NTTコミュニケーションズ
プラットフォームサービス本部 事業推進部
松浦 新司
※この記事は2018年11月の情報です。
2018年に西日本を中心に記録的な豪雨被害をもたらした「平成30年7月豪雨(以下、西日本豪雨災害)」。前編に引き続き、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)において復旧に努めた各班の対応をご紹介する。
後編は、サービスの早期復旧に向けた活動と、復旧工事が一時ストップしたところまでを紹介した広島~愛媛間のその後、さらに、NTT Com社内における社員の安否確認活動についてだ。最後に、各メンバーが災害対応を行う上でもっとも大切にしていることもご紹介したい。
大規模災害などの非常態勢時には、警察、消防、医療、運輸、行政など、ライフラインに関係するお客さまにご利用いただいているサービスの救済が最も優先される。しかし、企業や個人のお客さまにとっても、いち早い復旧が必要なことはいうまでもない。
こうしたお客さまの被災状況や、サービスの早期復旧要望を収集し、全社会議を通じて各班に伝えるとともに、個々のお客さまへの対応方針を策定・実行するのが「お客様対応班」の主な任務だ。
メンバーの1人であるNTT Com西日本営業本部の荻野主査に、7月6日夜~7日未明にかけての故障発生後の初動について尋ねた。
「7月に入って大量の雨が降り続き、大規模な災害を危惧していた矢先、NTT Com中継ケーブルが断線したという内容の全社メールを受信しました(故障発生時刻:7月7日3時58分)。即座に全社の電話会議に参加するとともに、西日本営業本部内の全管理者と営業担当者(約700人)にNTT Com設備・サービスの被害状況を展開し、お客さま情報の収集を要請しました」(荻野主査)
その後、各営業担当者から続々と送られてくるお客さまの早期復旧要望(温度感を含む)などリアルな声を取りまとめて、社内の関係各所に共有した。NTT Comの中継ケーブルは、故障発生の約12時間後から仮復旧し始めていたが、中継網とお客さまとをつなぐアクセスラインは壊滅的。広域停電の影響もあり、お客さま通信の回復状況(目途を含む)を把握するのに苦慮したという。
こうした中で重要となるのが、現地の被災状況の把握だ。どのように情報収集をしたのか、情報統括班の松浦新司担当課長にお聞きした。
「情報統括班はNTTグループ各社の災害対策室と情報連携しているのですが、西日本のアクセスライン提供会社では現地が混乱していて情報をつかみきれていない様子でした。そこで、情報統括班でも7月12日から2人(最終的に3人)を現地に派遣し、NTT Com独自の状況確認を進めることにしたんです」(松浦担当課長)
被災当時、テレビ・新聞などで何度も報じられていた岡山県の真備町では、小林利博主査、篠原裕二主査がお客さまの店舗などの情報収集にあたっていた。
「洪水被害を受けた真備町周辺の第一印象は、まるで津波の被害のようでした。たくさんの流木や泥、家具などが散乱し、コンビニ店舗の天井裏には濁流が押し寄せた跡がくっきりと残っていたんです。そうした現地の情報を写真に収めるなどし、東京にどんどん送りました」(小林主査)
こういった情報は、現地の状況が分かりにくいお客さま本社内などで高くなりがちな早期普及への温度感を鎮めるとともに、NTT Comにとっても復旧の優先順位を決める大事な判断材料になる。状況をどのように見極め、順位を決定していったのか、岸山哲也担当部長ら3人にお聞きした。
「現地入りしていた篠原主査が、お客さまの目線で現場の状況を実査し、復旧の可能性について社内に伝えてくれていました。そのため、お客さまと直接やり取りしている営業担当者にも早期に適格な情報提供ができたと考えています。その後次第に、復旧が難しいエリアと復旧可能なエリアが分かってきたため、その状況も加味して、早期復旧できそうなところから優先順位を決めていきました」(岸山担当部長)
お客様対応班において、西日本営業本部管内のお客さまからの要望を取りまとめた荻野主査によると、西日本豪雨災害では、自然災害ということもあり自社の通信を最優先に復旧してほしいと訴えるお客さまは比較的少なかったそうだ。混乱が広がらなかった要因には、こうした情報収集・提供により、お客さまが比較的冷静に対応してくださったことは十分に想像できる。
