2024年10月15日

住友林業×NTT Com 森を育むサービスで社会課題の解決へ
森林クレジットを通じて社会的意義を果たしたい――「森かち®」に込めた思い

2024年8月27日から提供を開始した、森林価値創造プラットフォーム「森かち®」。このプロジェクトは2023年4月より、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)と住友林業株式会社様(以下、住友林業、敬称略)が協業でPoC(概念実証)を進め、“森の価値を高めたい”、そんな思いから森かち®と名付けられました。

森かち®は「クレジットで森、育む」をコンセプトに、カーボン・クレジットの一種である森林由来J-クレジット(以下、森林クレジット)の創出や審査、取引を包括的に支援する日本で初めてのサービスです。GIS(地理情報システム)*⁴を含むクラウド型サービスを活用して、創出プロセスの効率化とクレジットの信頼性向上を実現し、クレジット創出者である森林所有者や審査機関、クレジット購入者向けのサービスを展開していきます。

今回は、本サービスをひもときながら、住友林業と共にプロジェクトを進めてきた、ビジネスソリューション本部(以下、BS本) スマートワールドビジネス部 スマートインダストリー推進室の藤浪俊企さん、小笠原正人さん、伊藤正高さん*⁵に、共創の背景や森かち®の意義、今後の展開・展望について伺いました。

*1 カーボン・クレジットとは、温室効果ガスの排出削減量を認証して取引できるようにしたもの。

*2 J-クレジットとは、カーボン・クレジットを国が認証する制度に従い発行されたクレジット。森林由来J-クレジットとは、間伐など、森林の適切な管理によるCO2吸収量をクレジットとして国が認証したもの。

*3 NTT Comおよび住友林業による両社調べ

*4 GIS(地理情報システム)とは、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工して視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術。(国土交通省 国土地理院のサイトから引用)

*5 伊藤さん:所属・組織名はプロジェクト参画当時のものです。現在は、BS本 第一ビジネスソリューション部に所属。

左から、藤浪 俊企さん、伊藤 正高さん、小笠原 正人さん

森林価値への投資・流通を活性化、豊かな社会の実現に貢献する「森かち®

世界中で気候変動が課題となる中、カーボン・クレジットの重要性が年々高まっています。そして日本でも2050年までにカーボンニュートラルの実現をめざし、産官学が一体となってGXリーグ*⁶を行うなど、CO2をはじめとする温室効果ガス(GHG)の排出量削減に取り組んでいます。

8月にリリースした森かち®は、住友林業の「木」に関わるバリューチェーンや森林経営で培った豊富なノウハウと、NTT Comが専門とするICT技術の融合で、高品質な森林クレジットの創出と、透明性の高い流通を活性化するサービスです。

小笠原さん

「日本は森林面積が国土の3分の2に当たる世界有数の森林大国です。ところが、森林経営活動・植林活動を行うことで森林から創出される森林クレジットは積極的に活用されていると言い難い状況にあります」(小笠原さん)


*6 GXリーグ:経済社会システム全体の変革(GX/グリーントランスフォーメーション)を牽引(けんいん)していくための取り組み。GXに積極的に取り組む「企業群」が、官・学・金でGXに向けた挑戦を行うプレーヤーと共に、一体として経済社会システム全体の変革のための議論と、新たな市場の創造のための実践を行う場として経済産業省が設立。

現行制度のカーボン・クレジットは、削減系と吸収・除去系の2種に大別される。国際的基準では吸収・除去系のみの使用を認める方針【拡大】

排出削減を実行に移すと同時に、森林のような吸収源の確保も重要。どうしても削減が難しい分をカーボン・クレジットによりオフセットする仕組みがある【拡大】

J-クレジット制度における認証クレジットの方法論別内訳(2024年6月時点の累計)を見てみると、クレジット認証量851万t-CO2に対して、太陽光発電は501.4万t-CO2、木質バイオマスは114.2万t-CO2。森林経営活動による認証量は57.2万t-CO2で、全体の6.7%にとどまっています。

藤浪さん

「発行量が低迷している理由として挙げられるのは、創出者側である森林・林業関係者と審査機関にとって制度が複雑で手続きが難しいことや、審査機関の数が限られていることです。それがクレジット創出に至るまでの障壁となっています。また購入者側からは、クレジット関連情報が可視化されておらず、購入したいクレジットを探すことが難しいといった声が上がっています」(藤浪さん)


