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石神 勝
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2022年6月に開幕した世界一周ヨットレース「Globe40」に、NTT コミュニケーションズ(以下、NTT Com)グループ PHONE APPLIの中川紘司 副社長とプロセーラーの鈴木晶友さんが、チーム「MILAI」として出場している。9カ月をかけて約5万5000kmを走破する過酷な耐久レースだ。このクラスの世界一周レースは今回が初開催(今後4年に一度開催予定)。優勝すれば外洋ヨットレースの歴史に名を刻むことになる。挑戦を目前に控える4月、2人に話を聞いた。
中川紘司さん(写真右)
2003年にNTT Comに入社後、2008年に外資系のシスコシステムズへ。2013年、創業間もないPHONE APPLIに転職。2018年よりNTT Comのグループ会社に。現在、取締役副社長を務める。ヨットは子ども時代に両親の影響で始め、学生時代は国体3位の成績や、日本代表として世界選手権の出場も経験。今回のGlobe40へのチャレンジをPHONE APPLI石原洋介 社長も快諾、社員一同応援している。
鈴木晶友さん(写真左)
大学卒業後、一般企業に就職したが、子ども時代からの夢「大陸間をヨットで渡る」を諦められず、プロセーラーに。2019年に単独で大西洋横断レースを完走し、夢をかなえた。中川さんがヨットを再開した際にコーチを務めたのが縁で、2020年にMILAIを結成。Globe40に向け、2年をかけて船の調整や予選レース出走を重ねてきた。取材時はすでに現地入りしており、フランスからオンラインにてインタビューに参加。
Globe40は、クラス40(全長40フィート=約12m)のヨットにセーラーが交代で2人ずつ乗り込み、風の力だけで世界を一周するレース。期間は約9カ月。2022年6月26日にモロッコ・タンジェをスタートし、世界7カ所の港を巡ってゴールのフランス・ロリアンをめざす(2023年3月15日到着予定)。途中の寄港地には1~2週間滞在し、食糧補給や船のメンテナンスを行う。出場は10チーム前後。世界各国(フランス、アメリカ、カナダ、オランダなど)から参加するが、日本人は中川さんと鈴木さんだけだ(大会イメージ動画)。
チーム名「MILAI」は日本語の“未来”が語源。フランスでも“ミライ”と呼んでもらえるように、RをLに変えた。メンバーは2人のほか、フランス人女性のアン・ボージさん、エステル・グリックさん、イタリア人男性のアンドレア・ファンティーニさん(チームMILAIのイメージ動画)。
スキッパー(艇長)を務める鈴木さんは8レグ(区間)全てを乗り、他の4人が寄港地で交代する。中川さんはプロローグ・レースとして、チームの拠点ロリアンからスタート地点のタンジェまでと、本レースの1レグ目(タンジェ~カーボベルデ共和国・サンビセンテ島)、4レグ目(ニュージーランド・オークランド~タヒチ・パペーテ)、7レグ目(ブラジル・レシフェ~グレナダ)を乗る。
各レグにかかる日数は、10〜20日前後、長いところは35日ほどで、その間は船に乗りっぱなしになる。しかも、24時間休まず走る。乗員2人が2時間ごとに交代で仕事(帆の操作など)と休憩を繰り返すので、まとめて取れる睡眠時間は最大90分程度だ。
「ベッドも肩幅ぐらいしかない網のようなもので、寝心地は良くないです。イルカがうるさくて眠れないこともありますよ(笑)。船で、僕はいつも悪夢を見ます。大きなボールに追いかけられる夢」と中川さん。ジェットコースター並みの揺れはザラで、トイレタイムも一苦労。今年の誕生日には、鈴木さんから「素敵なし瓶」を贈られたという。
過酷なレースに参加を決めた理由を、中川さんは「コンフォート・ゾーンを抜け出したかったから」と説明する。「快適な環境に居続けると、僕は抑圧を感じるし、成長できない気がして。海に出れば嵐もあるし、死の恐怖と隣り合わせですが、その分、生きている実感が湧くし、今生きていることに感謝の気持ちが湧く。多少のことは何でもないと思えるようになります」
大西洋横断レースを完走した経験を持つ鈴木さんも言う。「大西洋のど真ん中で半径3000km、人間がいない環境では、不思議な感覚になります。ここに人間は自分一人だけど、魚や鳥はこんなにたくさんいるんだなって。その場所でしか見られないものが見られる。それが外洋レースの醍醐味だと思います」
中川さんいわく、船上生活における“ご褒美”は「尾西食品のアルファ米でつくるお茶漬け。汗もかくしお腹も減るので、1回でお茶漬け2袋使います。本当においしいです!」
鈴木さんは「僕は星空を見ると、明日も頑張ろうと思えます。空いっぱいに星が見えて、オリオン座が埋もれてしまって逆に見えない(判別できない)ぐらいなんですよ」と。
レースの勝敗を左右するのはコース取りだ。広い海の上では、2点間を移動するのにどのようなルートをたどるか、無数の選択肢がある。