お客様対応班では、その後も発災から約1カ月間にわたり、お客さま対応状況の取りまとめと全社会議への報告を継続して実施した。
7月13日に復旧工事の中断を余儀なくされた広島~愛媛間の一部断箇所(前編を参照)では、行方不明者の捜索が依然として続いていた。工事予定のマンホールの上には関係車両が停車。その後の工事については、警察とNTT Comとの直接の協議が必要な状況だった。
そのとき現場にいたのが、情報収集活動を行っていた情報統括班の高橋誠さんだ。この場所のケーブルは10芯のみでかろうじてつながっている状況で、いつ切れてしまうか分からない。そのため、周辺にある別のマンホールで切替作業が実施できないか、現地調査を行っていたのだ。
「現場で写真を撮ってはすぐに東京に送るという作業を続けていた時に、工事の許可申請を交渉するようにという指示が本部から入ったんです。現地には自衛隊、消防、警察がいて、まず交渉相手を探すところから始めました。その相手が、道路を管轄する地元の警察署だと分かり、保守会社の保守員と一緒に工事内容などを説明すると、人命救助の捜索活動が止まる夜だったら作業をしていいと許可をもらいました」(高橋さん)
現場が混乱している被災地での交渉は、ネットワーク救済の重要性を必死に訴えないと相手に響かない。そのため、放送の重要性や、自衛隊、消防、警察の方々の仕事も支えている点などを懸命に説明するそうだ。
再開できることになったケーブルの切替工事は7月20日の18時から開始し、21日3時42分に終了した。その後、順次、各地の設備の回復措置を行い、8月3日に非常態勢は解除された。本格復旧は、各地の道路や橋梁などのインフラが整備されてから実施した。
非常態勢下において、NTT Comはサービス復旧に当たる一方で、自社社員の安全確保も行うことになる。総務厚生班は、社員の安否確認、住宅被災調査、後方支援などを担っている。重篤な社員がいた場合は、速やかな救急につなげなければならない。
西日本豪雨災害で安否確認(社員に安否状況を確認する通知連絡)を発動した経緯について、総務厚生班の福谷隆二担当課長に聞いた。
「それまで、大雨で安否確認を発動したことがなかったこともあり、非常態勢が敷かれた7日午前中も警戒態勢のまま備えている状況でした。しかし、西日本の多くの河川が警戒水域を越え、特別警報も広い地域で継続していたため、社員への注意喚起も含めて7日12時50分に安否確認を発動しました」(福谷担当課長)
対象は19府県に勤務または居住している社員約800人。返信はその日のうちに9割弱(88%)あったが、無回答の人は大丈夫なのか、回答済みの社員の中にも重大な被害に遭っている人はいないか、確認作業を行っていく。その作業にあたったのが、西日本営業本部の松田洋幸担当課長だ。
「各支店の支店長などに電話で連絡し、社員個々の被災状況の確認を依頼。同時に、無回答になっている社員の安否登録を再度お願いしました」(松田担当課長)
最終的に安否確認が終わったのは、翌8日朝の6時50分だった。松田担当課長はあらためて安否確認システムの有用性を認識すると共に、システム内のデータが正確にメンテナンスされていることの重要性を痛感したという。
被災地の状況を知ると、皆さんと同じように、とてもいたたまれない気持ちになりますと話すのは、西日本営業本部 中国支店の多田明弘担当課長だ。2011年の東日本大震災や2014年の広島豪雨災害のときにボランティア活動に参加し、西日本豪雨災害でもライフプラン休暇を利用して、2度ボランティア活動に参加した。
1度目は7月20日。このころ、40度にもなる酷暑が続き、多くのボランティアが熱中症で倒れるというニュースが流れていた。多田担当課長は、日本労働組合総連合会広島県連合会から派遣されたバスに乗り、広島市から少し東の瀬野という場所で、土砂の撤去作業などを行った。
「重機でできないところをスコップで掘って運び出すのですが、あまりにも暑すぎて、作業は10分~15分やって10分休むという繰り返し。人よりもタフな方だと思っていましたが、2時間ほどすると10分でも長く感じて目の前が真っ白になりそうでした」
2回目は、いくぶん日差しが和らいだ9月7日。NTT Comの回線が被災した場所の近くに行った。ここも被害が大きく、胸の高さまで土砂が押し寄せたという。9月になってもまだ屋内に土砂が残ったままだった。
