オペレーター全員が在宅で電話を受け、新型コロナウイルスが猛威を振るう中でも安定したコンタクトセンター運営を続けているのがNTTコム チェオ株式会社(以下、コム チェオ)です。
コム チェオはオペレーターの採用から業務開始に至るまで、全てのプロセスを遠隔化することにより、応募者が一切出社することなくオペレーターとして働くことができる体制を確立しました。これにより、北海道から沖縄まで、全国各地の人々がオペレーターとして活躍しています。
今回、コム チェオ ビジネス開発営業部の北村優 部長、水村浩希 担当部長、村井大輔 担当課長の3人に、どのように在宅型コンタクトセンターを運営しているのかについて語ってもらいました。
NTT ComのOCN提供をきっかけに在宅型コンタクトセンターを立ち上げ
――コム チェオの事業内容を教えてください。
村井さん:コム チェオは「在宅型コンタクトセンター」の運営を主な事業として、2002年に設立されたNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)のグループ企業です。事業としては在宅型コンタクトセンター運営のほかにも、デバイスの調達やキッティング、配送まで一元管理を行う「ICT機器総合管理」、全国各地へIT機器の出張サポートを担う「訪問サポート」、ICTに関連した導入研修やセキュリティ研修、ITリテラシー研修などを行う、「教育・研修支援」も展開しています。
もともと、NTT ComのISPサービスであるOCNのテクニカルサポートを行うためにコム チェオが立ち上げられたという背景もあり、高いITスキルを有していることがわれわれの強みです。その強みを生かして、これまで事業範囲を広げてきました。
――なぜ在宅型でコンタクトセンターを運営しようと考えたのでしょうか。
北村さん:この仕組みをスタートさせた2000年当時は、インターネット人口が急激に増加している時期であり、テクニカルサポートの問い合わせ件数も急増しておりました。これに対応するため受付体制の増強が急務となりましたが、NTT Comは全国に支店があるわけではなく、また多くのサポート要員を抱えているわけでもありませんでした。この課題をクリアするために検討を進めた結果、出た結論が今の在宅型コールセンター構想でした。働く意欲・能力を持ちながら子育てや介護などでやむを得ず勤めをやめた方など、身に付けた ICT知識や技術を活用できずにいる人材を、テレワークを利用してうまく活用できないかという発想が生まれました。
このようにして、就業を希望する方々に対して新たな活躍の場を提供するとともに、ICT を利用した在宅就業という新たなワークスタイルを創出することで、高いコストパフォーマンスで品質の良いサポートを提供する在宅型コールセンターや訪問サポートの仕組みをスタートさせました。
地域を限定しない人材募集により、多くの応募者が殺到
――コンタクトセンターや訪問サポートを行っているスタッフは、どういった方々なのでしょうか。
村井さん:私たちは、在宅で業務していただいているスタッフを「CAVA」と呼んでいます。これは「.com Advisor & Valuable Agent」の略です。
NTT Comは、ICTスキル認定資格制度「インターネット検定 ドットコムマスター」を実施・運営しています。CAVAはその資格を有するスキルの高い人材であり、インターネットの案内役となるという意味を込めてCAVAという名称にしました。
現時点での在宅就業事業主登録数は1900人で、そのうちの1000人が電話サポート業務、900人が訪問サポート業務を担当しています。
――オペレーターの採用やトレーニングはどのように行われているのでしょうか。
村井さん:OCNだけでなく、そのほかのコンタクトセンター業務に従事しているオペレーターも含めて、まったく来社することなく、オンラインで面接やトレーニングを行っています。
オペレーターの募集は主に求人サイトで行っており、多い時には1カ月あたり100~200人ほどの応募があります。応募者に対してタイピングやITに関する知識を問うテストを行い、Web会議で面接を行います。そこで合格となれば、eラーニングやグループ研修、さらにコールトレーニングをすべて遠隔で実施して業務開始という流れです。業務や研修内容にもよりますが、応募から業務開始までは最短で1カ月程度です。
――人材募集に対して、1カ月あたり100~200人の応募があるというのはかなり多いですね。
