スマートファクトリーとは

現代はAIやIoTなどの活用による技術革新「第四次産業革命」の黎明期とされており、世界各国で製造分野の変革を推進する動きが加速しています。その契機となったのが「インダストリー4.0」と呼ばれる構想です。インダストリー4.0とは、ドイツ政府が2011年に提唱した国家プロジェクトで、官民一体となって第四次産業革命の実現を推進する取り組みです(※1)。

インダストリー4.0の主な目的はデジタル技術の活用による製造分野の抜本的な変革であり、それは国内のさまざまな分野で重要課題となっているDXの本質でもあります。このインダストリー4.0と製造業DXの中心となるコンセプトの1つがスマートファクトリーです。

インダストリー4.0とは

(※1)参照元：平成30年版情報通信白書(p.143)｜総務省
(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/pdf/30honpen.pdf)

スマートファクトリーの重要性

近年、国内では少子高齢化に伴って生産年齢人口が減少傾向にあり、製造分野では就業者の高齢化や労働力不足が深刻化しています。さらにグローバル化の進展に伴い、人件費の安価な新興国や発展途上国で生産活動を展開する企業も多く、市場の競争性が国際レベルで激化しているのが製造業の実情です。このような社会的背景から、ものづくり分野ではデジタル技術の戦略的活用による経営改革が求められており、製造業DXの実現が喫緊の経営課題となっています。

たとえば、AIの機械学習を活用した異常検知ソリューションを導入することで、設備保全の効率化・省人化に寄与するとともに、人間とは比較にならないほど高精度な故障予知や不良検出が実現します。さらにIoTと生産設備を相互接続することで、産業機械の遠隔操作や電子機器の自動制御、データ収集のオートメーション化が可能となるでしょう。国内では今後も労働力不足が加速していくと予測されるため、高い生産性を確保可能なデジタル技術の活用によるスマートファクトリーが求められます。その環境を整えるための製造業DX化でもあるのです。

スマートファクトリーで期待される効果

生産性の向上・カーボンニュートラルの実現

スマートファクトリーでは工場内の設備とIoTが相互接続され、製造ラインの動向や機器の稼働状況をリアルタイムで可視化できる点が大きな特徴です。これにより、作業工程の改善や在庫管理の合理化、ロジスティクスの最適化、組織全体の生産性向上に寄与します。また、製造分野は温室効果ガスの排出量が多く、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが重要視されている産業です。スマートファクトリーは再生可能エネルギーや環境配慮技術などを駆使して二酸化炭素排出量を低減し、環境負荷を軽減するだけでなく、先進技術やブランディングといった企業価値創出の両立も実現できます。

コストの削減

スマートファクトリー化の推進により、従来の生産工程で生じていた余分なコストの削減が可能です。たとえば外観検査にIoTを用いることで機器の劣化や異常の早期発見が可能となり、設備寿命の向上に寄与するとともに点検業務に要する人件費の削減に寄与します。また、機械学習とビッグデータ解析の活用により、不良品が発生する条件や確率を高精度で予測できれば歩留まり率や直行率の改善につながり、原材料の仕入れや廃棄にかかるコストの削減が可能です。

人手不足の解消

少子高齢化によって人手不足が深刻化している製造分野では、いかにして従来と同等以上の生産性を確保するかが重要課題です。AIやIoT、ロボティクスなどの活用によって生産工程のオートメーション化を実現できれば、労働力不足による生産性の低下を解消する一助となります。さらに熟練工が有する高度な技術を体系化してデータベースに蓄積し、そのナレッジを組織全体で共有することも可能です。それにより、若手技術者への技術継承とスキルの総合的な向上に貢献します。

安定的な稼働

製造分野に携わる企業にとって産業機械や生産設備の安定稼働は重要な経営課題の1つです。スマートファクトリーではAIやIoTを活用した設備保全により、機器や装置の故障が起きる前に異常を検知する予知保全や予兆保全が可能となります。また、何らかのトラブルが発生した場合はデータベースに蓄積されているビッグデータをAIが解析し、原因を素早く究明するとともに最適解を導き出し、被害を最小限に抑えることが可能です。これにより、生産設備や産業機械の安定的な稼働を担保できます。

スマートファクトリー実現の課題

製造分野のあり方に変革をもたらすと期待されるスマートファクトリーですが、いくつかの課題を指摘する声も少なくありません。なかでも重要な懸念事項となるのが「セキュリティ」と「導入の障壁」です。

