2023年10月6日

たくさんのサポートに感謝して、助け合いの心をつないでいく
~白血病サバイバーの3人が今、伝えたいこと~

もし病気で仕事を長く休んだら、生活やキャリアはどうなる? 復帰後の働き方はどうすればいいの? こうした不安は誰しも持っているのではないでしょうか。実際、人知れず病気と向き合いながら働いている方も少なくなく、自分の身にも起こり得ること。

そこで今回は、急性骨髄性白血病に罹患(りかん)し、入院治療を経て仕事に復帰したNTTグループで働く3人の方にお話を伺いました。発病時の気持ちや大病を経験したことで変化した仕事観、会社の支援や仲間への感謝など、さまざまな思いが溢れるインタビューです。

■お話を伺った方

柿崎万葉さん(NTT 総務部門 人材戦略担当)

柿崎万葉さん(NTT 総務部門 人材戦略担当)

今年1月、NTT コミュニケーションズ(以下、NTT Com)からNTTへ。NTT Comから海外グループ企業へ出向中の社員のNTTへの転籍プロジェクト推進、現地法人との出向関連契約の交渉締結や出向者の海外生活の支援、グローバル人材育成やグループ人材戦略策定を行う。私生活では今年から2拠点生活に。長年の夢だった“海が見える家”に住み、サーフィンを始めた。病気の経過をInstagram(@n081161)で発信中。

平野敏行さん(NTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部)

平野敏行さん(NTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部)

今年5月に赴任先のイギリスから帰国して現職。コネクテッドカー向けモバイルIoT案件のプロジェクトマネジメント業務を担っている。イギリス時代に発病、治療した経験をNTT Comの社内報に投稿し、大きな反響があった。趣味のロードバイクは暑さを避けて週末の早朝、楽しんでいる。

村﨑誠さん(NTTドコモ 経営企画部 経営企画担当)

村﨑誠さん(NTTドコモ 経営企画部 経営企画担当)

経営会議の事務局業務を担当。趣味はバドミントン。「NTT通研神奈川」チームの主将を務め、神奈川県の実業団リーグに参加している。仕事復帰と前後してバド部にも復帰し、6月の全日本実業団選手権にも出場。ダブルスでペアを組むのが平野さんの上長という不思議な縁が。柿崎さんとはSNSを通じて知り合う。

――まず白血病を発病してから仕事復帰までの経緯を聞かせていただけますか?

柿崎:診断が下りたのは2021年6月でした。高熱が続いたのでコロナかと思ったら違って、血液検査をしたら「白血病です。明日から入院してください」と。

実はその日の午後に、異動の内示をもらうはずでした。上司に報告したら「会社のことは気にせず、とにかく治療に専念してくれ」と言ってもらって、異動は取り消しに。慣れ親しんだチームに所属したまま治療に入れました。

抗がん剤治療と臍帯血(さいたいけつ)移植を経て2022年3月に退院。7月に業務を軽減してもらいながらフルリモートで復職して、10月からフルタイムに復帰しました。

平野:私もロンドン駐在中の2021年5月、高熱が1週間ぐらい続いて、熱が下がってからも動悸がしたので病院を受診しました。血液検査の結果が出た途端に医師が“鬼電”してきて、大学病院で精密検査を受け、「白血病なので、このまま入院してください」と言われました。2週間後には2人目の子どもが生まれる予定だったのでその時は「人生終わった」という気持ちでしたね。

海外駐在員の入院というイレギュラーな事態に、会社は“人命を最優先”に考えて柔軟に対応してくれました。仕事はいきなり放り出すことになりましたが、部下や同僚が分担して引き取ってくれました。

抗がん剤治療を受け、造血幹細胞移植(骨髄移植)を受けて、2021年12月末に退院。2022年3月に仕事に復帰しました。

村﨑:僕は2022年3月に病気が発覚しました。気付いたきっかけはバドミントン。1ゲームも終わらないうちに息が切れるようになって。しまいには、1点取るごとに膝に手をついていました。

検査後、僕も病院から“鬼電”を受けて、大きな病院で再検査。「白血病です。今すぐ入院してください」と言われましたが、入院前に妻や娘と過ごしたかったので、その日は家に帰って、翌日から入院しました。

治療は抗がん剤だけの予定でしたが、途中で難治性だと分かり、臍帯血移植を受けました。2022年10月中旬に退院、今年4月に復職しました。

――会社の制度や同僚の支援でうれしかったのはどんなことですか?