再生可能エネルギーの設備導入により温室効果ガスの排出量を削減する太陽光発電。それに対して、森林経営活動や植林活動は実際にCO2を吸収し、温室効果ガスを減らした分を経済価値に置き換えていく分かりやすさがあります。また、気候変動のみならず、生態系の破壊に対する危機感や自然資本の保全意識が社会全体で高まっています。しかしそれでも、創出者や購入者、審査機関の3者が抱える“利用しづらさ”が課題となり、森林クレジットの発行量は期待されるほど伸びていません。

クレジット創出者の課題【拡大】

クレジット購入者の課題【拡大】

「その課題を解決する手段となるのが、森かち®プロジェクトです。森林と社会を近づける場の提供や、森林価値への投資・流通を活性化し、豊かな社会の実現にも貢献します。後ほど詳しくお伝えしますが、類似のサービスに比べ、GISを活用し、地図上にクレジット創出に関わる施業履歴などの森林管理情報をひも付けて管理できるのが森かち®の特徴です」(小笠原さん)

住友林業との共創のきっかけは、1枚の資料から

そもそも住友林業との間で共創がスタートしたのは、1枚の資料が始まりだったと言います。

伊藤さん

「NTT Comでは、2019年ごろからサステナビリティに関する事業検討を開始していました。まだCO2排出量の可視化もそれほど一般的ではない時期でしたが、『これからはほとんどの企業がCO2排出量を可視化し、省エネルギーや再エネルギー導入による削減を行っていった後、どうしても削減しきれない分についてはCO2吸収などの削減プロジェクトを支援(カーボン・クレジットを活用)していくだろう』と考え、1枚の資料にまとめました。

そして多くの企業と情報交換しているうちに、持株会社と住友林業が協業検討しているテーマと私たちの資料がまさに合うのではないかということで、住友林業と引き合わせてもらったのがプロジェクトをスタートしたきっかけです」(伊藤さん)

その後は、産業界と共に脱炭素社会の実現をめざすスマートインダストリー推進室が中心となり、住友林業との事業検討、事業コンセプトの策定、ビジネスモデルや提供サービス内容の検討、事業計画の策定、サービス開発を進めていきました。

「住友林業の歴史は別子銅山(現:愛媛県新居浜市)の開坑に始まります。銅山事業が発展する一方で、多くの森が失われました。その森を再生する『大造林計画』により、木を資源として活用しながら豊かな緑を取り戻してきたことが、住友林業の原点となる『人と自然が共に生きる社会をめざす精神』につながっていると聞いています。

当時の状況は、気候変動の激甚化が進む現代とも重なる部分が多く、森かち®プロジェクトの根底にはこの精神が流れていると思います」(伊藤さん)

住友林業は1691年の創業以来行ってきた、森林・林業にまつわる経験とノウハウがあり、長きにわたって持続可能な森林経営を実践してきました。また、民間第1号となる森林由来のカーボン・クレジット創出者でもあり、現場目線からのクレジットの創出支援・売買・取引に関する豊富な実績があります。

一方、NTT Comには、公共性と事業性の同時実現をめざすDNAがあり、AIIoT(Internet of Things)、5G(第5世代移動通信システム)などのICTテクノロジー知見と活用ノウハウ、安定性・信頼性の高いシステムといった豊富な運用実績があります。

「この共創によって確実に社会に貢献できる手応えはプロジェクトの立ち上げ時から感じていました。ただ、総論ではOKでも各論に入っていくとズレが生じることはあります。私たちとしては、そのズレを把握して両社が納得いく形にしていくために、数字で議論していくこと(収益/利益)、プロダクトを作って実際の画面を見せてフィードバックをもらうことを重視してきました。また、それを現場レベルだけではなく、経営層はもちろん、法務監査・財務など、各部署の理解へと広げていくことも意識しました。当然ながら、共創では両社がWin-Winになるようにビジネスモデルを作っていくことが大切だと感じています」(伊藤さん)

全国の森林を可視化する“日本初のシステム”を導入

2022年8月にはJ-クレジット制度が改正され、伐採後の植林で新たにクレジットの認証が受けやすくなるなど、森林クレジットへの注目がますます高まっています。

「この改正は『伐る、使う、植える、育てる』という森林の健全なライフサイクルや、伐採・再造林の循環システムの確立を後押しし、長期的な時間軸で森林経営を応援するものです。担い手不足の解消や、木材価格の低迷による収益減少などの課題を抱える地域経済の振興につながるだけでなく、長期にわたって森林管理を行うことで、水源の涵養(かんよう)や土砂災害防止にも効果があります」(藤浪さん)

しかし、再造林を前提とした主伐による排出量計上のルールが変更されたことで、再造林後のモニタリング義務が必須となるなど、より詳しい森林管理情報の管理・報告が必要となりました。