「コースの幅が100kmや200kmあるので、風と潮を読んで効率的に船を走らせます。もちろん、嵐は避けなければいけない。海の上でもインターネットが使えるので、天候や潮のデータをダウンロードして解析します」(中川さん)
セーラーは、天気予報だけでも複数種類あるデータから、システムに投入するものを選び、解析結果と実際の海の状況を照らして判断を下し、セール(帆)とラダー(かじ)を操作する。
「『天気予報より嵐が南下しているから、僕らのコースもより南へ膨らませよう』とか、最終的には人間の直感がものをいいます。恐怖を感じたり不安になったりすることもありますが、自分を信じるしかない。自信を付けるために、経験を積むんです」(鈴木さん)
Globe40は、いくつかの予選レースを走ることで獲得できる「マイル」が、チーム全員の合計で1万に達することが出場条件になっている。
「予選といっても、他者と競い、落とすためのレースではありません。安全性を確保するため、セーラーが経験値を積むためのものです。それが外洋レースの文化。もちろん優勝したい気持ちはありますが、スタートしてしまえば選手は全艇が無事に完走することを願っているんです。だから選手同士、海の上でチャットして情報交換をすることもありますよ。『ここクジラがいるから気をつけて』って」(鈴木さん)
日本ではあまりなじみのない外洋ヨットレースだが、欧州各国、特にフランスでは大人気で、大きなレースになると、中継番組の視聴率はツール・ド・フランスをしのぐほど。観戦者数は概算100万人以上という。鈴木さんは、4年前からロリアンで活動しているが、現地ではファンからサインを求められるヒーローだ。
ヒーローに求められる役割は大きい。Globe40の寄港地ではビーチクリーン活動や町おこしイベントが行われ、セーラーたちも参加する。
「葉山のフリースクールの子どもたち向けに特別授業もしています。オンライン会議で海上の光景を見せると、みんな目をキラキラさせて見てくれるので、僕らも励みになります。Globe40のレース中も何回か授業をする予定です」と鈴木さんも瞳を輝かせる。
また、エンジンを使わず風の力で進むヨットでの世界一周は、“エコ”なチャレンジという側面もある。
「データ解析や通信のためにパソコンを使いますが、その電力も太陽光発電や水力発電とディーゼル発電機のハイブリッドでまかないます。しかも、僕らの船はディーゼル燃料もユーグレナ社からサステオというバイオディーゼル燃料を提供してもらいます。通常のディーゼル燃料よりも環境に優しい世界一周は、画期的な挑戦になります」(中川さん)
最後に、ヨットを通じて伝えたいことを、それぞれ語ってもらった。
中川さんは「外洋に出ると自然を相手にするので、思い通りにいかないことばかりです。普通なら5時間で走れるコースも、風がなければ2日かかる。そんなときはイライラしないでご飯を食べる(笑)。元来、人間ってそんなふうに生きてきたと思うんですよ。僕自身がヨットを通じて気づいた『思い通りにならないことも、気を楽にして楽しむこと』を、できるだけ多くの人に伝えられたらと思います。そういう人が増えると、世の中が今より明るくなりそうですよね」と話す。
鈴木さんは自身の経験を踏まえて、こう語った。「僕は2019年に大西洋横断の夢を実現して、夢ってちゃんとプロセスをたどればかなうんだって初めて実感しました。それまで、僕も大小いろんな夢や希望を諦めたことがありました。皆さんもきっとそうだと思います。でも、日常の中でパッと思いついたことや自分がこうしたいと思ったことは、諦めず、もっと大事にして実現させてみてほしいんです。何かを成し遂げた時の達成感ってすごくいいものだから。ぜひ感じてほしいし、特に若い人に伝えたいですね」
日本からもGlobe40のレース模様を追いかけ、チームMILAIを応援することができる。
「今はGPS技術も発達しているので、大会の公式サイトでは各艇がどこを走っているのかリアルタイムに確認できます。大会公式SNSで動画も公開されますし、チームMILAIのSNSでも定期的にレポートします。コメントを頂ければ海の上にも届くので、ぜひ応援よろしくお願いします!」(中川さん)
また、大会公式ゲーム「Virtual Regatta」 も配信中。「ユーザーがゲーム上でヨットを 操り、Globe40のコースで僕らと競走でき るリアルタイムストラテジーのゲームです。 油断するとすぐ座礁しますが(笑)、レースの長さ・過酷さが分かるし、こんなにこまめに方向転換するのかなど、見えてくるものがあるので、ぜひやってみてください」と鈴木さんもおすすめ。
株式会社PHONE APPLI取締役副社長
中川 紘司
昔からの夢を実現したいと思ったときに、素直に相談できる環境が自分の前にあったこと、とても幸せなことだと感じています。多くの人たちが夢を実現できるように、少しでもその参考になればと紹介させていただきます。
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