村井さん:一般のコンタクトセンターだと特定の地域での募集になりますが、われわれの場合は在宅型コンタクトセンターのため、全国から募集することが可能です。また在宅勤務であること、在宅でありながらきちんと稼げることも魅力となっているようです。
SVも在宅勤務でオペレーターを支援
――在宅型コンタクトセンターはどのように運営されているのでしょうか。
村井さん:フリーダイヤルやナビダイヤルでお客さまからお電話があると、クラウド上にあるシステムを通じて、CAVAが自宅で電話を受けます。
OCNに関する業務については、仙台の拠点にいるスーパーバイザー(以下、SV)が、在宅で電話を受けているCAVAをサポートしています。
1000人のスタッフと約300人のSVが応対するということになると、一般的なコンタクトセンターであれば相当な広さのスペースを用意しなければなりません。しかし、われわれはSVの場所だけ確保すればよく、小規模な拠点を用意するだけで運営することができます。
なおCAVAとSVはお客さまと通話中でもテキストチャットでコミュニケーションすることが可能で、それを使ってSVが回答をサポートしたり、CAVAからSVにヘルプを依頼したりすることがあります。またCAVAが受けたコールをSVに転送するといったことも可能になっています。
北村さん:OCNに関する業務では、SVは仙台の拠点で業務をする形になっていますが、現在コム チェオで対応させていただいている日本マイクロソフト様の「マイクロソフト Office製品セットアップサポート」や、NECパーソナルコンピュータ様の「NECパソコンテクニカルサポート」などについては、SVも在宅で勤務しています。
――今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、コム チェオのコンタクトセンター業務にどのような影響がありましたか。
村井さん:先にお話したように、OCNのサポートに関するSVの業務は主に仙台のセンターで行っており、それがネックになった部分がありました。フィジカルディスタンスの観点からSV同士の間隔を広げたり、2交代制で勤務するようにしたのですが、それによりCAVAに対するSVのフォローが充分でない面がでてきました。そこで現在では、OCNのサポート業務に関しても、SV機能の在宅化を進めているところです。
一方、日本マイクロソフト様やNECパーソナルコンピュータ様の業務については、北村が述べたように、すでにSVを在宅化していましたので大きな影響はありませんでした。
BCP対策としても有効な在宅型コールセンター
――在宅型でコンタクトセンターを運営するメリットとして感じていることは何でしょうか。
村井さん:まず全国を対象に人材募集ができる点です。コンタクトセンター業界は人手不足が慢性化していますが、その課題解決に在宅型は有効であると考えています。
離職防止の観点でも有効です。家族の転勤、あるいは介護のために引っ越ししなければならないといったとき、在宅型であればどこでも仕事ができるため、仕事を続けていただくことが可能です。
次に、大地震などの災害、あるいは今回の新型コロナウイルスの感染拡大のような事態が発生しても、在宅型であればほとんど影響を受けることなく運営を続けることができる点です。今回の新型コロナウイルスに関して言えば、拠点型コンタクトセンターの場合は1人でも感染者が出ると、そのオフィスで業務を継続することは困難になりますが、在宅であれば仮に感染者が出たとしても影響を最小限に留められます。
最後に、働き方改革への対応です。働くことに対してのニーズは着実に変わりつつあると感じていますが、そうした社会的な要請に応えられることも在宅型コンタクトセンターのメリットだと感じています。
――在宅型ならではの難しさはありますか。
村井さん:在宅で業務することになるため、スタッフはどうしても孤独になりがちです。拠点型のコンタクトセンターであれば、周りに同僚のオペレーターがいて、休憩室に行けばほかのオペレーターと会話することもできるため、ストレスを緩和することができます。しかし在宅勤務だと、1人で向き合わなければならない状況に陥ってしまいます。
そこで私たちは、トレーニング期間からプロアクティブかつ丁寧にオペレーターの方々をケアするように心掛けているほか、オペレーター同士でコミュニケーションを促進するための社内限定のSNSなども立ち上げています。
また、それぞれの地域でオペレーター同士がつながっていて、勉強会が催されることもあります。そうした活動をサポートするために、支援制度も充実させています。
――コンタクトセンター業務を在宅化する際、ネックとなるのはどういった部分でしょうか。