セキュリティ

スマートファクトリーは工場内のあらゆる設備や機器がインターネット環境と接続されるため、不正アクセスやマルウェアといった脅威に対するセキュリティ対策が必要です。トレンドマイクロ株式会社が2021年に発表した調査(※2)によると、日米独3カ国のスマートファクトリーにおいて61.2%がセキュリティインシデントを経験しており、そのうち74.5%の工場は生産機能が停止に至り、さらに4割以上が4日以上のシステム停止に追い込まれています。

製造業では新設の工場であっても、既設工場から旧型の機器・装置を移設して利用するケースが少なくありません。前時代的な旧型の生産設備は基本的にインターネットとの相互接続を前提とされておらず、ネットワークセキュリティの不備やプログラムの脆弱性が懸念されます。さらにIT産業のように情報通信技術に精通した人材を確保しづらい傾向にあるため、いかにして強固なセキュリティ体制を確立するかが重要課題となります。

(※2)日米独3か国のスマートファクトリーにおけるセキュリティ実態調査を発表｜トレンドマイクロ株式会社
(https://www.trendmicro.com/ja_jp/about/press-release/2021/pr-20210422-01.html)

導入の障壁

既設工場から旧型の生産設備を移設して利用する企業が多い理由の1つは、設備投資に莫大なコストを要するためです。スマートファクトリーを実現するためにはセキュリティに不安のあるレガシーシステムを刷新し、先進的なデジタル技術に対応できるインフラストラクチャを構築しなくてはなりません。さらに導入した新システムが期待通りのパフォーマンスを発揮するとは限らず、技術的なリスクと投資的なリスクが伴います。

また、DXの本質は「デジタル技術の戦略的活用による変革」であり、デジタル技術の導入それ自体は手段でしかありません。新たに導入したソリューションを活用し、競合他社にはない独自の市場価値を創出することが製造業DXの目的です。そのためには情報通信技術やマネジメントの領域に精通したDX人材の存在が不可欠であり、人的資源の採用・育成に相応のコストを要します。これらのリスク要素が導入障壁となり、スマートファクトリーの推進を阻害する課題となっています。

スマートファクトリーの導入ステップ

ここからは、スマートファクトリーの各導入ステップにおいて、経済産業省が発表している、「ものづくりのスマート化を進めるにあたってのポイント」を参考に、注意すべき点を紹介します。

ものづくりのスマート化を進めるにあたってのポイント

構想策定

スマートファクトリー化を推進する際は、構想策定として、スマート化の対象範囲や導入するソリューションを具体化してコストを算出し、新たな生産工程や人員配置の指針を打ち出すことが重要です。そして最終的な目的をKGIに落とし込み、その達成度合いを定量的に評価するKPIを言語化・数値化する必要があります。そのためには自社の事業戦略や経営課題を明確化し、スマートファクトリー化に向けたロードマップを設計しなくてはなりません。また、先述したように工場のスマート化は情報通信技術に精通する人材の知見が求められるため、必要に応じて外部の専門家に助言を仰ぐことも求められます。

導入改善

次は策定した構想にもとづきながら実際にソリューションを導入し、未来のあるべき姿を起点として段階的にスマート化を推進します。インフラストラクチャの刷新には相応の技術的リスクと投資的リスクが伴うため、初期段階では小規模範囲を対象とすることが大切です。そして「計画(Plan)」→「実行(Do)」→「評価(Check)」→「改善(Action)」のPDCAサイクルを継続し、システム運用と生産体制の改善を図りながら段階的にスマート化を推進します。スモールスタートを意識することで変革に伴うリスクを最小化できるため、導入の障壁の高さという課題を解消する一助となります。

運用

ソリューションの導入後は定期的にKPIを測定し、スマート化を推進する目的の達成度合いを検証するプロセスが重要です。KPIの分析によって現状における課題や改善点を特定できれば、生産体制の変革に向けた具体的な戦略・戦術を策定する一助となります。また、人間には「現状維持バイアス」と呼ばれる心理作用があり、基本的に未知のものを避けて現状維持を望む傾向にあります。既存の生産体制に変革をもたらすためには、導入効果を共有して人材のモチベーションを高めるとともに、DX人材を育成する仕組みの確立が必要です。

スマートファクトリーの事例

ロボットによるフル稼働

ある大手工作機械メーカーはIoTやロボティクスの活用により、1日24時間、週7日間フル稼働する生産体制の確立に成功した企業です。具体的にはIoTを駆使してあらゆる情報を一元管理し、部材の投入や部品の取り出し、切削液の補給、切りくずの回収などを走行ロボットや無人搬送システムが自動化する環境を構築しました。それによって生産体制の稼働率を極限にまで向上しつつ、製造ラインのオートメーション化と省人化を実現しています。

