※この記事は2019年5月の情報です。
2019年3月12日、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)のデータセンター(以下、DC)内に「Nexcenter Lab」が誕生した。このラボには、当社とITパートナー事業者(以下、パートナー)が提供する最新の機器やサービス・技術などが装備されている。お客さまはこのPoC(Proof of Concept、概念実証)環境を利用して、新たなビジネスやサービスを開発・検証することができる。また、さまざまな企業が参加してオープンイノベーションを創出することも可能だ(詳細はニュースリリース参照)。このラボの設立に携わったのは、NTT Com クラウドサービス部データセンターサービス部門*1とNTT国際通信の中堅・若手社員。その中心メンバーに、設立に至る経緯や苦労、今後の取り組みなどについて伺った。
*1 現在は、NTT国際通信 ICTインフラサービス部データセンターサービス部門
e-shelterの事例を日本でも! 若手社員がパートナー獲得に奔走
--まず、Nexcenter Lab設立のきっかけや、オープンまでの取り組みについてお聞かせください。
内田:以前、持株会社の澤田社長が「データセンター事業はコロケーションの提供のみを続けていくのではなく、新たな価値提供についても模索していかなければ」と話されていました。例えば、今後の技術革新によってDCのサーバースペース需要が縮小したら、その余ったスペースをどう活用できるのか、備える必要があります。
そんな時期に当部の担当部長がe-shelter(ドイツ)の話をされたんです。「e-shelterは、自社のDC内にイノベーションラボを設置し、1年間で100社以上のパートナーを集めてさまざまな開発・検証を行っている。こうした『新しい価値を生むための取り組み』を日本でもできないか」と。さっそく部内で検討し、プロジェクトメンバーを募ったところ、若手を中心に10人ほどが参加してくれました。Nexcenter Labプロジェクトがスタートしたのは2018年1月。メンバー全員は本業の傍ら、e-shelterと密に連携しながらパートナー集めに奔走しました。
基本的にプロジェクトの運営は私たちに一任されていました。まずパートナーを探そうと、DC展、AI展などの展示会場に足を運んで、「NTT Comです。1年後にこんなラボを開設するので、ぜひ話を聞いていただけませんか」と売り込みました。と同時に、広くアピールする場を持つため、NTT Comのプライベートイベント(NTT Com Forum)や各種展示会(CEATEC、Mobile World Congress)などに出展。さらに、関連会社やグループ会社が出展している展示会などでも講演の枠をいただき、ラボへの参加を呼び掛けました。展示会が終わった後は、問い合わせ対応や名刺交換のお礼など、やることが次々と出てくるという状態でした。
柴﨑:2018年の9月から10月にかけてイベントが重なり、設営なども含めて準備に追われていました。それも、初めて経験することばかり。Nexcenter Labのロゴ(図参照)をデザインしたり、ノベルティーを作ってイベント会場で配布したり、他社のイベントで講演したり……。それらを社内の専門の担当者に相談しながら自分たちで一から形にしていったんです。特に、出展交渉やリリース・メディア対応などでは広報室の全面的な支援があり、大変助かりました。ただ、2019年3月にリリース発表、オープニングイベント開催という期限もあり、本来業務がある中で活動するのは結構大変でした。
津村:e-shelterのノウハウを吸収したばかりのときに、このパートナーさんだったらこんなことができそうだと考えながら、「一緒にやっていきませんか」と何社もの幹部の方々に提案して回りました。
そのうちの1社、日本ヒューレット・パッカード株式会社さん(以下、日本HPさん)もラボを持っていて、これを機にNexcenter Labとコラボしていきたいという話になったんです。会社に招待され、何人かで行く予定でしたが、当日みんなに急の仕事が入ってしまい、行ったのは私1人だけ。先方は本部長や部長など偉い人たちが4、5人いて、緊張のあまり、用意された軽食は喉を通りませんでした(笑)。
森田:パートナーさんには製品や役務などを提供していただきますので、結局はビジネスの話になります。そこで幹部層には、ビジネスとして結実する可能性があることを、熱意を持って説明しました。中には1社で10回以上も打ち合わせに行ったり、海外出張して現地の責任者と直接交渉したこともあります。
そんな打ち合わせや交渉をする中で、各社のさまざまな取り組みを知ることができました。このプロジェクトを通じて、さまざまな企業の方やNTT Comの他組織・グループ会社と幅広く接することができたのはすごく有意義でしたね。
こうしてプロジェクトメンバー一人一人が懸命に交渉を進めた結果、ラボのコンセプトに共感して協賛いただいたパートナーは、オープン時点で25社になりました。
最大の売りは「日本で唯一の検証環境」と「グローバル展開」
--リリース後の反響は?
