※この記事は2019年6月の情報です。
こんにちは。NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com) 技術開発部です。
さて今回はちょっと自慢話をさせてください。良い話は自慢したいのです。技術開発部員は、技術開発の結果として論文投稿や学会への発表を日々行い、NTT Comのプレゼンス向上に努めています。平たくいうと「NTT Comにはこんなすごい技術者がいるぜ!」ということを、社外の技術者に対してアピールしています。
その結果として、すばらしい賞を連続でいただきましたので、ご紹介させていただきます。
日本ITU協会功績賞を受賞! 柏大さんの取り組み
まずは日本ITU協会功績賞です。
皆さんは、ITU(国際電気通信連合)はご存知でしょうか? 国連の専門機関の1つで、電気通信などの分野において国際的な規格をいろいろと定めている機関です。この活動を日本で支援している組織が日本ITU協会です。この日本ITU協会が毎年「ITU協会賞」として表彰を行っており、今回は、技術開発部でネットワーク関係の開発をリードしている柏さんの取り組みが表彰されました。(ちなみに同じタイミングの「特別賞」では、AppleのWWDCに開発者として招待された82歳プログラマー・若宮正子さんが受賞されていました!)
日本ITU協会は今回の受賞理由を下記の通りとしています。
「世界初のSDN標準化組織であるONFおよびSDNオープンソース開発プロジェクトであるONOS/CORDのBoardmemberを歴任。標準化とオープンソース開発を融合した新戦略で業界をけん引。伝送ネットワークを標準技術でSDN化する世界最先端の取り組みであるODTNプロジェクトを立ち上げ、プロジェクトの連携を推進している」
……ちょっと難しいですね。
なので柏さんご本人に、日ごろの取り組みについて聞いてみました。
「私の活動は受賞理由にも挙げられているように、ONFやONOS/CORDといった主にSDNを扱うオープンソース開発プロジェクトに対して、『こういったユースケースがある』『こういった仕様にすべき』などの提言を、NTT Comでのサービス開発やソリューション提供の今後のロードマップなどを意識しながら行うとともに、他のメンバーからの提言なども交えてONFのボードメンバーとして意思決定をしていくことです。また、プロジェクト内での活動を通じて得られた知見を社内にフィードバックすることも私の重要な役割です。
そこでの取り組みを社内に対してどう生かしているか? という例では、さまざまなネットワークサービスの基盤になる『伝送ネットワーク』というと、大規模かつ専用装置で組み上げるという、ちょっと“特殊な世界”のイメージがあるんじゃないかと思います。それに対して『よくある汎用装置+オープンな技術』(これをDisaggregationと呼びます)、つまりは“特殊じゃないモノや技術”でどこまでできるか? という取り組みを、NTT Com カスタマサービス部と一緒にPoCでやっており、そこにONFの活動で目利きした装置やソフトウエアをインプットしています。
やはりこのようなチャレンジングなテーマは、業界・コミュニティを巻き込んで進めることがとても大事ですね。ソフトウエアを活用してわれわれのような通信キャリアのビジネスを革新するような仕組みを、世界中の仲間とのオープンイノベーションで作っていきたい。ONFはNTTグループの代表として活動しているので、われわれが実現したいこと・チャレンジしたいことを今後もどんどん発信していきます!」
電子情報通信学会2018年度論文賞を受賞! 高橋洋介さんの取り組み
続いて「電子情報通信学会2018年度論文賞」です。
電子情報通信学会はちょっと古い感じの名前ですが、その通りで、1917年に設立され会員が3万人を超える歴史のある大きな学会です。よく「信学会」などと呼ばれ、皆さんの職場でも、大学院で通信関係などをやっていた方は「入ってたよ~」などとおっしゃるかもしれませんね。
論文賞はその学会の賞です。非常にさっぱりとした名前ですが、3万人を擁する電子情報通信学会に1年間で寄せられた多くの論文の中から、「これはすごい!」という特に優れた論文に与えられます。今回は、高橋さんの論文を含めて12件が受賞しました。
高橋さんの論文のタイトルは「Separating Predictable and Unpredictable Flows via Dynamic FlowMining for Effective Traffic Engineering」というものですが、その概要や評価ポイントについて、ご本人に聞いてみました。
「昔と違って、今や誰もがスマホなどできれいな動画を見ています。それとともに、ネットワークを流れるトラフィックの量は近年急激に増大しています。ただ、それに対応する回線や機器などのネットワークリソースは、フレキシブルには増減できません。つまりトラフィックの量に比例して、トラフィック経路を柔軟に制御する手段の重要性が高まっていきます。そのトラフィック制御のパフォーマンスは、『ダイナミックに変動するトラフィックをどう予測するか?』にかかっているといえます。しかし、コンテンツの多様化・高品質化に伴って、トラフィック量の時間ごとの変更幅、つまりは予測の難しさもますます大きくなってきているのが難しい部分です。
今回の論文では、効率的なトラフィック制御を実現するために、トラフィックをフローレベルで分析しました。それにより、トラフィックを時間での変動が少ない“予測しやすい部分”と、変動が激しい“予測しづらい部分”に分けています。そして、それぞれに対して異なる経路制御ポリシーを使う新しい手法を考えました。
この手法は、トラフィックを2つに分けた上で“予測しやすいトラフィック”には、予測結果から算出したリソース利用を最適化できる経路を割り当てる一方で、“予測しづらいトラフィック”には、トラフィック量が上振れした際の混雑リスクを低減できるような迂回経路を割り当てています。その有効性を米国の大学・研究機関の基幹ネットワークのトラフィックデータを用いて検証し、従来の分離しない制御アルゴリズムに比べて、ネットワークリソースの利用効率の向上や混雑リスクの低減ができることを示しました。
今回の論文は、トラフィックの特性に応じて適切な経路制御アルゴリズムを選択して適用することで、トラフィック制御の性能を向上させるというものです。その今までにないアプローチの新規性が評価されるとともに、その有用性を実際のトラフィックデータを用いて検証し実証している部分も評価いただき、受賞につながったと聞いています。
映像配信の拡大や高精細化に伴って、ネットワークを流れるトラフィック量はすさまじい勢いで増大しています。このような社会の要求に通信事業者として応えるべく、高品質かつ経済的なネットワークを実現するためのトラフィック制御技術を今後も検討していきます」