宮川 晋Shin Miyakawa
経歴
1995年4月、日本電信電話株式会社入社後、NTTソフトウェア研究所に配属。1997年3月、米国シリコンバレーのNTT Multimedia Communications Laboratories, Inc.(現NTT Innovation Institute, Inc.)に派遣される。NTT再編成により2002年4月、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)に所属。先端IPアーキテクチャセンタに着任する。その後、経営企画部IoT推進室長を経て、2021年4月、イノベーションセンターでシニア・テクノロジー・アーキテクトに就任。現在は、ビジネスソリューション本部 第二ビジネスソリューション部担当部長も兼務している。
趣味は鉄道模型とテクノポップ。蒸気機関車D51形の設計に携わり、新幹線の生みの親とも言われる島秀雄氏を子どもの頃に知り、鉄道車両設計技術者に憧れるが、中学生の頃にパソコンに出会い進路変更。1967年生まれ、東京都出身。東京工業大学大学院 理工学研究科計算工学専攻(博士課程)修了。博士(工学)学位取得。
活動履歴
主な所属団体 |
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主な講演活動 | |
主な執筆活動、論文など |
その他学術論文、特許など |
Web掲載 |
講演動画
ネットワーク技術最新動向2023
~さらに高速化する光ネットワークと進化する無線ネットワーク。さらに形を変えていくインターネットと実用化が始まったIOWNについて~
インタビュー
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エバンジェリストとしての得意分野とミッション
ネットワーク・IoT・サイバーセキュリティと多分野に携わっていますが、得意分野として一つ挙げるなら「ネットワーク」です。ネットワークに初めて触れたのは、大学時代。当時の研究室の先輩たちが親しくお付き合いしていた若手研究者の一人が、現在“インターネットの父”と称される村井純さんでした(村井先生は慶応義塾大学で博士号を取得した後、東工大の助手に赴任して私の研究室の先輩たちと付き合いが始まったのでした)。そんな偉大な先輩方と一緒に、自分の学位取得のための数理論理学のソフトウェア工学への応用という研究と並行して、当時最先端であったUNIXオペレーティングシステムやインターネット技術に親しみ、大学院に進んで博士課程まで修了しました。そのまま大学の教員になる道もあったのですが、全国にインターネットを普及させるという夢を実現するため、それが叶えられそうなNTTへの就職を選びました。
最初に配属されたNTTソフトウェア研究所は、ネットワークの研究・開発のクオリティが高く、インターネットの未来を真剣に考える人材が多数在籍していました。私が新入社員の頃に手掛けたのは、当時NTTドコモで開発が進んでいたi-modeのプロトコル改善や、日本でもかなり初期のネットライブ中継といったプロジェクトでした。中継では、私たちのチームで発案し、名前も付けたインターネットマルチフィードという技術を使ったのですが、今でいえば、CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)のはしりといっていいと思います。これをきっかけに創立されたインターネットマルチフィード株式会社は、現在、日本最大のインターネットエクスチェンジ事業を展開しています。
入社2年目の終わりに、シリコンバレーに創設されたNTT Multimedia Communications Laboratoriesへ派遣され、ここで、IPv6の原型を生み出したスティーブ・ディアリング氏と出会います。IPv6関連のRFC(インターネットの通信規格を定義する文書)を作り出すなどした後、帰国後はNTT Comに所属し、先端IPアーキテクチャセンタに着任。IPv6の普及に尽力しました。
このように、黎明(れいめい)期からネットワークに携わり、普及・商用化を推進してきたこともあり、ネットワークの歴史や最新動向、注目されている技術などを分かりやすく伝えることをエバンジェリストとしてのミッションと考えています。
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02
これまでの活動を代表するプロジェクト
IPv4の枯渇によりIPv6が注目されていますが、私はこのIPv6の普及や商用化に1990年代後半から携わっています。IPv6が実用化するまでIPv4とIPv6の間をつなぐ「キャリアグレードNAT」という技術の標準化も提案しながら、アカデミアの理論とビジネスとして必要な要素を組み合わせて、IPv6のサービス化を実現しました。IPv4の枯渇対策およびIPv6の普及推進は、私のライフワークですね。長い間、関わっています。Google の本社で、(世界的な意味での)インターネットの父・Vint Cerf氏が司会をする議論にスピーカーとして呼ばれたりしたりするなど、世界中で講演なども行ってきました。
もうひとつ印象に残っているプロジェクトは、2018年から始まったF1チームへの技術提供です。世界中のサーキットとF1チームの本拠地であるイギリスをネットワーク回線で結びました。具体的には、NFV(Network Functions Virtualization)基盤とuCPE(universal Customer Premises Equipment)による SD-WAN(Software-defined Wide Area Network)などで構成するネットワークや、クラウド基盤と最短経路で接続する環境を構築。これにより、サーキットにおけるネットワーク遅延解消やクラウドを活用したデータ分析、レース戦略立案を可能にしました。2018年にバルセロナで開催されたMobile World Congressで、有名なF1ドライバーたちを交えてキーノートトークをしたのは良い思い出です。この取り組みをきっかけに、ほかのレースカテゴリーでもいろいろな実験を実施。最近では、2021年3月に、トヨタ自動車株式会社のレース部門であるTOYOTA GAZOO Racingが関係し、同社の社長である豊田章男オーナーが主導する『ROOKIE Racing』とテクノロジーパートナー契約を締結し、これまでの経験や知見を生かした技術提供を行っています。
『ROOKIE Racing』では、4Gおよび5Gを活用し、最高速度が250Km/hを超え、300km/hに届こうとする高速移動時における安定した通信の維持や、位置情報の収集や車両とピット間の双方向通信によるドライバーへの情報表示などの実証実験を支援。またレースの応援アプリの展開を試みるなどしています。このプロジェクトで得た知見を、自動運転への活用や緊急時における車両からの自動発信などに応用することを考えています。
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03
NTT Comと共に描く未来
『ROOKIE Racing』でも検証していますが、高速で移動する物体、つまり高速移動体において、より良いネットワークを構築するのは、今後目指したい未来の一つ。実は、私は子どもの頃から大の新幹線好きで、いつかは時速300kmで移動する新幹線でも満足につながるネットワークを構築したいと思っています。5Gだけでは高速移動体のネットワーク構築は難しいのですが、NTT ComとNTTドコモが連携・協業することで実現できるはずです。
ネットワークインフラの未来では、これまで以上に、災害時などのレジリエンスを高める必要があります。いつでも安定してつながる環境を提供するのは、われわれの使命です。4Kや8Kといった高画質の動画が普及する今、大量のトラフィックをスムーズに届けることも重要。NTTとNTT Comは、商用環境における1Tbpsの長距離伝送の実証実験に成功しています。近年中には、自宅に1Tbpsの回線を引き込むことも可能になるでしょう。
もうひとつ、ネットワークインフラが実現すべきことは、セキュリティのさらなる向上です。アプリやソフトを使ったセキュリティでコンピューターを守ることも重要ですが、そもそも、ネットワーク回線自体のセキュリティレベルを上げることで大本から守れれば最強です。
NTT Comが目指す未来のネットワーク。その根底には「安く速く安全に、安定したトラフィックを届ける」という思いがあります。これによって、あらゆる業種業態、分野、場所で通信を使ってもらい、社会全体がさらなる発展を遂げることが願いです。