「働き方改革」が企業にもたらすメリット
戦後最大となるGDP600兆円、希望出生率1.8、そして介護離職ゼロといった目標を達成するために、政府において取り組みが進められているのが「働き方改革」です。その実現に向けた具体的な柱としては、同一労働同一賃金の実現や長時間労働の是正、高齢者の就業促進などが掲げられていますが、それらと同時に注目すべきなのが柔軟な働き方の実現です。この柔軟な働き方を自社に取り込むことができれば、従業員満足度の向上や業務効率の向上につながることが期待できるだけでなく、多くの企業が直面する人材不足の課題解決にもつながる可能性があります。詳しく見ていきましょう。
仕事を続けることが難しくなる理由として、主に「育児」「介護」があります。まず、出産を理由に退職する人がどのくらいいるのかを見ていきましょう。
第1子出産前後に女性が就業を継続する割合は、これまで4割前後で推移してきましたが、最新の調査では5割と改善の兆しが見られます。しかし一方で、第1子出産をきっかけに退職する女性の割合は4割以上と、依然として高いのが現状です。
次に、介護を理由に退職する人の状況について詳しく見てみましょう。介護・看護のために離職した人の数は、2012年から2017年では10万人前後で推移していたのに対し、2020年には7万5千人ほどに減少しています。すべての離職者のうち介護・看護のために離職した人の占める割合も減少しています。
以上の結果から、出産や介護による退職者は減少傾向にはありますが、現在でも多くの人が育児や介護を理由に退職していることが分かります。
さらに近年、労働者不足が問題となっています。2021年の総務省統計局の労働力調査によると、2021年平均の就業者数は2年連続で減少し6667万人となり、前年に比べて9万人減少しています。その中でも、女性と65歳以上の高齢者の就業者数は増加しています。
柔軟な働き方の実現は、これらの課題を解決する上で大きな鍵となる可能性を秘めています。近年、育児や介護を理由に退職する人が減少しているのは、自宅などでも業務が遂行できるテレワークが増加したことが要因であるという見方もできます。このままテレワークがさらに浸透すれば、育児や介護といった事情を抱える人も働きやすくなるのは間違いありません。また通勤のストレスがない在宅勤務は高齢者にとっても働きやすいことから、高齢者雇用の促進も果たせます。
ワークライフバランスの改善や生産性向上にも有効です。在宅勤務などによって従業員の個人としての時間が増え、それによって私生活が充実すれば、働く上で欠かせないモチベーションの維持・向上にもつながり、それによって生産性が高まるという好循環を期待できるためです。さらに柔軟な働き方の実現に向けて業務を効率化することができれば、無駄な残業を解消することにもなり、現在問題となっている長時間労働を是正することも可能になります。新たな人材の獲得においても、柔軟な働き方が可能な職場であることは大きなアピールポイントになるでしょう。
ICTツール・ソリューションを駆使してテレワーク環境を構築
このようにさまざまなメリットをもたらす柔軟な働き方の実現を目指す上で、ポイントとなるのがICTの活用です。インターネットの普及やモバイルネットワークの進化、さらにはクラウドの浸透により、オフィスの外であっても業務を遂行できる環境が整いつつあります。これらを利用し、自宅でも作業できるテレワーク環境を構築できれば、柔軟な働き方の具体化に近づけるでしょう。
テレワークを可能にするソリューションはいくつもありますが、その中でも重要になってくるのが従業員同士の情報共有とコミュニケーション、それを支えるネットワークインフラの検討です。これらのソリューションを適切に選べば、テレワーク環境でもストレスなく作業を進めることが可能になります。ただせっかく新たなソリューションを導入しても、それが社内に根付かなければメリットを享受することはできません。そのソリューションを活用するためのノウハウを社内で共有するなど、利用するメリットを従業員に感じてもらう工夫も必要です。
それでは、具体的にどのようなソリューションがあるのか、1つずつ見ていきましょう。
Point 1:安全な情報共有をクラウドで実現
作成した書類などを社内のほかの同僚と共有する際、これまでは一般的にファイルサーバーが使われてきました。しかしファイルサーバーの多くは社内からのアクセスを前提としているため、在宅勤務を行っている自宅、あるいは外出先などからアクセスすることはできません。
こうした課題を解決し、オフィスや自宅、あるいは移動中の電車の中などといった場所を問わずに使えるファイル共有手段として、広まりつつあるのがオンラインストレージなどと呼ばれるクラウドサービスです。その1つとして、NTTコミュニケーションズでは「Box over VPN」を提供しています。これはクラウドベースのコンテンツ管理(CCM)プラットフォームとしてエンタープライズ市場で豊富な実績を持つ「Box」をVPN経由で利用できるサービスであり、お客さま社内からはインターネットを介さずに利用できるため、セキュリティ面で安心して使えるメリットがあります。
Point 2:クラウドで実現する効率的な会議
在宅勤務の実施において気になるのは、オフィスで働く従業員とのコミュニケーションでしょう。物理的に離れているとどうしてもコミュニケーションが不足しがちになり、また会議や打ち合わせのセッティングも難しくなります。このような課題を解決する上で、有効なソリューションとなるのがユニファイドコミュニケーションです。