村﨑:一番は、金銭的な心配をせずに治療を受けられたことです。日本には高額療養費制度がありますが、NTT健康保険組合の場合は、保険適用の医療費で自己負担が発生した場合、1カ月おおむね2万5000円を超えた額は後日自動還付されます。制度ももちろんですが、そのことを上司がすぐに調べて知らせてくれたのもありがたかったです。

病気休暇や休職の期間にも給与が支払われる点*も、非常に手厚いと思いました。お金のことばかり言ってすみません(笑)。

*疾患の種類や勤続年数によって金額が変わります。

柿崎:そのサポートがあったからこそ治療に専念できたのはあります。あと、上司や同僚の応援が本当にうれしかったです。上司が入院2日目にポータブルDVDプレーヤーと「探偵!ナイトスクープ」のDVDボックスを届けてくれて、私は抗がん剤の点滴を受けながらDVDを見てゲラゲラ笑っていました。

チームのみんなもたわいない写真や近況報告をちょくちょく送ってくれて。チーム内には病名を伝えていなかったのですが、移植の前日に、国内外のメンバーからサプライズで応援ビデオレターが届いたときには、大号泣でした(笑)。

柿崎さんが受け取ったビデオレター

平野:私も職場の仲間に助けられました。入院と妻の出産が重なったので、家族に代わって着替えを病院に届けてくれたり、ちょっとした買い物をしてくれたり。仲のいい同僚の奥さまは、出産後の妻のところへ手料理を冷凍して大量に届けてくれました。

多国籍のチームメンバーが十人十色のやり方で励ましてくれたのもうれしかったです。真っすぐ「また一緒に働きたいから絶対に生き残ってくれ」と言ってくれたり、クリスチャンの友人は神様にお祈りしてくれたり。あえて連絡を控えてくれた人もいれば、その人がどんなふうに心配しているか教えてくれた人もいました。

それで職場の人間関係って一つの共同体なんだと感じました。数年前、幹部・組織長と社員の対話会*で待遇を巡って議論が巻き起こったりしました。でも、こういうコミュニティーの良さ、セーフティーネットの厚さがある。自分が健康で順調に働いていた時は気付きにくい「NTTの素晴らしさ」でした。

*NTT Comでは立場や組織を超えたリアルタイムかつオープンな社内コミュニケーションなどをめざし、定期的に対話会を行っています。

村﨑:僕は、病気をごく限られた人にしか明かさなかったので、周囲から特別な励ましを受けたりはしていないんです。でも、僕がそう望んだことで、察した上で何も聞かないでいてもらえたことがありがたかったですね。

――では、こうしてもらえたらさらにうれしいな、と思うことがあれば、ぜひ聞かせてください。

村﨑:感謝の気持ちでいっぱいですが、強いて言えば、自己決定権は欲しいと思っています。「送別会をやるけど無理だよね?」とか、逆に「もう治ったんでしょ?」とか先回りをするのではなく、「送別会をやるけど来る?」「体調どう? この出張を頼める?」とシンプルに聞いてもらえたらうれしいです。

平野:分かります。自己決定権はキーワードですね。仕事においても、心配するあまり、就業機会の制限や業務負担の軽い部署に異動させる前に、本人に考えを聞いてもらえたら…。私はありがたいことにうまくコミュニケーションが取れていますが、在籍するチームの心理的安全性や上司・同僚との関係性に依存するので、難しいところではありますね。

柿崎:私は、今の部署で残業していると途中で「もう今日は上がって」と上司が気遣ってくれるんです。そのこと自体はとてもありがたいと思っていて。ただ、人はいつ病気になるか分からないし、私たちのような人材も含めみんなが活躍できる組織にするのがダイバーシティですよね。育児や介護をしている方もたくさんいらっしゃいますし、「事情のある人の負荷を軽くする」のではなく、事情の有無に関係なく誰も長時間労働しないで済む体制をめざすと、みんなでハッピーになれると思います。

――病気に限らず、育児や介護など制限がある中で仕事をしている方も多いと思いますので、とても参考になるご意見です。言いにくいことをお話しいただきありがとうございました。では、病気休職からの復帰を経て、仕事観などに変化はありましたか?

平野:人生観そのものが変わりました。以前は、努力してスキルを磨いてキャリアを築いて自分の思う通りの人生をつくろうとしていましたが、いきなり死にかけてしまったら、人生は思い通りにならないものなんだと気付くしかない。人生に予期せぬイベントは起きるからそれをどう捉えて生きていくか、という考えに変わりました。だから、例えばこの先キャリアが思い通りにいかないことがあっても、それでも日々いい仕事をしようと思います。

それから、今は、いろいろ失って自由になれた気がしています。昔は他人の評価を気にしたり、重要なプレゼンではひどく緊張したり、さまざま悩みもありましたが、生きるか死ぬかの問題に比べたらなんでもない。ちょっと無敵な感覚ですね(笑)。この無敵さを保ちたいので、移植治療のレジュメをスマホの待ち受けにして、自分が死にかけたことを忘れないようにしています。