クラウドを活用した遠隔保守

製造分野では販路拡大やコスト削減を目的として、海外に現地工場を設置する企業が少なくありません。しかし海外に拠点を構える場合、システム障害発生時のダウンタイムが長期化する傾向にあります。そこである鋳鉄管メーカーは国内のクラウドベースの遠隔保守サービスを開発し、海外工場でのトラブルにもリアルタイムで対応できる体制を構築しました。その結果、迅速な復旧や手厚いサポートが可能となるだけでなく、原因調査を目的とする人材派遣費用の削減に成功しています。

工具の温度をリアルタイムで測定

ある大手工作機械メーカーは、IoTの導入で品質管理の強化と安全性の向上を実現した企業です。具体的には切削加工・接合のIoT化によって加工現象を数値化し、加工中の工具温度や加速度データをリアルタイムで測定できるシステム環境を整備しました。IoTの活用で切削抵抗を定量化できれば、工具寿命の予測精度向上によって故障や事故のリスクを低減できます。さらに加工現象の異変を検知した場合は自動的に作業を中断できるため、工作品質の安定化と作業環境における安全性の向上を実現しました。

スマートファクトリーを実現するDX支援ソリューション

データ連携プラットフォームSmart Data Platform

「Smart Data Platform(以下、SDPF)」は、さまざまなビジネス課題の解決に寄与するソリューションが集約されたデータ連携プラットフォームです。SDPFは工場内の各種データを収集・蓄積するとともに、クラウドやオンプレミスなどに点在するシステムを連携・統合し、製造業DXの推進を総合的に支援します。以下の項目でSDPFの一部を紹介しますので参考にしてください。

スマートファクトリーのソリューション

温室効果ガス排出量を可視化:カーボンマネジメントソリューション

2020年10月、国会での所信表明演説にてカーボンニュートラル宣言が打ち出され、製造分野では温室効果ガスの排出量削減が重要課題となっています。環境負荷の軽減と事業活動における価値創出を両立するためには、温室効果ガス排出量を可視化するソリューションが不可欠です。NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)では、カーボンニュートラルの実現に向けて「SDPF クラウド/サーバー」のユーザーに対し、温室効果ガスの排出量を予測するシミュレーション機能と可視化するダッシュボード機能を無料で提供しています。

データ解析や予測:Node-AI on AWS Outposts

「Node-AI on AWS Outposts」は、「AWS(Amazon Web Services)」のサービスを自社のローカル環境で利用できる「AWS Outposts」に、NTT Comのデータ分析ツール「Node-AI」を組み込んだソリューションです。各種データをローカル環境で解析・予測できるため、機密度の高い製造データをセキュアかつ低遅延な環境で処理できます。スマートファクトリーの課題であるセキュリティ問題を解消する上で重要な役割を担うソリューションの1つです。

安価な通信サービス: IoT Connect Mobile® Type S

「IoT Connect Mobile® Type S」は、NTT Comの強みである高品質なネットワークを活用したIoTモバイルデータ通信サービスです。NTT Comと契約した1つのSIMのみで世界172カ国での通信が可能であり、国内外を問わずさまざまな地域でIoT機器とクラウドのセキュアな連携を実現します。また、地域に応じた通信プロファイルを選択することで通信料を安価に抑えられるため、スマートファクトリー化の推進に伴う投資リスクの軽減にも寄与するソリューションです。

IoT Connect Mobile® Type S

安全かつ簡単にデータを収集:IoT Connect Gateway

「IoT Connect Gateway」は、IoT機器とのセキュアな接続を実現するゲートウェイサービスです。IoT機器から送信されるHTTP/MQTTのプロトコルを暗号化処理し、HTTPS/MQTTSに変換することでセキュアな通信を実現します。また、IoT Connect Gatewayが通信の暗号化処理を実行するため、IoT機器に負荷をかけることなくデータ送信量を削減可能です。さらにIoT機器によって異なる各種設定をポータルで一括管理できるため、ネットワークの安全性を高めつつ運用管理の業務負荷を軽減できます。

IoT Connect Gateway

世界各国で製造分野の変革が加速しており、国内においても製造業DXの実現が喫緊の課題となっています。しかし、製造業DXの実現によってものづくり分野の抜本的な変革が期待されている反面、セキュリティの脆弱性や設備投資に伴うリスクを懸念する声も少なくありません。こうした課題を解消して製造業DXを実現するためにも、Smart Data Platformが提供する各種ソリューションの導入を検討してみてはいかがでしょうか。