいでしょう。
まとめ
本稿では、AIによるDXの加速というテーマで、DXとAIの関係性をはじめとして、AI技術の概要や技術水準の紹介、さらにDXにおけるAIの活用事例やAI導入におけるポイントなどについて紹介しました。
近年のAI技術の発達は、ビジネスの可能性を大きく広げてくれるものです。一方で、AIは魔法の道具ではなく、分野によって技術水準も異なるため、利用範囲は限定されるのが現状です。DXの推進においては、AIの適用可能性を十分に把握したうえで導入を進めていくことが重要といえるでしょう。
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