村井さん:やはりセキュリティです。在宅でコンタクトセンターを運用することをご提案したとき、お客さまによってはセキュリティがネックになって頓挫してしまうことがあります。
ただ、コム チェオは20年近く在宅型でコンタクトセンターを運営してきましたが、在宅のオペレーターが意図的に個人情報を持ち出したといった事故は1件も発生していません。その意味で拠点型とセキュリティリスクは変わらないと考えていますが、やはり気にされる方はおられます。
コム チェオでは、お客さまのご予算やセキュリティ基準などのご要望に合わせて、在宅システムの構築もしております。具体的な要望としては、オペレーターが使う端末にはデータを残さないといったものがあります。そうした要望に対し、たとえばシンクライアントの仕組みを用い、オペレーターはサーバー上で起動するWindowsのデスクトップ環境を利用することで、手元のパソコンには何らデータを残さないようにするといった対策を講じたシステムをご提供しています。
北村さん:コム チェオは在宅で利用するパソコンを、責任を持ってキッティングするセンターがあります。また、訪問サポートの部隊がありますので、オペレーターが使うパソコンのネットワークやセキュリティの設定を在宅スタッフに代わって訪問部隊が行うことも可能です。これにより、設計したセキュリティ対策を着実にオペレーターのパソコンで実施できる環境を整えることができます。キッティングから訪問サポートまで提供できるコム チェオの強みの一つだと言えるでしょう。
「“働く”を変える」をスローガンに掲げるコム チェオの思い
――新型コロナウイルスの感染拡大で、コム チェオが提供する在宅型コンタクトセンターのニーズは高まっているのでしょうか。
北村さん:在宅型コンタクトセンターだけでなく、さまざまな業種の企業から業務の在宅化に関するお問い合わせをいただいております。われわれとしては、在宅型コンタクトセンターを運営してきたノウハウや知見を活用し、業務の在宅化を検討している多くのお客さまに対して、コンサルティングやシステムのご提供などで支援させていただきたいと思っています。
――最後に、コム チェオとしての今後との取り組みについて教えてください。
村井さん:今回の新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの企業がコンタクトセンターだけではなく、さまざまな領域でテレワークの本格的な導入を模索されています。このテレワークについて、われわれには20年近い実績がありますので、その経験を生かしてテレワークの実践に向けた支援を行っていきたいと考えています。
水村さん:CAVAは、介護や育児など、家にいないと仕事を継続することができないといった方が多く従事しています。また、身体にハンディキャップがあって通勤することができないといったオペレーターの方もいて、自宅で仕事ができるということですごく感謝されています。
その意味で、単に在宅型コンタクトセンターというだけでなく、働く場を広げていくことがコム チェオの大きな使命だと考えていますし、その実現に向けて今後も社員が一丸となって努力していきたいと思います。
北村さん:私たちは、自宅でも仕事ができる、ハンディキャップを持つ方々が働くことができる、あるいは都市部でなければできなかった仕事を地方でもできるようにするなど、いろいろな意味で働き方や仕事のスタイルを変えていきたい。こうした思いを込めて「“働く”を変える」をスローガンとして掲げています。
地方であっても都市部と同様に働いて稼ぐことができる、こういったことが在宅勤務の可能性だと思っていますし、そこにチャレンジする企業を支援していくことがわれわれの使命であると認識しています。現在、新型コロナウイルスで大変な状況ではありますが、これを機に働き方を変革したいと考えている企業に対して積極的に情報発信し、また働き方を変えるための支援を積極的に進めていきます。
CAVA(在宅スタッフ)の方のコメント
実際に業務をしていて、どのように感じているのか伺いました。
西野 道雄さん
コム チェオの在宅スキームは働いた分だけ収入がもらえるので、より責任感を持って業務に取り組むことができ、本当にやりがいを感じています。腰痛対策としてスタンディングデスクを導入してみたりと、自分なりにオフィス(≒自宅)を柔軟にアレンジできるのも在宅勤務の魅力かもしれません。
池田 尚子さん
家族とのスケジュールに合わせて働けるので、家族との時間を十分確保できます。また、希望する収入に合わせて計画的に仕事をすればしっかり稼ぐこともできるので、仕事と子育ての両立が非常にしやすく助かっています。