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【空き家活用】地域経済を活性化するリノベーション術
社会問題化している全国の空き家問題に、独自の方法で取り組むサービス「アキサポ」。空き家を所有者から借り上げてリノベーションし、利用者に貸し出した賃料を所有者に支払い、定期借家契約終了後に所有者に返却する、というビジネスモデルで取り組んでいます。
第2回は実際のリノベーションや活用例をもとに、東京、それ以外の地域の空き家活用と地域活性効果についてお伝えしていきます。
東京での「空き家対策特別措置法」の認知率は4割
アキサポを運営するジェクトワンが2021年に行った「東京都空き家所有者に対する意識調査」で明らかになったのは、東京都内の空き家所有者の「空家等対策の推進に関する特別措置法」の認知率は40.4%、空き家物件を所有する地域の空き家条例の認知率は24.8%と、いずれも5割を下回っているということでした。
アキサポでは、空き家を借り上げてリノベーションを行い、利用者に貸し出して得た賃料から所有者に家賃を支払います。
アキサポの収益は、工事費負担額を考慮した転貸料収入との差額で、初期投資費用を数年間かけて回収します。所有者には初期の改修にかかる負担金は発生しません。
所有者には、定期借家契約の終了後に物件が戻ってくるため、自分で居住するなり、子どもに相続させるなりが可能になります。
画期的なスキームですが、事業立ち上げ当初は空き家活用の新たな仕組みについて認知してもらえず、非常に苦労したといいます。
「アキサポ」の運営に取り組む、ジェクトワンの取締役で空き家アナリストの清水貴仁さんに伺います。

ジェクトワンの設立時より入社し、現在は地域コミュニティ事業部長として事業拡大に尽力。
NPO法人空き家活用プロジェクトの理事を兼任。
清水「不動産業界の基本的な手法として、ダイレクトメールやチラシの投げ込みを行って周知していったのですが、それがとことんうまくいきませんでした。最初は、アキサポのスキームは、空き家問題に困っている所有者さんにとっていいことしかないという考えでした。所有者さんは、巨額の負担なしにリノベーションができて収益が発生し、いずれは自分の手元に物件が返ってくるのですから、前向きに検討されるだろうと考えていました」
ところが、ポジティブな広告をしても「不動産屋がタダなんて怪しい」「結果的に家を取られるのではないか」と不安になってしまったり、放置している家を空き家だと認識していなかったりすることがわかり、周知の方法について再検討せざるを得なくなったといいます。
そこで、メディアでの取材などを積極的に受けるようにしたり、セミナーを開催したりしながら、「アキサポでは、物件の所有権を持ったままアキサポ側でリノベーションをして貸し出すことができますよ。いずれは物件が所有者さんに戻ってくるので、お子様に相続させることもできますよ」と、周知し、認知度を上げていったのだそうです。
首都圏では地域に愛される店舗での貸し出し
現在、美容室と店舗事務所として生まれ変わっている品川区の空き家物件の所有者は、品川区からある通知が届き、あわててアキサポに駆け込みました。
清水「所有者さんは、せっかく相続した土地なので、売却は考えられないとのことでした。ボロボロの物件をなんとかしたかったようですが、国道沿いで工事の制限もあり、なかなか手を加えることができずに困っていらっしゃったのです。そんななか、品川区からこのまま放置すると特定空き家として認定するという通知が届きました」
「どうにかしようと思ってはいるものの、どうしようもなく放置してしまっていた」という相談は多いという清水さん。駅から徒歩2分で道路沿いという立地の良さから、店舗としての活用を提案したといいます。

清水「物件は約20年間放置されていたこともあり、外壁が完全に崩れていました。外装の工事は念入りに計画し、本物件を再生しました。アキサポではボード張りまでを行い、内装工事は利用者が自由に行える状態にしました」


地方での空き家の認識と活用への意識はいまだ低い
過疎化が進む地方での空き家活用は、一般住宅としての活用がメインになっています。その理由について、ジェクトワンの社員でアキサポ事業に携わりつつ、総務省の地域活性化起業人制度で新潟県三条市に特命空き家仕事人として派遣されている熊谷浩太さんに伺いました。

JR東日本にて大規模開発、不動産デベロッパーなどを経て2020年ジェクトワンに入社。
2022年5月より、三条市 特命空き家仕事人に就任。
熊谷「地方では空き家を放置していることに課題を感じていない人も多いので、まず空き家を放置していることの問題点について周知してもらうことが第一でした」
地方では地方創生を促進する宿泊施設に
課題は他にもありました。ある程度の立地や条件がそろえば空き家活用が容易な東京都に比べ、地方の空き家活用はリノベーション費用に対して賃料が低めにしか設定できず、回収困難な面もあるといいます。
熊谷「地方の空き家は、親から譲り受けたという人も多く『首都圏に住んでいて、今すぐに処分は考えられない』という人もいます。そういった場合には、アキサポのスキームなども使って、移住体験施設にすることもあります。所有者さんは空き家を資産として活用でき、賃料を得ることができます。もちろん、いずれは自分で居住することも可能です」

熊谷さんが三条市で手がけた空き家活用物件に、店舗兼住宅であった物件をリノベーションした「三-Me.」があります。
所有者は東京在住で、1階は約3年間、2階と3階の住宅部分は約16年間も空き家だったというこの物件は、地域活性化を担い、移住支援と新規創業の応援を目的とした複合交流拠点として生まれ変わりました。


1階はシェアテナントで、プリン専門店、古着のアンテナショップ、地域のファンを増やすために活用されているコミュニティ通貨「まちのコイン」の拠点、カフェ、移住コンシェルジュの窓口になっています。

2階は移住体験のゲストハウス、3階は移住者向けの住宅となっています。

首都圏にしろ、地方にしろ、物件所有者は空き家を「そのうちなんとかしなくては」とは思うものの、具体的にどういう方法があるのか把握できていない現状に対し、アキサポのスキームを活用したことによって結果的に、所有者と利用者が共に地域活性化のために活動しているように見えます。
空き家の上手な活用が進めば、地域の未来は大きく変わるのではないかという希望も見えてきました。
次回は、三条市で空き家活用を地方創生につなげるために邁進している熊谷さんのお話を掘り下げながら、空き家活用と地方の可能性について探っていきます。
この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
取材、執筆:MARU
バナーデザイン: 山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:岩辺みどり
写真提供:ジェクトワン
バナー写真:dolgachov / gettyimages