NTTコミュニケーションズ
ビジネスソリューション本部 ソリューションサービス部
野田 隼斗
NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は、物流施設事業のDXパートナーとして、大和ハウス工業株式会社様(以下、大和ハウス工業、敬称略)と継続的に業務改善の取り組みを進めてきました。2025年度からの導入に向けて今まさに進めているのが、複数の企業が入居する大規模なマルチテナント型物流施設「DPL(ディープロジェクト・ロジスティクス)」の点検業務をIoTで自動化するシステムの構築です。
ビル内のさまざまな設備を連携させるスマートビルディングプラットフォーム「Smart Data Platform for City」(以下、SDPF for City)と、AIによる自律飛行技術を搭載したドローン「Skydio」を活用し、点検業務の負担削減をめざしています。
これまでの経緯と現在の状況、今後の展望について、スマートワールドビジネス部(以下、SWB)スマートシティ推進室の祐源一后さん、5G&IoTサービス部(以下、5G&IoT)ドローンサービス部門の石川泰典さん、関西支社の村川幸則さんにお話を伺いました。
「大和ハウス工業」と聞くと、住宅メーカーのイメージが浮かぶ方も多いのではないでしょうか。しかし、実際には売上高に占める戸建住宅事業の割合は2割弱と、住宅以外にも実に多様なビジネスを手掛けているのです。中でも、2013年以降、特に注力されていたのが物流施設事業で、NTT Comは共創パートナーとして物流施設DXに取り組み始めました。これまでの歩みについて、大和ハウス工業の営業担当を務める関西支社の村川さんに伺いました。
「『DPL』において、コロナ禍の2020年には感染拡大防止対策のためのシステムを、2021年には熱中症やインフルエンザ、庫内結露の発生リスクをリアルタイムに可視化するシステムを導入してきました。
その後もディスカッションを重ねる中で、昨今の人手不足を受け、物流施設内の省人化に課題を抱えていることがわかりました」
2024年5月現在、全国に100カ所以上の「DPL」が展開されています。地方では、複数の施設を1人で何日もかけて点検しなければならない状況もある中で、その省力化が求められていました。
「物流施設の大型化もDXが求められる背景の一つです。特にマルチテナント型の物流施設は大型化が進んでおり、DXによる業務効率化のニーズが高い。また、物流施設のシェア争いが激化する中、入居テナントへ提供できる付加価値の創出が求められていました。
その期待に応えるべく、SDPF for Cityを運営するSWBスマートシティ推進室と、5G&IoTドローンサービス部門に声掛けし、ドローンやAIを活用した点検業務の無人化に取り組むこととなりました」(村川さん)
ドローンとSDPF for Cityを連携させる無人点検管理システムとは、いったいどのような仕組みなのでしょうか。SWBスマートシティ推進室の祐源さんに全体像を伺いました。
「この無人点検管理システムは、大きく3つに分けられるシステムを統合したものです。
1つ目はドローンです。自動飛行させたドローンが撮影した画像データを、2つ目のシステムである制御プラットフォーム(以下、制御PF)であるSDPF for Cityに連携します。次に、ドローンから画像データを受け取った制御PFは、3つ目の画像解析システムへと連携。ここでは、ポールやシャッターに新たな傷が付いていないか、消火設備が倒れていないかなど、対象物の異常を解析し、その結果を画像データに付加して制御PFへと返します。
異常があった場合、制御PFによって管理画面ダッシュボードのマップに解析結果を表示させた上で、管理者にメールなどで通知します。最終的には報告書も自動的に作成することをめざしています。人が行うのは異常の通知を受け取った時に現場を確認しに行く作業だけで済むため、作業効率の大幅な改善が期待できます」
このようなシステムの構築において、画像のデータモデルの作り方が大きなポイントになると祐源さんは言います。
「ドローンが撮影するのは、車路と呼ばれる通路の両側にポールとシャッターが並んでいる場所の同じような画像がほとんどです。そのため、撮影ポイントだけではなく、どの方向を向いて撮影した画像なのか、1枚の画像の中に写る複数の対象物のどこに異常が起きているのか、を判別し、データとして付加することが重要なポイントです。
このシステムの構築は2カ年計画で進めており、今はちょうど2年目に入ったところです。1年目はドローン側との連携がメインの開発範囲でしたが、開発初期段階から管理画面へのマッピングに必要となる画像データに付加しなければいけない情報など、画像解析システムとの連携も先に検討し、シーケンスフローとデータモデルを作成した上で進めてきました」
この自動点検システムを構成する3つの要素のうち、画像解析システムは外部のパートナー企業と連携して構築しています。SDPF for Cityが多様なデータと連携できる制御PFであることはもちろん、幅広いパートナー企業と連携できるNTT Comのマルチベンダーとしての強みがあるからこそ、作り上げられるシステムであると言えるでしょう。
SDPF for Cityについてはこちらのページをご覧ください。
一方、ドローンシステムにはどのような特徴があるのでしょうか。採用したのは、2020年11月に日本に進出したアメリカのドローンメーカーSkydio,Inc.(以下、Skydio社)の製品です。5G&IoTサービス部ドローンサービス部門の石川泰典さんは次のように話します。