ユニファイドコミュニケーションとは、チャットや電話、Web会議などのコミュニケーション手段を統合して提供する製品やサービスです。たとえばマイクロソフトの「Microsoft 365」は、Officeアプリケーションのオンライン利用に対応するほか、メールやスケジューラー、コミュニケーションツールもクラウドで提供しています。チャットや電話による1対1のコミュニケーションはもちろん、複数人での電話会議も可能であり、在宅勤務時におけるコミュニケーション不足を補うことが可能です。なおNTTコミュニケーションズでは、Microsoft 365の導入からサポートまでワンストップで提供できる体制を整えており、Microsoft 365の活用をバックアップしています。
Point 3:テレワークのネットワークにSSL-VPNを導入して盗聴や改ざんを防ぐ
従業員の自宅や外出先から安全に社内のICT環境にアクセスするために、多くの企業で採用されているのがSSL-VPNです。自宅から社内にあるシステムに接続し、機密情報などにアクセスするといったとき、当然ながらネットワーク上での盗聴や改ざんは防がなければなりません。また第三者が従業員を装って不正にアクセスする、なりすましへの対策も必要でしょう。
SSL-VPNはこうしたセキュリティのための仕組みを備えたネットワーク技術であり、ノートPCやスマートフォンなどから安全に社内ネットワークに接続することを可能にします。このSSL-VPNに対応したソリューションはさまざまなベンダーからネットワーク機器の形でリリースされているほか、SSL-VPNの機能を組み込んだネットワークサービスも存在します。
たとえばNTTコミュニケーションズでは、VPNサービスである「Arcsatar Universal One」のオプションサービスである「Arcstar Universal One アドバンストオプション」において、SSL-VPNの機能をサービスとして提供しています。これを利用すれば、新たな機器を導入することなくSSL-VPN環境を整えられるほか、運用の負担も軽減できるでしょう。
テレワークの導入などによって柔軟な働き方が可能になれば、従業員にとってメリットがあるのはもちろん、育児や介護のための離職の抑止につながるなど、企業にもさまざまなメリットをもたらします。もし現在でもオフィスで働くことを前提としているのであれば、そろそろ働く環境の見直しを始めてみてはいかがでしょうか。
ICTツールを選ぶときに意識したいこと
テレワークはさまざまなベネフィットを企業と従業員のそれぞれにもたらしますが、一方でテレワーク環境の整備が不十分だったり、そのためのツールが使いづらかったりすれば、やはりオフィスで働いた方がよいといったことになりかねません。
ICT関連のソリューションを選定する際、機能の○×表を作成し、機能の多寡で選択するケースは少なくありません。もちろん、そうした視点が重要になることもありますが、特にテレワークで利用するサービスの場合は、ストレスなく操作することができるかなど、使いやすさにも目を向けたいところです。
また既存のツールを置き換えるかどうかも大きなポイントになります。オフィスで利用するツールと、テレワーク時に利用するツールが異なっていれば、従業員の負担は増大してしまうでしょう。しかしオフィスとテレワークのいずれでも利用することができれば、どの環境でも利用することが可能となり、従業員は作業している場所を意識することなく利用できるようになります。たとえば既存のファイルサーバーを撤廃し、情報共有をすべてクラウド上のオンラインストレージで行うようにすれば、場所によってファイルの保存先を変えるなどといった手間を省けます。
すでにある業務フローとの相性も重要です。ツールとしては便利だが、自分たちの業務に合わないといった場合、使われなくなってしまうことが十分に考えられます。導入前にPoCを実施するなどして確認しておくことも検討すべきです。なお、どうしても業務に合ったツールがないといった場合には、業務にツールを合わせるのではなく、ツールに業務を寄せていく、つまりツールに合わせて業務を変えていくといったことも検討すべきではないでしょうか。
ICTツールを運用に乗せる、定着させるためのポイント
いくら便利なICTツールを導入しても、従業員に使われないといったことも十分に起こりえます。例として挙げられるのはオンラインストレージで、従来のファイルサーバーに慣れているからといった理由で、なかなか新しいオンラインストレージが使われず、移行できないなどといったケースです。
ただ従業員にとっても新しいICTツールを使うメリットがあるのなら、それが理解されることによって利用が広まっていくはずでしょう。導入したICTツールが使われていない場合、従業員にとってのメリットが十分に伝わっていない可能性があります。そのため、単にICTツールを導入したことをアナウンスするだけでなく、どのように使えるのか、使いこなすことで業務にどのようなメリットが生じるのかなど、利用する具体的な利点についても積極的に伝えていくべきです。
どうやって使えばよいのか分からない、操作方法が難しいといった理由で新しいICTツールが敬遠されている可能性もあります。そうした際には、使い方に関するマニュアルを用意するだけでなく、多くの人が疑問に思うポイントとその回答をまとめたFAQを用意したり、社内向けに利用方法を説明するトレーニングの場を設けたりすることも有効でしょう。