治療が地獄のように辛かったので、生還した今は人生2周目のようなもの。2度目の人生では、自分の能力は自分の野心のためではなく、周りの人を助けるのに使いたいと思っています。そして、自分が仕事でストレスを感じるとき、他の人だってストレスを抱えている。そういう前提に立って人を励ましたいです。

村﨑:僕はNTTの良さを実感しました。この病気は感染症リスクが高まるので、在宅ワークが望ましいんですが、NTTだから今それができている。世の中には同じ病気を患いながら、そうした環境にない人もたくさんいるんですよね。

あとは短時間勤務だったとき、誰からも心無い言葉を聞くことはなくて。これもきっと、どの会社でも同じではないんだろうと思います。

自分の働き方でいうと、表現が難しいですが、すごく真面目になりました(笑)。業務量を軽減してもらっていても、短くなった就業時間の中でやり切るのは簡単ではないので、頭を使って、脇目も振らずにやっています。

柿崎:私は仕事に救われました。退院から復職までの3カ月は、もしも再発したらとか、余計なことばかり考えてしまって。それで「どれぐらい仕事ができるか分からないけど、私の精神衛生のために復帰させてほしい」と願い出て、叶えてもらいました。社内報にアップされた平野さんの記事を泣きながら読んで、復職を決めたんです。

仕事を始めたら、毎日が忙しくてどんどん月日が過ぎるし、要らないことを考える暇がない。仕事関係のストレスも出てきますけど、それは日常に帰ってこられたという実感にもつながって、なんだか幸せに感じたんですよね。

そして、今はお世話になった皆さまへ業務を通じて恩返ししていきたい、という気持ちが仕事のモチベーションになっています。

――最後に、この記事を読む人へ、メッセージをお願いします。

柿崎:社内外を問わず支えてくださった方々のおかげで、私たちは安心して治療が受けられ、こうして社会復帰できています。心から感謝しています。
私は平野さんの記事に勇気をもらって、村﨑さんとSNSで交流し、思いがけず身近なところに仲間がいると分かって心強く感じました。今もこれを読んでいる人の中に、人知れずご自身やご家族が病気となり苦しんでいる方もいると思います。その方達に、あなたは一人じゃない、と伝えたいです。

平野:出産や育児や病気や介護、さまざまな事情で仕事を一定期間離れる人、離れていた人がいると思います。そういう人に向けて言いたいのは、会社人生は長いので、「やるべきことをやっていれば、チャンスはまた巡ってくるよ」ということです。
それと、弱っているときは人とつながること、周りに助けを求めることも大切です。いつもよりできることが減っていても、できることをすればそれは誰かの役に立つし、究極的には、人は存在しているだけで人に貢献していると私は思います。助け合いの精神の中で、お互い顔を上げてやっていきましょう。

村﨑:まずお願いがあります。公共交通機関でヘルプマークを着けている人をはじめ優先席を必要とする方を見掛けたら、可能な限り席を譲ってあげてください。優先席で居眠りする人が多いのが、非常に気になっています。
それから、もしも今、就職や転職先企業の一つとしてNTTグループを考えている人がいたら、僕らを支えてくれた制度やコミュニティーのこともぜひ比較項目に加えてほしいなと思います。途端に有力な選択肢になるのでは。僕自身、転職を考えたこともありましたが、今となってはNTTグループで働き続けて本当に良かったと思っています。

皆さん白血病サバイバーのTシャツで取材に応じてくれました!

3人からのお願い~命のバトンをつなごう~

私たちは臍帯血移植や造血幹細胞移植をし、こうして社会復帰できました。
10月は骨髄バンク月間です。この記事をきっかけに、骨髄バンクへのドナー登録を検討していただけませんか。白血病の治療に有効な造血幹細胞移植は、HLAという白血球の型が一致した人からしか受けられず、一致する確率は非血縁間で数百から数万分の1です。母数を増やすことで、患者さんが救われる確率が高まります。
出産を控えている方は、出産予定の病院が臍帯血バンクと提携しているかご確認ください。もし提携があれば、ぜひご登録を。
また、白血病の治療は毎日輸血が必要です。これは善意の方々による献血のお陰で成り立つ治療です。どうかご協力よろしくお願いいたします!

▼参考リンク

社員メッセンジャー

NTTコミュニケーションズ5G&IoTサービス部

平野 敏行

コネクテッドカー向けモバイル基盤構築のプロジェクトマネジメント業務に携わっています。お客さまと共に、安全で快適なモビリティ社会の実現をめざしています。
白血病の治療を経て業務復帰し、人生に意味を与えてくれる仕事の重要性を再認識しました。キャリア観や、闘病生活を支えた会社の仲間の支援・社内制度をご紹介します。

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