「Skydio社のドローンは、上下3つずつ計6つの魚眼カメラ映像から得られる内部データによって全方位の状況を認識し、衝突を回避しています。そのため、GPSが使えない場所でもビジュアルから得る情報をベースに自動飛行でき、狭いところにも入っていけます。従来、GPSが利用できない屋内での自動飛行は難しいとされていましたが、Skydio社のドローンなら物流施設の中でも安全に飛ばすことが可能です」
NTT ComはSkydio社ドローンの国内向けビジネスを2020年11月から展開し、ノウハウを蓄積してきました。その結果、Skydio社が認定した専門資格「SKYDIO MASTER INSTRUCTOR」保有者を複数抱え、圧倒的な経験・技術力を持っていると自負しています。
「私たちは2020年から屋内での自動飛行の有用性を検証し続け、ノウハウを蓄積してきました。例えば、ガラス張りの建物だと映像が反射するため、どこに物体があるのか正しく認識できなかったり、ワイヤーなどあまりに細い物体は認識できなかったりするなど、ドローンを安全に自動飛行させる上での課題を熟知しています。これらを踏まえ、屋内建設現場やインフラ施設などを中心に、お客さまと共創してドローン飛行実施における課題抽出を行い、Skydio社と共に課題を解決してきました。この過去からの取り組みと経験が今回の開発にも生かされていると感じています。
また、Skydio社のドローンの障害物回避機能は動く物体には対応しておりません。「DPL」の構造や運営業務の特徴も踏まえた上で、トラックを避けるルート設計の検証を繰り返してきました。こうしてお客さまの業務を深く理解しつつ、ドローンシステム構築の専門性を深め、安全な自動飛行を追求しています」
Skydio社のドローンについてはこちらのページをご覧ください。
無人点検管理システムを社会実装すべく、埼玉県内の「DPL」において2023年から複数の実証実験を重ねてきました。
実証実験で得られた手応えや今後の課題について石川さんは「私たちにとってのゴールは、ソリューションを導入し、お客さまに効果を実感していただくことです。ドローンシステムにおいて今後の鍵となるのは、1日に何回、何時に飛行させるべきか、アラートのメールは即時に出すべきなのかなど、主に運用設計の部分です。お客さまとも入念なすり合わせを繰り返しています」と述べました。
一方、祐源さんは次のように話します。「最近では、ドローンポートの実装や災害現場での活用など、ドローンの話題がニュースになることも増えてきました。しかし、屋内での本格実装は例が少なく、先日の実証実験を多くのメディアに取り上げていただくなど、今回のプロジェクトに対する世間からの関心の高さを実感しています。今後は、SDPF for City側では、お客さまの業務をさらに深堀し、より効率化できる管理ダッシュボードの設計・構築や機能開発、およびブラッシュアップに力を入れていきたいと思っています」
村川さん、祐源さん、石川さんらが率いるチームは「点検業務の3割程度の負担軽減」という目標を掲げ、全国の「DPL」に無人点検管理システムを2025年度から順次導入すべく、歩みを進めています。
また、その効果は人的コストの削減だけでなく、施設を利用するドライバーや入居するテナントへの価値創出にもつながる施策であると祐源さんは強調します。
「人手不足の状況で広大な面積を人が点検する場合、その回数は限られたものになります。ドローンに置き換えることで定期的な点検ができるようになり、さらにSDPF for Cityと連携することで点検時に撮影した画像データが蓄積されていきます。これまでの人による点検で施設の傷が発見された際、テナントやドライバーへの聞き取りや監視カメラ映像の確認に長時間を要していましたが、このシステムによって傷が付いた時間を特定しやすくなり、限られたドライバーへの確認で済むようになります。
深刻なドライバー不足が懸念される2024年問題が、これによって直接解消されるわけではありませんが、多くのドライバーやテナントオーナーの心理的な負担を軽減することに貢献できます。ドライバーの皆さまに『大和ハウス工業の物流施設は働きやすい』と思ってもらえれば『DPL』の付加価値創出にもつながると思っています」
このプロジェクトで発揮されているNTT Comの強みは、ドローンの自動飛行および画像解析の制御PFへの連携、報告書作成まで、点検業務を一気通貫で構築できる総合力だと言えます。また、マルチベンダーとしての将来的な拡張性にも大きな期待が寄せられている、と強調する祐源さん。
「例えば、気象情報を扱うパートナー企業と連携して、豪雨の際などに自動でドローンが飛んで建物を点検するソリューションなど、ユースケースはいくらでも想定できるでしょう。他社とのデータ連携の部分では、私たちはさまざまな業種・業態のパートナーと共創できます。マルチベンダーという強みを生かし、将来的には自動点検システムの機能を拡張し、物流施設に限らず幅広い業界に受け入れていただけるようなソリューションを生み出していきたいと考えています」
※以下の画像はイメージです。実際の運用管理画面とは異なる場合があります。
NTTコミュニケーションズスマートワールドビジネス部 スマートシティ推進室
祐源 一后
少子高齢化や人手不足といった社会課題をマルチロボット最適化ソリューションで解決すべく、よりロボットフレンドリーなスマートシティ作りに貢献できるよう日々取り組んでいます。
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