内田:広報室と連携してラボのオープニングイベント(記者会見)を開催し、日本経済新聞などに取り上げてもらったこともあって反響は大きかったですね。中には、「なぜわが社がパートナー25社の中に入っていないのか」といったニュアンスのお問い合わせをいただいたり、協業プランをご提案してくださったりするお客さまもあり、オープン後も新たに5社と協業に向けた話し合いをしています。
ラボの最大の売りは、日本でここにしかない検証環境です。一例として、日本HPさんのMemory-Driven Computing(メモリをコンピューティングの中心に置く最新アーキテクチャ。膨大なデータを劇的に高速処理できる)を導入しているのは、世界でアメリカとNexcenter Labの2カ所だけですし、超高発熱のGPUサーバーに対応するリアドア型空調システム(ラックの背面扉に冷水を循環させる冷却方式)が使えるのも国内初です。
森田:NTT Comが持つICTインフラやセキュリティ、アプリケーションなどをすべて試せますし、DCのラボでここまで大々的に、かつグローバル(日本、ドイツ、マレーシア)に展開しているところは他にないと思います。
津村:パートナーが増えることでラボの魅力が増す。その魅力を感じたユーザーが新しいサービスや技術を検証する。その成果がサービスとしてリリースされ、多くの人々が新サービスの価値やメリットを享受できる。そして時代のニーズは変わり、新しい技術がまたNexcenter Labに導入される。そんなサイクルをつくっていくのが、私たちが考えているビジョンです。
組織の垣根を越えてラボの活動を推進
--NTT Comグループ全体にとっても良い影響が出そうですね。
柴﨑:そう思います。DC事業者として、ラボで検証している最新設備や、運用を含む新しい技術を同時並行で検証しています。それらの検証結果を新しいDCに還元することでNTT Comグループ全体の価値を上げ、より多くのお客さまにその価値をご提供できればと思っています。
森田:ラボを立ち上げる際には、NTT国際通信がエンジニアリングの構築を担い、社内の別組織の社員も協力してくれました。組織横断で新しい道を開くという意味でも、1つの風穴を開けられたプロジェクトだったのかなと思っています。今後もいろんな組織の社員と連携してラボの活動を推進していきたいですね。
内田:通常業務だけをやっていたら、こんなにも多くの社員と話す機会はなかったと思います。NTT Comには、Nexcenter Labのようにイノベーションを起こす取り組みが、C×4 BASEやNTT Com Startup Challenge Summit、NTT Com Open Innovation Programなどいくつかあります。彼らとも話し合いを始めていて、今後、共同で講演会や実証実験を行う計画もあります。
津村:このラボが成功することで、フレッシュな考えやアイデアを持った若手社員がどんどん活躍し、イノベーティブな活動がさらに社内に広がればいいなと思いますし、活動を社内外に積極的にアピールしていくことも私たちのミッションの1つです。
これからが本番 意欲ある若手社員を募集中!
--最後に、今後の取り組みや抱負についてお聞かせください。
柴﨑:ラボを設立する際に、契約書の作成や工事の進捗管理などを初めて経験し、こういう手続きを踏んでいくんだなということを知りました。今後は、それをスムーズに運用できるようにしたいと思っています。
本来業務はDCに関連したことなので、セキュアな環境であることが前提となるハードウェア分野・インフラ寄りの仕事が多いのですが、ラボの活動を通じて、それと一見相反するようなオープンイノベーションの視野を広げていくことも目標です。パートナーさんとの交流などを通じて、イノベーションがどうやって起こるのか、どういう分野が伸びていくのか、自分自身で察知できるようにアンテナを広く高くしていきたいですね。そのためにも日々勉強あるのみです。
津村:Nexcenter Labのオープニングイベントの中で、重点分野として8つの技術を紹介しました。今パートナーの皆さんなどと話していると、ブロックチェーンがホットだと感じています。実際、e-shelterがフランクフルトで半年くらい前からいろいろなパートナーやスタートアップを集めて取り組んでいる分野ですので、日本でも最高の環境を用意しユーザーの皆さんに試していただきたいと思います。また、ラボの活動をもっとグローバルに展開していくことも課題の1つです。
個人的には、このラボを使って技術力を身に付け、自分自身の価値を高められるよう新しいことにも挑戦していきたいですね。
内田:直近の課題はユースケースをつくることです。鉄は熱いうちに打てといいますが、早めにいろいろなユースケースをつくっていきたいですね。その際、プロダクトアウトではなく、世の中にどんな価値を提供できるのかを念頭に置いて、お客さまとパートナー、あるいはパートナー同士をつなげる提案をしていきたいと思います。さらに、NTTドコモやNTT東日本のラボとも連携して、NTT全体でイノベーションを起こしていきたいですね。そして、それらの成果が世の中にどんどん広まっていくことが理想です。
森田:ラボがオープンしてこれからが本番だと思っています。PoCのサイクルを回してユースケースカタログをどんどん増やし、きちんと成果を残して、本当にラボをつくったかいがあることを実感したいですね。そのためにも、まずは足場を固め、次年度はビジネスとしてしっかり昇華していけるように頑張りたいと思います。
個人的には、AIやディープラーニングなど、来る技術をどんどん吸収してスキルアップし、20年後のNTT Comの武器を自分でつくって収益源にする。そんな野望を持っています(笑)。
全員:私たちは常に先進技術や製品を用いて、各社とのコラボレーションを企画し、Nexcenter Labの運営をしています。今後は、業務の延長線上の取り組みとして、ラボを通じて活動の輪を広げられたらと思っています。
Nexcenter Labについて報じた各メディアの記事
NTTコム、データセンターで外部企業と協業(日本経済新聞電子版、2019年3月12日付)
NTT Comが"次世代技術のPoC拠点"パートナー23社と開設(TECH.ASCII.jp、2019年3月13日付)