「森かち®は長期的な森林経営を助けるプラットフォームでもあります。というのも、これまでクレジットの創出元となる林業事業者は、実際に森に入り、目視で木々の状態を記録。集計したものを手作業で書類にし、行政に提出するのが基本でした。

クレジット販売情報の検索・閲覧/従来のサイトと森かち®のサイト画面の比較【拡大】

一方、審査機関は、記入されたデータの統一がなされていないこともある紙ベースの書類を審査し、認証作業を進めています。ここで処理のためのマンパワーが足りず、クレジット発行までに時間がかかるという問題が生じていました。そして、購入者側は審査上必要な情報が様式通りに並んでいる状態の非常に検索のしにくいシステムから、自分たちが購入したいクレジットを探さなければいけません。

つまり、DXがほとんど進んでいないことが、社会的に価値のある森林クレジットの普及を阻害していたのです。森かち®はこうした3者の悩みを解消するだけでなく、日本で初めてGISを活用して、どの森林からクレジットが創出され、どのように森林管理・施業(間伐・植林・再造林)が行われているのか可視化できるシステムにより、長期的な森林経営のサポートをワンストップで対応します」(小笠原さん)

森かち®では、すべてのデータをデジタル化し、クレジット創出対象となった森林の位置情報とひも付けて管理することが可能です。これにより、長期間にわたる認証対象期間中のデータ管理が容易になります。

購入者向けサイトのイメージ画面【拡大】

「森かち®には各プロジェクトの軌跡を掲載することができます。クレジットの対象が今どのような状態で、どういった人たちが管理し、どんな思いで経営しているのかを知りたいという、購入者のニーズに応えるためです。品質が疑わしいクレジットによるオフセットは、グリーンウォッシュ*⁷と批判されるリスクもあります」(藤浪さん)

*7 グリーンウォッシュ:エコのイメージである「グリーン」と、「ごまかす」や「良く見せる」という意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語で、環境配慮を見せかけ、商品やサービスを提供すること。

防災、生物多様性の保全、CO2吸収――多面的な機能を有する財産を守る

森林クレジットの創出者は、国、地方自治体、林業公社、国内の社有林を持っている企業などです。一方、森林価値に投資するクレジットの購入者は、企業や地方自治体などになります。森かち®はリリース後、双方をつなぎ、審査機関の業務も助け、クレジットの創出や審査、取引を包括的に支援していきます。

「実は私たちのチームでは、GHG排出量可視化サービス『CO2MOS®(コスモス)』というツールも提供しています。このツールを使うと、企業が今、どれだけの温室効果ガスを排出しているかを可視化することが可能です。その算定結果を基に、いかに排出量を削減していくか。可視化の先の一つの手段として森林クレジットが非常に注目されていることから、CO2MOS®と森かち®を連携させるような企業向けの提案を行っていくことも考えています」(藤浪さん)

日本は世界有数の森林大国ながら、全国で森林所有者の高齢化や、後継者不足による山離れが発生し、伐採後に再造林が進まないエリアが増加しています。森林クレジットはこうした課題を解決する手段にもなると言います。

「森林資源は、防災、生物多様性保全、CO2吸収源、気候緩和など、多面的な機能を持つ財産で、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて欠かせない存在です。今後、5年、10年と森林クレジットの量を増やすことに森かち®が貢献できることを期待しています。ただ個人的には、CO2を出さない環境をつくるような、新たなプロダクト作りにも取り組んでいければと考えています」(小笠原さん)

NTT Comでは、ヤンマーマルシェ株式会社様(以下、ヤンマーマルシェ、敬称略)との共創で、水稲栽培でのメタンガス削減とJ-クレジット創出支援という取り組みも行っています。

「森かち®のプラットフォーム上にあるプロジェクトは、現在、森林クレジットのみですが、今後はヤンマーマルシェとの共創である水田由来クレジットなど、その他の方法論によるクレジットを扱うプラットフォームも開発し、総合的なカーボンクレジットプラットフォームサービスへと発展させていければと思っています」(藤浪さん)

社員メッセンジャー

NTTコミュニケーションズビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部 スマートインダストリー推進室 Catalyst

小笠原 正人

NTT Comに入社後、GXを中心とした社会課題や産業課題の解決に向けて、ICTを活用したサービスやソリューションの企画開発を担当。現在は、住友林業と協業し、森林由来のカーボン・クレジット事業の立ち上げに従事。さらに、カーボンニュートラルやネイチャーポジティブの取り組みにも力を入れており、持続可能な社会の実現に日々取り組んでいる。

関連記事

お問い合わせ

NTT Comでは、いつでもご連絡をお待ちしています。
ご用件に合わせて、下記の担当窓口からお問い合わせください。