「床下の泥の撤去は、人の手でなければできません。重機で運び出す土砂の量に比べたら、人ができることはほんの少し。いったい何人集まったら西日本各地の土砂がなくなるのだろうかと気が遠くなるほどでした。被災された方にかける言葉も見つかりませんでしたが、帰り際に感謝の言葉をいただき、心が温かくなりました」
あらためてNTT Comの被災状況をまとめると、広島~愛媛間、広島~岡山間の2ルートでケーブル故障が発生(全断1カ所、一部断3カ所)。中国・四国地方の広範囲に故障の影響が広がった。また、道路がえぐられ管路が露出するなど新たな故障が発生する恐れのある箇所(恐れ故障)も16カ所あり、巡回による道路変状のチェックや防備対応が求められた。
実は、故障範囲が広範囲に広がる状況は、長年の経験を持つ復旧メンバーたちもあまり経験したことがなかったという。伝送路切替対応チーム(サービス班)の大瀬浩幹担当課長は、故障発生直後、お客さまの回線にどのような影響が発生しているのかが全くつかめず、全体像を把握するのに時間がかかってしまったそうだ。
こうした緊迫した状況下では、現地に部材を送り込んだ後に、復旧方針が変わることもある。それでも何とか対応しなければならないため、担当者たちは、目の前の作業を進めながらも逐一情報をチェックし、いろいろな手を使ってうまくやりくりすることが求められる。「災害時は、いつも挑戦しながらやっている感じ」と言い表す人もいるほどだ。
通信インフラを守るという使命を果たすために、各メンバーが大切にしていることとして、最も多く挙がったのが「チームワーク」と「現場力」だ。
中継ネットワークを運用する業務は、大きく「設計・構築」と「運用・保守」の2つある。災害時は、この2つの知識や経験をフル活用しなければ対応できない。西日本豪雨災害で復旧活動にあたったサービス班のメンバーの多くは、両方の知識と経験を豊富に持つベテランたちだ。
「お互いの立場がよく分かるため、うまく連携できたのだと思う」と、サービス班の塩本担当課長は振り返った。チームワークを発揮するために欠かせないのが、段取り。同じ災害は2つとしてないため、備えることも重要だ。NTT Comでは、激甚災害を想定した各種演習を実施し、緊急時にも適切に対応できる訓練を行っている。
また、通信インフラを守っているという強い使命感があるからこそ、困難が伴う現場でも奮闘できる。しかし、そこで「冷静さ」を失ってはいけないと話すのは、設備班の武田光仁担当課長と、情報統括班の松浦担当課長だ。
「現場に入るとみんなアドレナリンが出まくって、冷静さを失う可能性があります。ですが、二次災害は実際に起こり得るので、安全第一で対応しなければなりません。また、同じく通信サービスを提供しているNTTグループの他社や競合企業も大きな被害を受けている中で、うちだけ先に……と独り善がりにならないこと。NTTグループ間での連携はもちろん、場合によっては競合企業とも協力するという意識が大事です」(武田担当課長)
「情報統括班には、各現場で熱くなっている人たちからたくさんの情報が集まってきます。情報はまた聞きしている状態ですので、その先を想像して次の手を考えていかなければなりません。いろいろな現場からの報告に隙間がないかどうかを常にチェックし、隙間があれば埋めていく。想像力を発揮し冷静に対応していくのがわれわれの使命だと思っています」(松浦担当課長)
西日本豪雨災害では、入社3年目の若手社員も現場に入り、ベテラン社員の判断に従って復旧作業を行った。こうした知識や経験を次の世代につなげていくことも今、求められている。日々の業務などさまざまな場面で、社員が知識や経験を積み重ね、技術を次につないでいく活動が行われている。
NTTコミュニケーションズプラットフォームサービス本部 事業推進部
松浦 新司
プラットフォームサービス本部 事業推進部の危機管理室において、非常態勢時の情報収集や全社会議の統制、NTTグループ間の情報連携、社外機関との連携などを担当。生活に欠かせなくなった通信インフラを守るため、関係者との密な連携と冷静な判断を心がけています。
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